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第三章 君が考える最も美しい人の姿がこれなの?

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 フラウという美男子が隣にいれば、こうなることは承知の上だ。


「どなたでしょう」
「ええ、ヴィンスエール卿が特定の誰かをパートナーにするなんて……」


 こそこそと噂話が聞こえる。それもそうだ。皇室の騎士だし、このルックス!噂にならないはずがない。


 ただまあ、こんな小言で俺は怯まない。後、会場にコイヨンがいて驚いた。大丈夫なのここにいて。


「……どなたもご存じないと言うことは、あまり褒められた出自では……なっ!?」


 不意にそんな言葉が聞こえたが、すぐに驚愕の声に変わった。そちらの方を見ると誰かにおされて持っていたグラスを落としたようだ。その上、シャンパンが服に掛かったようで誰がやったのか周りを見ようとするが、周辺にいた人は首を振るだけだった。そして、ハンカチで拭きながら周りの数人と一緒にその場を離れていく。


 俺は彼の後ろにいたコイヨンを見た。コイヨンはにこっと笑顔を見せるだけである。見なかったことにした。


「アルカルド様、少し離れます」
「ああ、うん大丈夫」
「失礼します」


 フラウがそういって俺から離れた。俺は話しかけられないように壁の方にいく。ウィリの情報のお陰でどんな人たちが参加しているのかよく分かる。


 ウィリが気をつけろと行っていた貴族達には近寄らないようにごく自然にグラスをとって口にした。


 リンゴジュースだ。美味しい。


「こちらも一緒にどうぞ」
「あ、ありがとございます」


 一枚の皿を渡された。そこには綺麗に一口サイズの御飯が盛られていて、食欲がそそられる。ゴクリと唾を飲み込んで、それを口にした。美味しい。え、何これ滅茶苦茶美味しい!!もっと食べた……いけど我慢。俺は御飯を食べに来たわけじゃないのだ。


 とりあえず猊下はどこにいるだろうかと俺は会場内に目をやると、音楽が始まった。ああ、ダンス?あんなに練習したけど、肝心の相手がどっか行ったからやる必要ないな。良かった。こんな大勢の前で踊るのはちょっと緊張するからな。


 そんなことを考えて踊っている人を見ていたが、いやいや猊下を探さなければ。そう思いもう一度彼を探すために注視すると、不意にふわりと嗅ぎ慣れたシトラスの香りがして俺は顔を上げた。


「!」
「私と一曲、踊って下さいませんか?」


 するとそこには白い手袋を嵌めた猊下が俺に手を差し出していた。こんな近くに来るまで気付かなかったし、何なら革靴の音すら聞こえなかった。そんな動揺を隠しきれず、また、大層美しい所作に息をのんでしまう。


 い、いやいや、かっこよすぎる!!


 変な声が漏れてなかっただろうか。兎に角、圧倒的に優勝すぎてクラクラしてきた。


 気を!しっかり持て俺!!ま、まずは、この猊下のダンスの誘いを断って……っ!


「喜んで」
「ありがとうございます」


 断れない……っ!!!猊下のおててを振りほどけない!!俺には無理です!この美しさに屈服するしかありません……っ!!


 くっと自分の無力さに嘆きながらも俺は猊下の手を取ると、猊下はぐっと力強くその手を握って自分の方に引き寄せた。


 ぎゃあ!!


 俺はそのまま猊下と共に中央のホールまで向かう。そのまま手を取り合って社交ダンスを始めた。良かった!俺が分かるダンスで!!


 猊下の足を踏まないように細心の注意を払いながら曲に合わせてステップを踏む。流石だ猊下。とっても上手。


 このまま猊下と踊っていたい気持ちは強くあるが、それよりも俺は犯人を捜さないといけない。もう侵入しているはずだし、仕掛けもしているはずだ。猊下を守るためにもしっかりせねば!


 そんなふうに気がそぞろだったからか、あんなに気をつけていたのに俺は思いっきり猊下の足を踏んだ。


  自分でも思いもよらない事態に、やばいと思った俺はまたしても失態を犯した。


「お兄ちゃん、ごめんなさ……はっ!!」


  猊下をお兄ちゃんと呼んだ上に、明らかにうっかり言ってしまったという表情をかましてしまった。い、いや、まだ巻き返せる!ほら!兄に似てて間違えたとか!!


「……ルド、どうしてこんなところにいる」
「……えーっと」


 どうして俺は、ポーカーフェイスとか、どんな時でも平常な心を持つとかそういことが出来ないのでしょうか?


 猊下が核心をつくので俺は良い言い訳が見つからずに目が泳ぐ。


 これはもう逃げるしかない。


 俺はそう思って曲が切れるその時、全力で猊下から離れようと手を払って、払……っ。は、離れねぇ!!


 がっちり掴まれた手が離れない。そうこうしているうちに猊下が俺の腰を掴んでグッともう一度俺を引き寄せる。猊下の顔がまた一段と近くなって息を飲んだ。


「……その服は」
「あ、コイヨン達が……」


  そう言うと、猊下は不機嫌そうに顔を顰めた後にするりと俺の手の握り方を変えた。恋人つなぎだ。そのまま猊下は俺の手の甲を自分の口元に持っていき軽く触れる。


「お前の初めては、全て私が与えるものであって欲しい」


 俺は悲鳴を上げそうになった。


 こ、こ、こんな!BL小説の主人公が攻め様にやって貰うみたいな奴なんで俺が!そして猊下がやってるの!?ドキドキしない方がおかしいよね!?ねえ!!
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