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「伊坂君が留守にしてから暫く経ちますが、最近どうです?変わりはありませんか」
ダンジョンの入り口で学生証を提示し入場の許可が出たところで、そう声を掛けられた。
この人は、ダンジョン管理人をしている安宅総司さん。
顔見知り程度ではあるけど一応『記憶』の関係者。だけど、ダンジョン管理人というダンジョンに出入りする以上どうしても避けられない相手だから、通っている頻度もあって結構親しくなってしまった。
学園内での立場は校務員。学園内の点検、見回りもしているらしい。ここ以外では会うこともないけど。
ちなみに例の装備に苦言を呈した人とは別の人。
「特にないですね。一人、今後の付き合いを無くそうと思う人はいますが」
「ほう。それはまた」
「無様に自爆しただけですけど。何かしようとしてきたのは事実ですし」
もちろん皐月さんのことだ。あれからぱったりと見かけない。
行動を起こしたのは別の生徒だろうと、唆したのなら同罪だからかな?
あの様子じゃあそれが正しいような気がする。
「それで正解でしょう。気を付けるんですよ。最近、面倒な問題を起こす生徒が多いので」
「はい。分かりました」
ぺこりとお辞儀をし、ダンジョンへ入る。
一気に40階層に行ってしまおう。
今日は少し、暴れたい気分だ。
40階層、ボス部屋のスライムを倒し、クリア報酬の宝箱を開ける。
こういうところは『記憶』にあるゲームみたいなんだよな。
まあ実際は、現実はゲームのように甘くはない。
多くの生徒は上層の動物の相手にも苦戦していて、ゲームでは雑魚と言われるゴブリン、スライム、コボルト相手に多くの犠牲が出ている。
それ以上の敵とは、渡り合える者もいるが立ち向かえない者の方が多いようだ。このダンジョンでもそう。
―――――― 今の平穏は、仮初だ。
そのことに一体どれほどの人間が気付いているのだろう。
「広範囲魔法の本、か」
回数制限はあるが、威力が高いし効果範囲も広い。例の階層で使ったものだ。
正直此処に来る前に欲しかった物だな。あの階層ではいくつあってもいいから。
小さく溜息を吐き、魔法収納に入れる。
バレたら確実に学園側に取り上げられる代物なので。
「やっぱり便利だな、鑑定スキル」
あるとないとでは、物の取捨選択に大きな差が出る。例え、得られる情報が限定的であっても。
僕が持っている鑑定スキルはつい最近取得したもので、その名を『鑑定(ドロップ)』という。『自分がダンジョンで取得した物のみ鑑定できる』という本当に限定的なものだ。
僕はソロだから、こんな限定であってもなんの問題もない。そのうちスキル進化してもっと範囲が広がる可能性もあるし。
ちなみに。どういう理屈かは分からないけど、自分のことは鑑定できる。簡単にだけど。
一番助かったのは、多分これだ。自分の能力は早々調べることはできない。
稀に授業で調べることがあるんだけど、僕は授業には出ていないから。どうしてもという時以外。
そういう時は担任が呼びに来る。今までに数えるほどしかないけどね。
ちなみにこの鑑定スキル、その重要性から所持している者は国に強制徴収される。
それが嫌なら、隠し通すしかない。
当然ながら僕は隠す方を選んだ。強制徴収された先でどうなるかは分からないけど、嫌な予感がするから。
便利過ぎる能力は、利用されるのが常だ。
―――――― さて、41階層だ。
ここは樹海型のフィールドの上、ずっと夜だ。視界は全くと言えるほど利かない。
出てくるモンスターは殆んどが亜人種。頭部は獣や異形であるものが殆どだが、人に近い姿をしている。心理的にとても戦い辛い。まるで、人を殺しているみたいで。
だからここで戦闘をしていた調査隊の中には、心を病んで離脱した者も居たらしい。
ゴブリンやコボルトを越えてはきているけど、あそこはそういうことを考えている隙が無いからなー……。
僕はと言えば、スキルの恩恵もあってなんとか戦えている。精神異常耐性とか、精神苦痛耐性とか。
それ以外にも、『称号』というのも恩恵を与えてくれている。
いつからあったのか、それは分からない。気付いたらあった。
『人間不信』と『孤高』と『識者』の3つ。
一つを除いてもやっとするところもあるが、まあ、どうしてそれがあるかは理解できるし、有用だから放っておいている。
「定点狩りでいいか」
41階層の入り口から少し外れた場所で、樹上に陣取る。
僕の現在の戦闘スタイルは、基本的に隠密からの遠距離射撃だ。
以前は近接格闘をメインにしていたが、26階層からの状態異常の多さと現在のメイン武器である弓を手に入れてからそうなった。
まあ、状況によって切り替えてはいるんだけど。
どちらの戦い方にも長所と短所がある。ただ幸いに、どちらもお互いに補い合える。だから両方使い続けるのが正解だ。モンスターの攻撃は、人間が考えている以上に多種多様なものだ。41階層に出入りするようになってから、本当にそう思う。
40階層までは本能のままにという感じだけど、41階層の亜人達は知性が見られる。それこそ、人間と同等程度の。
そこにモンスターの、人間にはない身体能力やスキルを重ねてくるのだから、本当に洒落にならない難易度だ。深入りは絶対にできない。
せめて一人でも一緒に行動できる相手がいればと思うけど、命のやり取りをするこの場で信用できる相手は今のところ居ない。
強いて言えば伊坂さんだけど、確か友人とのパーティで20階層前後で狩っているらしいし、そもそも戦闘系じゃないから無理は言えないな。
あとバレたら説教がやばい。絶対。
だから、秘密ばかりが増えている。
ダンジョンの入り口で学生証を提示し入場の許可が出たところで、そう声を掛けられた。
この人は、ダンジョン管理人をしている安宅総司さん。
顔見知り程度ではあるけど一応『記憶』の関係者。だけど、ダンジョン管理人というダンジョンに出入りする以上どうしても避けられない相手だから、通っている頻度もあって結構親しくなってしまった。
学園内での立場は校務員。学園内の点検、見回りもしているらしい。ここ以外では会うこともないけど。
ちなみに例の装備に苦言を呈した人とは別の人。
「特にないですね。一人、今後の付き合いを無くそうと思う人はいますが」
「ほう。それはまた」
「無様に自爆しただけですけど。何かしようとしてきたのは事実ですし」
もちろん皐月さんのことだ。あれからぱったりと見かけない。
行動を起こしたのは別の生徒だろうと、唆したのなら同罪だからかな?
あの様子じゃあそれが正しいような気がする。
「それで正解でしょう。気を付けるんですよ。最近、面倒な問題を起こす生徒が多いので」
「はい。分かりました」
ぺこりとお辞儀をし、ダンジョンへ入る。
一気に40階層に行ってしまおう。
今日は少し、暴れたい気分だ。
40階層、ボス部屋のスライムを倒し、クリア報酬の宝箱を開ける。
こういうところは『記憶』にあるゲームみたいなんだよな。
まあ実際は、現実はゲームのように甘くはない。
多くの生徒は上層の動物の相手にも苦戦していて、ゲームでは雑魚と言われるゴブリン、スライム、コボルト相手に多くの犠牲が出ている。
それ以上の敵とは、渡り合える者もいるが立ち向かえない者の方が多いようだ。このダンジョンでもそう。
―――――― 今の平穏は、仮初だ。
そのことに一体どれほどの人間が気付いているのだろう。
「広範囲魔法の本、か」
回数制限はあるが、威力が高いし効果範囲も広い。例の階層で使ったものだ。
正直此処に来る前に欲しかった物だな。あの階層ではいくつあってもいいから。
小さく溜息を吐き、魔法収納に入れる。
バレたら確実に学園側に取り上げられる代物なので。
「やっぱり便利だな、鑑定スキル」
あるとないとでは、物の取捨選択に大きな差が出る。例え、得られる情報が限定的であっても。
僕が持っている鑑定スキルはつい最近取得したもので、その名を『鑑定(ドロップ)』という。『自分がダンジョンで取得した物のみ鑑定できる』という本当に限定的なものだ。
僕はソロだから、こんな限定であってもなんの問題もない。そのうちスキル進化してもっと範囲が広がる可能性もあるし。
ちなみに。どういう理屈かは分からないけど、自分のことは鑑定できる。簡単にだけど。
一番助かったのは、多分これだ。自分の能力は早々調べることはできない。
稀に授業で調べることがあるんだけど、僕は授業には出ていないから。どうしてもという時以外。
そういう時は担任が呼びに来る。今までに数えるほどしかないけどね。
ちなみにこの鑑定スキル、その重要性から所持している者は国に強制徴収される。
それが嫌なら、隠し通すしかない。
当然ながら僕は隠す方を選んだ。強制徴収された先でどうなるかは分からないけど、嫌な予感がするから。
便利過ぎる能力は、利用されるのが常だ。
―――――― さて、41階層だ。
ここは樹海型のフィールドの上、ずっと夜だ。視界は全くと言えるほど利かない。
出てくるモンスターは殆んどが亜人種。頭部は獣や異形であるものが殆どだが、人に近い姿をしている。心理的にとても戦い辛い。まるで、人を殺しているみたいで。
だからここで戦闘をしていた調査隊の中には、心を病んで離脱した者も居たらしい。
ゴブリンやコボルトを越えてはきているけど、あそこはそういうことを考えている隙が無いからなー……。
僕はと言えば、スキルの恩恵もあってなんとか戦えている。精神異常耐性とか、精神苦痛耐性とか。
それ以外にも、『称号』というのも恩恵を与えてくれている。
いつからあったのか、それは分からない。気付いたらあった。
『人間不信』と『孤高』と『識者』の3つ。
一つを除いてもやっとするところもあるが、まあ、どうしてそれがあるかは理解できるし、有用だから放っておいている。
「定点狩りでいいか」
41階層の入り口から少し外れた場所で、樹上に陣取る。
僕の現在の戦闘スタイルは、基本的に隠密からの遠距離射撃だ。
以前は近接格闘をメインにしていたが、26階層からの状態異常の多さと現在のメイン武器である弓を手に入れてからそうなった。
まあ、状況によって切り替えてはいるんだけど。
どちらの戦い方にも長所と短所がある。ただ幸いに、どちらもお互いに補い合える。だから両方使い続けるのが正解だ。モンスターの攻撃は、人間が考えている以上に多種多様なものだ。41階層に出入りするようになってから、本当にそう思う。
40階層までは本能のままにという感じだけど、41階層の亜人達は知性が見られる。それこそ、人間と同等程度の。
そこにモンスターの、人間にはない身体能力やスキルを重ねてくるのだから、本当に洒落にならない難易度だ。深入りは絶対にできない。
せめて一人でも一緒に行動できる相手がいればと思うけど、命のやり取りをするこの場で信用できる相手は今のところ居ない。
強いて言えば伊坂さんだけど、確か友人とのパーティで20階層前後で狩っているらしいし、そもそも戦闘系じゃないから無理は言えないな。
あとバレたら説教がやばい。絶対。
だから、秘密ばかりが増えている。
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