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第二章 やめてー!!俺の屑を連れて行かないでぇ!!!

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 俺はロズリーに気づかれないように、一度あの場所に戻った。ロズリーの動向を見るに宝石を買い終えて、帰ってきたようだった。いくつか自分の部屋に希少価値の高い宝石を運んだ後、自分が持って行った宝石よりも価値の下がるものを持って俺の前に現れたのだ。


「可哀想なお前に、カロシェーン様から贈り物だよ」
「!」


 そこで察した。

 はっは~ん。お前それ俺にあげるものとして猊下に頼まれてたんだな?前と同じように猊下、俺に宝石をあげようとしてたのか!そうかそうか。要らないけど、もらえるなら貰うよ!なんせこれは実質、ロズリーの賄賂だからね!!

 前の時も彼は堂々と自分には高いもの俺には安いものを猊下からだといって持ってきた。はじめは猊下騙されてる!?と焦ったのだが、ロズリーが適正価格で、猊下から貰ったお金で一番高い宝石を買い、残りの余ったお金で俺に贈る安い宝石を買っていた事が分かったのだ。や、やるなぁ、と俺は宝石の価値が分からないふりをしながらそれを受け取っていたのだが、今回もその手を使うとは……。

 なんて嬉しい誤算!!流石屑!しばらくは、猊下がこの子に俺のものを買うように指示すれば適当に扱ってくれるだろう。最高!!

 ちょっと、他の人の買い物だったらどうしようかと思ったけど、流石にそこまでのリスクを負って横領はしなかったようだ。安心した。


「きらきらだ~! 初めて見た!!」


 にこにこと外見の年齢に合わせて俺は無邪気を装ってそう言った。するとロズリーが鼻で笑い、一緒に買ってきただろう箱も渡す。その中に乱雑にその宝石を入れた後にしっかりと鍵をかけて自分のポケットにしまった。


「いーい? これは高価なものだから盗まれないように僕がしっかり管理するけど、そのことはカロシェーン様に言っちゃだめだからね?」


 成る程、この箱に入れて鍵かけておけば中に何が入ってるかわかんないもんね。この箱自体はお金がかかってる装飾付だし、誰も中身が安い宝石だなんて思わないだろう。前までは猊下と一緒に暮らしていないからばれる危険性はなかったけど、今回はそうもいかない。隠し場所をどうしようか悩んでいたところなので大変助かる。

 俺はにこーっとロズリーに向かって笑顔を見せる。


「うん、分かった!!」
「あっそ。じゃあそろそろカロシェーン様が帰ってくるから玄関に向かうよ」
「うん!」


 ロズリーは俺にその箱を押しつける。俺は大事にそれを抱えながら終始ニコニコだ。ロズリーからすればなんの価値も分からない子供に見えるだろう。俺を馬鹿にして嘲笑している。そんなもの、どんとこい。末永く、お世話してくれよ!!君には期待してるぜ!


 ロズリーに手を引かれ、俺は玄関で猊下待ちなのだが、この箱結構重い。俺の趣味じゃないギラギラの箱。こんなのが今流行ってるのかと思うと若者はよく分からないと年寄りみたいな感想が出る。実際にトータルだと年齢お爺ちゃんだからあながち間違いではないのだけれど。

 立っているのも辛くなってきて、猊下来るまでちょっと休もうかなとその場で座り込むと「ちょっと!!」とロズリーが俺の腕を引っ張って無理矢理立たせた。


「こんなところで座らないでよ! 今まではその振る舞いが許されたかもしれないけどこの家でそんなみっともない行動しないで! これだから――」
「あ!!!! リュネお兄様だ!!!!」


 俺はロズリーの声に被せて大きな声を出した。いや、俺が軽率だったのが悪いんだけど、普通にリュネお兄様がひょっこり現れて心臓が止まるかと思ったよ。だから俺はすぐに説教という名の罵倒を繰り出す前にやめとけ!!とストップをかけた。幸いなことに距離があったので恐らくリュネお兄様に聞かれていないだろう。俺の言葉にすぐロズリーが気づいて腕から手を離し、俺の視線の先を見つめて頭を下げた。

 あっぶねええええ!!俺のクズ侍従が消えるところだった!!首の皮一枚でつなぎ止めた!!

 これからは常に周りに誰がいるか「魔術」を使っておかないとだめだな。いつ何が起こるか分からん。

 一人で慌てながらわーっとリュネお兄様に甘えるようにてってってと彼に向かってかけていく。そんな俺に気づいて、リュネお兄様が床に膝をつき手を広げてくれる。俺はその腕の中に迷わず飛び込んでにこーっと笑顔を見せると同じようにニコニコ笑顔のリュネお兄様が俺を抱きかかえた。


「カロのお迎え?」
「うん!」
「そっかぁ! うらやましいなぁ、僕もアルにお出迎えして貰いたい~」
「リュネお兄様がお外に行くならいつでもお出迎えするよ?」
「がわいいいいいっ!!!!」


 それからくるくる回る。くるくるくるくる……。あ、あの、ご機嫌なのは分かったんだけど目が、目が回る!!リュネお兄様、俺が可愛いのは分かったから勘弁して!!

 あと少しで具合が悪くなると言ったところでリュネお兄様は俺の腕の中のものに気づいた。


「ん? あれ? その箱どうしたの?」
「あ! お兄ちゃんからプレゼントだって!!」
「へー? 見ても良い?」
「だめ! これは俺の大事なもの入ってるの!!」
「え~? そっかぁっ!!」


 漸くぐるぐるから解放されて俺はそう答えた。するとじっとリュネお兄様がそれを見つめてそう聞いてくる。俺は慌ててそう言ってさっと鍵穴が見えないように自分の方に抱え込む。これを見られて鍵見せて~とか言われたら俺が困る。だって鍵持ってるのはロズリーだから。

 できるだけ子供っぽくそう言うとリュネお兄様は何も疑わずに納得した。良かった~。俺に甘いリュネお兄様で良かった~。


「アルの柔らかほっぺ……。癒やされる……」
「ぅむん……」


 むにむにっとリュネお兄様が俺のほっぺを片手で掴み無限に押してくる。猊下がいればぶん殴られてるか蹴られているところだ。触るな、近づくなと。

 だからか、これ幸いとばかりにリュネお兄様は俺のほっぺを堪能している。いいんだ。俺の頬でこの箱から意識がそれるなら……。

 そう思っているとふふふっとロズリーが笑い声を上げる。俺とリュネお兄様がそちらを見ると彼はふわりと可愛らしい笑みを浮かべた。


「仲が良いんですね。アルカルド様、可愛らしいからよく分かります~」
「分かる? 可愛いよね~。あ、勿論、ロズリーも可愛いよ!」
「ありがとうございます! リュネシェーン様!」


 彼らのこの気安い関係を見るに、やはりロズリーはこの公爵家に仕えて長いようだ。小説設定から考えるに、幼なじみ的ポジションなのかも。結局は、この家から出て行って宮廷付きの使用人になるんだから大出世だよな~。まあ、色々やらかして最終的に追い出されるけど。


「ずっとここにいたいけど、カロが帰ってきたら怒られるので退散します……。ロズリー、アルのことよろしくね」
「お任せください、リュネシェーン様!」
「ばいばいリュネお兄様!」
「バイバイー!!」


 手を振るとぶんぶんとリュネお兄様も手を振り返す。そうしてリュネお兄様は、名残惜しそうに何度も振り返りながら去って行く。ロズリーも同じようにニコニコ手を振っていた。

 リュネお兄様の姿が見えなくなり、俺は箱を抱え直すがその前にロズリーに取られる。


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