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第一章 悪役神子様、改めラスボスです☆

3-2

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 なーんて、息巻いていた俺でしたが大変場違いな家に潜り込みました。


「ここだ」
「へ……?」


 なんということでしょう。

 猊下が住んでいる場所はここらで知らない者はいない、かの有名な公爵様のおうちではありませんか!

 奉仕活動の一環として、孤児院の寄付、医院の設立等々模範的なノブレスオブリージュを行っている大貴族。その上、俺が生まれる前、この王国に突如として現れた竜を倒したとされる英雄が当主である。

 きゅっと俺は口を閉じる。広い庭を馬車で通り、漸く屋敷の玄関が見えた。御者が扉を開いて、猊下が先に降りる。そして慣れたようにすっと手を差し出した。


「少し高いから気をつけろ」

 はー、貴族として育てられてるから所作が美しいですね!まあ、昔から猊下は気品溢れる御仁ではありましたが!お陰で猊下に憧れる人たちが後を絶たなかった。猊下は容姿もさることながら、まさしく聖人君子を笠に着た御方である。

 そんな御方の様になっている行動に、思わず惚けてしまうがはっとして首を振る。


「俺の手汚いので……」


 そう、忘れてはいけないのが俺は今汚い孤児。こんな綺麗な馬車に乗せて貰っているだけで過分なのに、猊下の綺麗で玉のような肌を汚したらいけない。

 だから俺は、彼の手を取れないことを伝える。するとじっと俺を見つめた猊下がこてんと首を傾げた。
 何それ、可愛いんだが。俺を悩殺してどうするの!!


「じゃあ、どうやって降りるんだ?」


 至極真面目に彼がそういうもんだから、一瞬そんなに特殊な降り方が必要なのかと勘違いしそうになる。ただ単に、馬車から降りるだけなのにそんなものがあるわけがない。作法とかは分からないのでそこは目をつぶって貰いたいが……。


「普通に降りられます!」
「そうか」


 猊下に俺はそう言って手を貸す必要がない事を伝える。すると、思いのほかあっさりと猊下は引き下がった。まあ、単に親切心から手を差し伸べてくれたのだろう。そういうのは、猊下が好きな人にやってくれ。
それに、今年で一応俺も12、3歳くらいの男の子だ。人より小さいとはいえ、これぐらいの馬車一人で降りられる。

 俺は軽く猊下の心遣いに苦笑をしつつ、一歩足を踏み出す。その瞬間がくっとバランスを崩した。何故かって?自分の予想よりも遙かに地面が遠かったのである。

 まじか!こんなに馬車高かったのか!

 予想できる衝撃に身を固くする。すると、俺が転ぶ前に猊下の手が伸びて俺を抱きしめた。簡単に彼の細腕にすっぽり収まる。

 俺よりも背が高く年上で、俺がガリガリで痩せ細っているからってこんな簡単に受け止められるものなのか……?もしや、猊下ハイスペでは……?
 困惑でそんなあほなことを考えつつも、お礼を言おうと口を開き体が浮いた。


「!?」
「行くぞ」
「いや、え!?」


 肩に俺は担がれていた。この運び方には大変覚えがある。いつも猊下が俺をかっぱらうための運び方だ。主に、面倒な相手に呼び止められてくどくどと説教を受けているときに発動する。

 「この者に話がありますので失礼」と持ち上げるのだ。いつもいつも俺は、待って、成人男性の運び方じゃない。お姫様抱っこしてとは言わないが肩痛くするかもしれないから今すぐやめた方が良い!!と心の中で思っていた。

 それがなぜか、今行われている。抵抗して俺が落ちるのはかまわないが、猊下に怪我をさせてしまうかもしれない。そう考えてがちっと固まってしまうと、ふっと猊下が少し笑った。


「変わらないんだな。そういうところは」


 彼がそう言ってくすくすと笑い声を上げる。なんで笑っているか知らないが、貴重な一面な気がすると俺の勘が囁いていた。

 そして俺は、その格好のまま綺麗なお屋敷に連れて行かれるのである。
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