最愛なんて嘘なので

杉本凪咲

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 窓から見上げた空には、煌々とした満月が浮かんでいた。
 私はカーテンを引くと、ベッドに横になる。

 今日、私はここで死ぬ。
 モンドの代わりに私が死ぬ。
 最愛の彼のためだ、怖くはない。

 目を閉じる。
 脳裏にはあの未来視で視えた、忌々しい未来の光景が浮かんだ。
 
「モンド様……愛しています」

 激しい雨音だけが聞こえていた。
 それを子守唄にして、私は眠ろうと努めた。
 しかし自分が殺されると分かっていて、すんなり眠れる人間はいない。
 私もその一人だったみたいだ。

 ……どれくらい時間が経ったのだろうか。
 どこからか足音が近づいてくる。
 そして、ギィィと扉が開けられた。
 
「はぁ……ふっ……はぁ……」

 荒い息遣いが聞こえてくる。
 あぁ、もう来たのね。
 誰かは分からないが、女性の息遣いだった。

 未来は変えられない。
 誰かが死ななくてはいけない。
 ならば私が死のう。
 幸せをたくさんくれた彼のために。

「あら、モンドはいないのね……まぁいいか……」

 体中に緊張が走る。
 仰向けに寝ている私が瞼を開けば、おそらく犯人をみることができる。
 しかし、その勇気は依然湧いてこない。

「ラファエル……あなたが悪いのよ、あなたが私から彼を奪ったから……」

 奪った……もしかして彼女はエルダだろうか。
 確か彼女はモンドの許婚だった。
 私のせいでモンドとの許嫁は解消されたのだ、恨まれて当然だ。

「ふぅ……死ねラファエル……し、死ねぇ!」

 モンド様。
 今までありがとうございました。
 最期の言葉を心の中で呟いたその時だった。

「やめろエルダ!!!」

 モンドの声が扉の方からして、私は目を開けた。
 ナイフを振り下ろすエルダが目に映り、反射的に体をのけぞらせる。
 ナイフは私の脇腹をかすめ、強烈な痛みが走る。

 エルダはモンドを睨みつけ、叫んだ。

「モンド! 一歩でも動いてみろ! この女の命は……」

「ラファエル!!!」

 しかしモンドにはエルダの声が聞こえていないようで、鬼のような形相でエルダに突進した。
 私は脇腹からの出血で意識が朦朧としながらも、モンドとエルダが衝突するのを瞳に映した。

「うっ……!」

 エルダは衝撃で壁の方に吹き飛んだが、その手にはナイフは握られていなかった。
 私は恐る恐るモンドへ目を移す。
 彼の腹にナイフが突き刺さっていて、そこから液体が流れていた。

「モンド……」

 私はベッドから抜け出そうともがくも、痛みで上手く体が動かせなかった。
 モンドはその場に片膝をつくと、息を荒くした。
 
「ふふっ……あんたたちが悪いのよ……あんたたちが私を不幸にしたから……」

 エルダは立ち上がると、不気味な笑みを浮べていた。

「あんたたちは死ぬ運命だったのよ! 死ね! 死ね死ね!」

 意識がどんどん遠くなっていく。
 視界にはこちらを苦しそうに見つめるモンドの顔が映り、耳にはたくさんの足音が聞こえてきた。

 私はモンドに手を伸ばすが、その途中で意識を完全に失った。
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