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王宮に馬車を停めると、メイドと共に数人の兵士が待ち構えていた。
私とダニエルは緊張した面持ちで馬車から降りる。
姉が産んだ赤ん坊は実家に預けていた。
「フィル様。お待ちしておりました。ロイヤル王子から入室の許可を頂いたので、お部屋までご案内しますね」
メイドの声に、ダニエルが私に小さな声で耳打ちをする。
「本当に通してくれるなんて驚いたよ」
私は彼の言葉を無視して、メイドの後ろについていく。
私たちを囲むように兵士も一緒についてきて、それを見たダニエルは真っ青になりながらも、懸命に足を動かしていた。
久しぶりに入る王宮は記憶の通りだった。
忙しなく廊下を移動する使用人やメイドに、時折身を豪華絢爛に飾った令嬢や令息も歩いていた。
私は心臓がドクドク脈打つのを感じながら、メイドについて歩を進める。
程なくしてロイヤル王子の部屋の前に到着した。
どうやら王子は応接間ではなく、自室で話を聞いてくれるらしい。
メイドが扉をノックして用件を伝えると、中からロイヤル王子の声が聞こえてきた。
「入ってくれ」
久しぶりに聴いた最愛の人の声に、私は胸が熱くなるのをはっきりと感じる。
しかし冷静さを欠くわけにもいかずに、その想いはそっと胸の奥にしまいこむ。
メイドが扉を開けると、私とダニエルはゆっくりと中に入った。
応接間ほどの広さを持つロイヤル王子の自室は、大半が本で埋め尽くされていた。
本棚をはみ出した本が床に山積みになっていて、それが私には懐かしく、思わず目頭が熱くなる。
「フィル。久しぶりだね。元気だったかい?」
私の大好きな優し気で穏やかな声。
ロイヤル王子は椅子から立ち上がると、私の前まで歩いてきて笑顔を浮かべた。
しかしすぐに私の顔色が良くないことを悟り、心配そうな目になる。
「……どうやら元気じゃないみたいだね。僕に話って……何かあったのかい?」
いっぱい家で練習をしてきたはずだったが、土壇場になって上手く声が出せない。
私は自分を落ち着かせるために深呼吸をすると、震える声のまま言葉を紡ぐ。
「ロイヤル王子。あなたに話さなければいけないことがあります。私の姉であなたの婚約者オレンダのことについてです……」
「オレンダのこと?」
王子が顔を歪めた瞬間、部屋の扉が勢いよく開き、姉のオレンダが現れた。
「ロイヤル王子! 来週の私の誕生日はエメラルドの宝石が……ん?」
姉は私とダニエルの存在に気づいたようで、一瞬顔を青くする。
しかし次の瞬間には、表で見せるような作った笑顔を浮かべた。
「あら、フィルにダニエル。どうしたの?」
そう言って姉は私に近づいてくると、氷にように冷たい視線を向けてきた。
私は背中に悪寒が走るが、勇気を振り絞り口を開く。
「お姉様のことをロイヤル王子にお伝えするために来ました。あなたの本性を」
「……はい?」
首を傾げる姉から視線を逸らすと、私は王子の方に向き直る。
「ロイヤル王子。どうか落ち着いて聞いてください。私の姉オレンダはここにいる公爵令息ダニエルと浮気を致しました。そして秘かに子供を出産したのです」
「え……」
ロイヤル王子の顔が一瞬で固まった。
しかし私の話が信じられないのか、すぐに苦笑をこぼす。
「えっと……ど、どういうことだい? オレンダが浮気して出産? えっと……」
困惑する王子に私は言葉を続ける。
「一度姉が病気で実家に帰った時期があったと思います。あの時に姉はダニエルとの子を妊娠していて、私の実家で産んだのです。その後、姉は王宮に戻り、産まれた子は私が育てております。私の子として」
私とダニエルは緊張した面持ちで馬車から降りる。
姉が産んだ赤ん坊は実家に預けていた。
「フィル様。お待ちしておりました。ロイヤル王子から入室の許可を頂いたので、お部屋までご案内しますね」
メイドの声に、ダニエルが私に小さな声で耳打ちをする。
「本当に通してくれるなんて驚いたよ」
私は彼の言葉を無視して、メイドの後ろについていく。
私たちを囲むように兵士も一緒についてきて、それを見たダニエルは真っ青になりながらも、懸命に足を動かしていた。
久しぶりに入る王宮は記憶の通りだった。
忙しなく廊下を移動する使用人やメイドに、時折身を豪華絢爛に飾った令嬢や令息も歩いていた。
私は心臓がドクドク脈打つのを感じながら、メイドについて歩を進める。
程なくしてロイヤル王子の部屋の前に到着した。
どうやら王子は応接間ではなく、自室で話を聞いてくれるらしい。
メイドが扉をノックして用件を伝えると、中からロイヤル王子の声が聞こえてきた。
「入ってくれ」
久しぶりに聴いた最愛の人の声に、私は胸が熱くなるのをはっきりと感じる。
しかし冷静さを欠くわけにもいかずに、その想いはそっと胸の奥にしまいこむ。
メイドが扉を開けると、私とダニエルはゆっくりと中に入った。
応接間ほどの広さを持つロイヤル王子の自室は、大半が本で埋め尽くされていた。
本棚をはみ出した本が床に山積みになっていて、それが私には懐かしく、思わず目頭が熱くなる。
「フィル。久しぶりだね。元気だったかい?」
私の大好きな優し気で穏やかな声。
ロイヤル王子は椅子から立ち上がると、私の前まで歩いてきて笑顔を浮かべた。
しかしすぐに私の顔色が良くないことを悟り、心配そうな目になる。
「……どうやら元気じゃないみたいだね。僕に話って……何かあったのかい?」
いっぱい家で練習をしてきたはずだったが、土壇場になって上手く声が出せない。
私は自分を落ち着かせるために深呼吸をすると、震える声のまま言葉を紡ぐ。
「ロイヤル王子。あなたに話さなければいけないことがあります。私の姉であなたの婚約者オレンダのことについてです……」
「オレンダのこと?」
王子が顔を歪めた瞬間、部屋の扉が勢いよく開き、姉のオレンダが現れた。
「ロイヤル王子! 来週の私の誕生日はエメラルドの宝石が……ん?」
姉は私とダニエルの存在に気づいたようで、一瞬顔を青くする。
しかし次の瞬間には、表で見せるような作った笑顔を浮かべた。
「あら、フィルにダニエル。どうしたの?」
そう言って姉は私に近づいてくると、氷にように冷たい視線を向けてきた。
私は背中に悪寒が走るが、勇気を振り絞り口を開く。
「お姉様のことをロイヤル王子にお伝えするために来ました。あなたの本性を」
「……はい?」
首を傾げる姉から視線を逸らすと、私は王子の方に向き直る。
「ロイヤル王子。どうか落ち着いて聞いてください。私の姉オレンダはここにいる公爵令息ダニエルと浮気を致しました。そして秘かに子供を出産したのです」
「え……」
ロイヤル王子の顔が一瞬で固まった。
しかし私の話が信じられないのか、すぐに苦笑をこぼす。
「えっと……ど、どういうことだい? オレンダが浮気して出産? えっと……」
困惑する王子に私は言葉を続ける。
「一度姉が病気で実家に帰った時期があったと思います。あの時に姉はダニエルとの子を妊娠していて、私の実家で産んだのです。その後、姉は王宮に戻り、産まれた子は私が育てております。私の子として」
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