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応接間には未だ緊張感が漂い、空気が何倍も重くなっていた。
私は赤ん坊の頭をなでながら口を開く。
「ダニエルさん。姉はあなたと浮気をして、王子に隠してこの子を出産しました。王子の婚約者でありながら浮気をして子供まで作るなんて……不貞には程があります」
「そのことは重々承知しております……」
口ではそう言ったものの、ダニエルは反抗ように目に鋭さを灯していた。
「しかし元はといえばあなたのお姉さん……オレンダのせいです。彼女が言葉巧みに僕を誘惑し、この地獄へと叩き落としたのです」
「はい? 確かに姉は口が上手く、そうやって人を小間使いのように考えるところがあります。しかしあなたは姉が王子の婚約者であったと知っていたはずです。それを知りながら姉の誘惑に身を任せたのでしょう? 違いますか?」
怒りを通り越して私はただただ呆れていた。
私の言葉にダニエルは我に返ったように表情になり、小さく息をはく。
「……その通りです。すみません、僕の弱い心がいけないのです……すみません」
今度は本当に反省しているようだ。
ダニエルは俯くと、悔しそうに唇を噛みしめていた。
私は左の窓に目を向け、美しく整えられた庭を見る。
私もあの庭のように美しかったら、もっと違った人生を歩んでいたのだろうか。
「謝っても現実が変わるわけではありません。姉は自分の身を守るために自分が産んだこの子を私が産んだということにしました。姉を溺愛する両親は二つ返事で納得して、私を犠牲にすることに何の躊躇も感じていないようでした。おかげで私は、男遊びが激しい令嬢と使用人たちに噂されています」
「……」
ダニエルは何も言葉を発しなかった。
ただ拳をぎゅっと堅く握りしめていた。
私は俯き、姉が産んだ赤ん坊に目を落とす。
彼は私に懐いて眠っているが、私が本当の母ではないことに気が付いているのだろうか。
「ダニエルさん。あなたも姉の被害者です。身勝手な姉に振り回され、人生を翻弄されたのです。しかしこのままではあなたは公爵家としての評判を失い、最悪の場合には街から追い出されてしまうでしょう。王子の婚約者と関係を持ったのですから」
「そうですね……しかし、僕からこのことを公表すれば少しは罪が軽くなる……あなたはそう言いたいのでしょう?」
絶望の最中にも、ダニエルの思考回路はちゃんと回っているようだ。
私は苦笑すると頷いた。
「その通りです。私だけの声では不十分です。実際に姉と関係を持ったあなたの言葉もあれば、きっと王子は信じてくれるはずです」
「え……王子に告発するのですか?」
「はい……他の方ではおそらく私たちの話を信じてはくれないでしょう。ロイヤル王子ならばきっと私たちの話を信じてくれます。あの方はそういう方です」
一年と半年前。
私はロイヤル王子の婚約者に選ばれた。
それから半年間彼の婚約者として、日々の生活を共にしていたから、私は王子の人柄をちゃんと理解していた。
「そうですか……あなたが言うのならそうなのでしょう。オレンダは言っておりました。自分がロイヤル王子の婚約者になってから、明らかに王子の気分が下がったと。とても悔しそうに」
「え……本当ですか?」
「ええ」
ダニエルの顔色が少しだけ戻っていた。
思わぬ朗報に、私の心臓がドクンと跳ねる。
私は舞い上がった気持ちを抑えるように胸に手を当てる。
そして息をはき、自分を落ち着かせると、口を開く。
「ではダニエルさん。今から私と一緒に王子の元へ向かいましょう。私が会いにいけば彼はきっと会ってくれます」
ダニエルは苦笑すると立ち上がる。
「分かりました。我が家の最速の馬車を用意します」
私は赤ん坊の頭をなでながら口を開く。
「ダニエルさん。姉はあなたと浮気をして、王子に隠してこの子を出産しました。王子の婚約者でありながら浮気をして子供まで作るなんて……不貞には程があります」
「そのことは重々承知しております……」
口ではそう言ったものの、ダニエルは反抗ように目に鋭さを灯していた。
「しかし元はといえばあなたのお姉さん……オレンダのせいです。彼女が言葉巧みに僕を誘惑し、この地獄へと叩き落としたのです」
「はい? 確かに姉は口が上手く、そうやって人を小間使いのように考えるところがあります。しかしあなたは姉が王子の婚約者であったと知っていたはずです。それを知りながら姉の誘惑に身を任せたのでしょう? 違いますか?」
怒りを通り越して私はただただ呆れていた。
私の言葉にダニエルは我に返ったように表情になり、小さく息をはく。
「……その通りです。すみません、僕の弱い心がいけないのです……すみません」
今度は本当に反省しているようだ。
ダニエルは俯くと、悔しそうに唇を噛みしめていた。
私は左の窓に目を向け、美しく整えられた庭を見る。
私もあの庭のように美しかったら、もっと違った人生を歩んでいたのだろうか。
「謝っても現実が変わるわけではありません。姉は自分の身を守るために自分が産んだこの子を私が産んだということにしました。姉を溺愛する両親は二つ返事で納得して、私を犠牲にすることに何の躊躇も感じていないようでした。おかげで私は、男遊びが激しい令嬢と使用人たちに噂されています」
「……」
ダニエルは何も言葉を発しなかった。
ただ拳をぎゅっと堅く握りしめていた。
私は俯き、姉が産んだ赤ん坊に目を落とす。
彼は私に懐いて眠っているが、私が本当の母ではないことに気が付いているのだろうか。
「ダニエルさん。あなたも姉の被害者です。身勝手な姉に振り回され、人生を翻弄されたのです。しかしこのままではあなたは公爵家としての評判を失い、最悪の場合には街から追い出されてしまうでしょう。王子の婚約者と関係を持ったのですから」
「そうですね……しかし、僕からこのことを公表すれば少しは罪が軽くなる……あなたはそう言いたいのでしょう?」
絶望の最中にも、ダニエルの思考回路はちゃんと回っているようだ。
私は苦笑すると頷いた。
「その通りです。私だけの声では不十分です。実際に姉と関係を持ったあなたの言葉もあれば、きっと王子は信じてくれるはずです」
「え……王子に告発するのですか?」
「はい……他の方ではおそらく私たちの話を信じてはくれないでしょう。ロイヤル王子ならばきっと私たちの話を信じてくれます。あの方はそういう方です」
一年と半年前。
私はロイヤル王子の婚約者に選ばれた。
それから半年間彼の婚約者として、日々の生活を共にしていたから、私は王子の人柄をちゃんと理解していた。
「そうですか……あなたが言うのならそうなのでしょう。オレンダは言っておりました。自分がロイヤル王子の婚約者になってから、明らかに王子の気分が下がったと。とても悔しそうに」
「え……本当ですか?」
「ええ」
ダニエルの顔色が少しだけ戻っていた。
思わぬ朗報に、私の心臓がドクンと跳ねる。
私は舞い上がった気持ちを抑えるように胸に手を当てる。
そして息をはき、自分を落ち着かせると、口を開く。
「ではダニエルさん。今から私と一緒に王子の元へ向かいましょう。私が会いにいけば彼はきっと会ってくれます」
ダニエルは苦笑すると立ち上がる。
「分かりました。我が家の最速の馬車を用意します」
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