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兄上が急に戦に行くと言い出し、その代役としてパーティーに出席することになった。
戦好きな兄上の勝手な行動に辟易しながらも、兄らしい理由に誇らしさもあった。
第二王子である僕は兄のように戦いの才能はなかった。
芸術も勉強も大して成果は出なくて、陰では王族の面汚しと呼ばれることもあった。
それにパーティーなんていう華やかな場所が僕は嫌いだった。
目をキラキラと輝かせた貴族たちが愉しむ姿を見ていると、羨ましくもなり、妬ましくもなったから。
しかし兄の代役を拒否するだけの勇気も出来ずに、僕はパーティーに出席をした。
会場につくと、周囲の好奇の目に晒されて、僕は心底ここに来たことを後悔していた。
王宮に普段は籠っている僕が外に出てきて、皆どうやって接していいか分からない様子だった。
僕は複雑な気持ちを抱えながらも、皆の邪魔にならないように会場の隅に移動した。
そこで一人で佇んでいると、ふいに一人の令嬢が目に入った。
彼女は数人の貴族たちと話をしていたが、どこか不安げで浮かない顔をしていた。
隣に立つ良く似た顔の令嬢が豪快に話すのに対して、彼女は作ったような笑顔をこぼすだけで、あまり話には参加していないようだった。
「彼女が気になりますかな?」
いつの間にか隣に、王宮から連れてきた執事が立っていた。
彼は長く伸びた白い髭を指でつまみながら、僕を見ることもなく言葉を続ける。
「彼女は公爵家のフィル嬢。姉はあのオレンダ嬢でございます。ほら隣に立っている……」
「ああ……聞いたことある」
オレンダの名前は時折耳にしていた。
容姿端麗で品行方正な公爵家の令嬢で、縁談が後を絶たないのだとか。
「妹がいたんだね」
「ええ……姉の偉大さに埋もれてしまっておりますが、私の目には彼女こそ価値ある人間のように思います」
「へえ……君がそう言うのなら、相当期待できるんだろうね」
パーティーへの嫌悪感からか、自然と口調が皮肉っぽくなった。
しかし執事は笑いながら、言葉を放つ。
今度は僕の顔をしっかり見て。
「ええ。ロイヤル王子にお似合いの方かと」
「ふーん」
それから数か月後。
国王から縁談相手を決めろと命じられ、僕は物を試すような感覚でフィルを指名した。
縁談は直ぐに承諾され、フィルが王宮へとやってきた。
「ロイヤル王子。この度は私を婚約者に選んで頂きありがとうございます。精一杯頑張りますので、どうぞよろしくお願い致します」
綺麗なカーテシーに僕は言葉を失ってしまった。
今まで見てきた令嬢のそれは、自分を魅力的に見せようと下心が混じった不純を感じるものだったが、彼女のカーテシーは不純が一切なく、とても輝いて見えた。
「あ、ああ……」
僕は確実にこの瞬間、フィルに恋をしてしまった。
恥ずかしそうに頬を赤く染める僕に、フィルは優しく笑いかけていた。
それからの日々は、確かに幸せと呼べるものだった。
フィルは心優しく、僕の内向的な性格にも文句を言うことなく、僕のペースに合わせてくれた。
そんな彼女の気遣いに癒されたのか、僕は昔諦めた芸術や勉強にも挑戦して、次第に上達をしていった。
半年が経つ頃には、僕を王族の面汚しと呼ぶ者は誰一人いなかった。
これも全てフィルがいてくれたおかげだった。
彼女に深い感謝を感じると同時に、愛情も深まっているのを感じていた。
しかし別れは突然に訪れた。
国王に呼ばれ部屋に行くと、そこにはフィルの姉であるオレンダの姿があった。
「ロイヤルよ。今日からお前の婚約者はここにいるオレンダだ。いいな」
「……は?」
唖然となった。
オレンダは作ったような邪悪な笑顔で僕に言う。
「ロイヤル王子。私はフィルとは違って、王子をたくさん喜ばせてあげられますよぉ……だから王子も私のことたくさん愛してくださいね!」
世界から色と音が消えていた。
僕は最後の力を振り絞って抵抗を試みたが、ダメだった。
もう決定したことなのだと国王に言われ、最終的には諦めた。
僕の腕に自分を腕を絡めるオレンダは、見た目こそ美しかったが、内に黒い物を抱えているのが明白だった。
それから一年。
僕の地獄は続いた。
戦好きな兄上の勝手な行動に辟易しながらも、兄らしい理由に誇らしさもあった。
第二王子である僕は兄のように戦いの才能はなかった。
芸術も勉強も大して成果は出なくて、陰では王族の面汚しと呼ばれることもあった。
それにパーティーなんていう華やかな場所が僕は嫌いだった。
目をキラキラと輝かせた貴族たちが愉しむ姿を見ていると、羨ましくもなり、妬ましくもなったから。
しかし兄の代役を拒否するだけの勇気も出来ずに、僕はパーティーに出席をした。
会場につくと、周囲の好奇の目に晒されて、僕は心底ここに来たことを後悔していた。
王宮に普段は籠っている僕が外に出てきて、皆どうやって接していいか分からない様子だった。
僕は複雑な気持ちを抱えながらも、皆の邪魔にならないように会場の隅に移動した。
そこで一人で佇んでいると、ふいに一人の令嬢が目に入った。
彼女は数人の貴族たちと話をしていたが、どこか不安げで浮かない顔をしていた。
隣に立つ良く似た顔の令嬢が豪快に話すのに対して、彼女は作ったような笑顔をこぼすだけで、あまり話には参加していないようだった。
「彼女が気になりますかな?」
いつの間にか隣に、王宮から連れてきた執事が立っていた。
彼は長く伸びた白い髭を指でつまみながら、僕を見ることもなく言葉を続ける。
「彼女は公爵家のフィル嬢。姉はあのオレンダ嬢でございます。ほら隣に立っている……」
「ああ……聞いたことある」
オレンダの名前は時折耳にしていた。
容姿端麗で品行方正な公爵家の令嬢で、縁談が後を絶たないのだとか。
「妹がいたんだね」
「ええ……姉の偉大さに埋もれてしまっておりますが、私の目には彼女こそ価値ある人間のように思います」
「へえ……君がそう言うのなら、相当期待できるんだろうね」
パーティーへの嫌悪感からか、自然と口調が皮肉っぽくなった。
しかし執事は笑いながら、言葉を放つ。
今度は僕の顔をしっかり見て。
「ええ。ロイヤル王子にお似合いの方かと」
「ふーん」
それから数か月後。
国王から縁談相手を決めろと命じられ、僕は物を試すような感覚でフィルを指名した。
縁談は直ぐに承諾され、フィルが王宮へとやってきた。
「ロイヤル王子。この度は私を婚約者に選んで頂きありがとうございます。精一杯頑張りますので、どうぞよろしくお願い致します」
綺麗なカーテシーに僕は言葉を失ってしまった。
今まで見てきた令嬢のそれは、自分を魅力的に見せようと下心が混じった不純を感じるものだったが、彼女のカーテシーは不純が一切なく、とても輝いて見えた。
「あ、ああ……」
僕は確実にこの瞬間、フィルに恋をしてしまった。
恥ずかしそうに頬を赤く染める僕に、フィルは優しく笑いかけていた。
それからの日々は、確かに幸せと呼べるものだった。
フィルは心優しく、僕の内向的な性格にも文句を言うことなく、僕のペースに合わせてくれた。
そんな彼女の気遣いに癒されたのか、僕は昔諦めた芸術や勉強にも挑戦して、次第に上達をしていった。
半年が経つ頃には、僕を王族の面汚しと呼ぶ者は誰一人いなかった。
これも全てフィルがいてくれたおかげだった。
彼女に深い感謝を感じると同時に、愛情も深まっているのを感じていた。
しかし別れは突然に訪れた。
国王に呼ばれ部屋に行くと、そこにはフィルの姉であるオレンダの姿があった。
「ロイヤルよ。今日からお前の婚約者はここにいるオレンダだ。いいな」
「……は?」
唖然となった。
オレンダは作ったような邪悪な笑顔で僕に言う。
「ロイヤル王子。私はフィルとは違って、王子をたくさん喜ばせてあげられますよぉ……だから王子も私のことたくさん愛してくださいね!」
世界から色と音が消えていた。
僕は最後の力を振り絞って抵抗を試みたが、ダメだった。
もう決定したことなのだと国王に言われ、最終的には諦めた。
僕の腕に自分を腕を絡めるオレンダは、見た目こそ美しかったが、内に黒い物を抱えているのが明白だった。
それから一年。
僕の地獄は続いた。
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