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第三章 君が考える最も美しい人の姿がこれなの?

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 俺はベットから起き上がって、適当な枕を突っ込む。それを魔法で自分の姿に変えた後に、窓を開けてそこから飛び降りた。


 ふわりっと衝撃を感じさせないように柔らかく俺を受け止めたのはジエンだ。計画通り、これから俺はフラウと合流し、メイクアップして舞踏会に参加する。


 確か合流場所は……。


「えーっと……」
「ここですね」
「……え?」


 コイヨンから貰った紙に書いてあった住所とマップを照らし合わせているとジエンが連れてきたのはここらでは有名なブティックだった。目を引くデザインがショーケースに並び、デザイナーにとって唯一無二の存在であるミューズが同じ人物だという。


 複数のデザイナーが同じミューズをもつとなれば、アイデアが被るのではないかと思いきや、全く別物の服が完成するのだ。そのお陰で目の引く服が沢山並び、連日、人で賑わっているという。一点ものを頼むとなると一ヶ月待ちらしい。


 そんな場所になんで俺が……。いやまさか、あの服ってもしかして……。
 営業時間も終わり、カーテンも閉められていたがジエンがその扉を軽く叩くとぱっと中が明るくなって扉が開かれた。


「ようこそ、お待ちしておりました」


 ふわりと笑みを浮かべて、一人の男が出迎えた。俺たちはその歓迎を受けて中に入るとそこにはフラウと五人の男がいた。


 えーっと、俺こんなに協力者が増えるとは聞いてないんだけど……?


「あ、あの、えーっと……」
「事情は聞いております。フラウ、早くしなさい。時間がありません」
「はーい」


 俺を出迎えた男がそういうと俺は下に落とされ、フラウの魔法で大きくなる。この容姿になった瞬間複数の方向から息をのむ音が聞こえた。何か変なところでもあっただろうかと自分の姿を見るが特に変なところは無い。


 ああ、この容姿が美人だから……?


 俺はそんなことを思いながら奥のドレッサールームに連れられて服に着替えた。よし、これで準備完了と思ったら何故か、俺はドレッサーの前に座っていた。


「???」
「今から我々の手で簡単にセットをしていきます。すぐに終わりますので気を楽にして下さいね」
「え、あ、お願いします……?」
「はい、お任せ下さい」


 そういうとすっと五人の男達がメイク道具やら髪型セットの道具やらを手にして近づいてきた。


 え?あ、あれ?俺適当な髪飾りをつけて服着替えるだけだと思ったんだけど、あの、その……。


 俺はジエンを見る。彼はさっと視線をそらした。今度はフラウを見た。にこっと笑みを浮かべるだけで何も言わない。


 俺は諦めて目の前の鏡に映っている自分をひたすら見つめることに集中した。


***


 疲れた。舞踏会に行くのにこんなに準備が必要だったなんて。俺はただ猊下を守りたいだけなのに……。


「かんっぺき!!」
「全てが霞む美しさです!!」
「舞踏会の主役は絶対に貴方様です!!」


 年が若めの三人の男の子達がそういってきゃあきゃあ褒めてくれる。俺はそれにお礼を言いつつ、あなたたちの腕が良かったと褒め返す。すると三人は固まって次の瞬間ボロボロ泣き出してしまった。


「え、お、俺なんか変なこと……っ!?」
「そんなことはありません。あまり褒められ慣れていなくて驚いただけです。申し訳ありませんが、下がらせていただいてもよろしいでしょうか?」
「も、勿論です!!」


 俺がそういうと出迎えたその男が一礼して三人を奥につれていく。大丈夫かな。プロの店だから厳しいのかな?


「失礼したしました、最後の仕上げに入ります」
「あ、よろしくお願いします」


 残った二人がそういって、俺にアクセサリーをつけていく。


「変な輩が寄りつかないように指輪していきましょう」
「それでも変な奴が来たときのために、これで喉元差して下さいね」
「あ、ありがとうございます」


 なんだか物騒な言葉が聞こえた気がしたが、聞こえないふりをした。最近こんな感じな気がする俺。


 それにしても長い髪をアップにするの凄いな。結構髪の量もあったのに。刺せっていったのはこのかんざしみたいなやつかな。


 ひとまず終わったと二人にもお礼を言う。二人は恐縮ですと恭しく頭を下げた。それからフラウとジエンの所に向かうと二人は手放しに俺を褒めてくれた。


「わあ! アルカルド様とっても美しいです!」
「とてもお似合いです」
「ありがとう。腕が良かったみたい」


 俺がそういうと、二人は揃って「元が良いからに決まってるじゃないですか」と声に出した。そんな訳あるか。俺だけだったらこんなできにはならなかったぞ。


「とりあえず、早く会場に行こう。間に合う……?」
「ご心配には及びません。転移ポータルを所有しておりますので任意の場所に移動することが出来ます」
「え? い、いや、そこまでお世話になるわけには!!」


 一般的に転移は高位魔法となり、使える人は少ない。しかし、便利な魔法なので一般化出来るようにと転移ポータルというものを作って、王都とかお金のある場所にはその便利なものが設置されている。


 そのポータルは設置するための費用と維持費も相当かかる。また、使用する度に魔力を消費する上に充填にかなりの量を消費するので、個人で所有する者は少ない。あ、ラフィール公爵家は何故か持ってるけど……。


 それでも、こんな店で所有しているなんてどれだけ儲かっているのか……。


「遠慮しないで下さい。それより早く行かないと遅れてしまいますよ」
「で、でも……」


 俺が転移を使えば早いんだし、費用もかからないし、それが良い気がするけど押し問答をしている間に時間が過ぎる。


「じゃあお言葉に甘えて使わせて貰います。フラウ、行こう」
「はい、アルカルド様」


 ジエンにはここで待って貰うのでフラウと一緒にそのポータルまで行く。陣みたいなところに立つと、男が操作をして周りが光り出す。


「フラウ」
「……何?」
「目をつぶるのは今回だけだぞ。次は容赦しない」
「……はーい」


 え?何その会話。男とフラウの意味がありそうな言葉を聞いてしまったが、すぐに別の場所に移動した。馬車が行き来している大きな門が見える。


 とっても気になるけど、あんまりプライベートに踏み込むことではないと思い聞かなかったことにした。


「お迎えに上がりました」
「ありがとう。アルカルド様、これに乗って行きましょう」
「うん」


 フラウは転移場所の近くに馬車を控えていたようですぐに御者がやってきた。フラウの家の家紋がついた馬車だ。俺はフラウに手を引かれながらその中に入る。



 そして、ようやくベイカー伯爵邸に潜り込めたのだった。
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