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「自覚がないのはお前だろ」

「! 九郎様」

「たかが兄さんの使用人風情が誰に物言ってんだ?お前みたいな奴に指図される筋合いはねえぞ。久遠も言ってやれ」



俺を立たせたのは九郎だ。じろっと男を睨んで仕舞にはちっと舌打ちをする。九郎の言葉に俺の後ろにいた久遠が前に立ってびしっと男を指さした。



「きらい!!!!!!!!」

「何惚けてんだ、とっとと連れてけ!まさか俺の命令が聞けねえのか!」

「……いえ、失礼いたしました、若君、九郎様」

「お前……っ!!!」

「九郎」



九郎が言葉を募ろうとしてそれを晴臣さんに止められる。ぐっとこらえて、しかし、最後の抵抗とでもいうようにぎろっと睨みつけた。男はそれ以上何も言うことなくその場を立ち去る。

それを見届けた久遠が後頭部を床にぶつけそうになる。それを慌てて受け止めると背中を反りながら久遠は叫んだ。



「きらああああああああいいいいいいいいっ!!」

「しーちゃんに何も言わないで去ったぞあのくそ野郎!!」

「はいはい二人とも落ち着いて」



キーキー叫ぶ二人を晴臣さんが宥めた。俺はほっと息をついて胸をなでおろす。ああよかった。またあんな法術が来たら俺じゃ太刀打ちできなかったから。



「くーちゃん、大丈夫?」

「しちゃ!だーじょうぶだーじょぶ!?」

「俺は大丈夫だよ」



がばっと起き上がって久遠はぎゅうぎゅう抱きしめてくれる。久遠が無事だったらよかった。



「一先ず場所を移しま……」

「晴臣さま、その子供は危ないのではありませんか?」



晴臣さんがそう言って場所を移動させようとしたら一人の使用人がそう言ってきた。視線は俺に向かっている。

彼らが怖がっている、不審がっているのが分かる。



「お前たち!若君のご友人に……っ!!」

「いえ、俺出ていきます。今までありがとうございました」

「待ってくださいしーちゃん!!」



この嫌な雰囲気が俺のせいなら俺が出ていけば万事解決だろう。そう思って頭を下げる。



「しちゃ?」

「ごめんねくーちゃん。俺帰らなきゃ」



きょとんとして久遠が俺を見つめる。それから俺の言葉を理解したのかぐしゅっと涙をためる。



「やっ、やあ!!」

「また遊びに来るね」

「や……っ!!しちゃ、いちゃ、や!!」



晴臣さんに久遠を渡して、俺はもう一度頭を下げる。



「今までお世話になりました。ご飯や身の回りの事をしてくださってありがとうございます」



使用人の方にもお礼を言ってひょいっと塀を軽く超える。森の中であることは塀の外を見ればわかったので、都の外だということは分かっていた。

しーちゃああああっ!!と久遠の叫び声が聞こえた。ぐっと堪えてすぐにその場を去ろうとして始めて今までいた屋敷の全貌を見た。



「ここって……」



思い出すのは焼け焦げて崩れた壁や屋根。そして―――。



いつ頃だ!?



俺はすぐに記憶を辿る。久遠と出会ったのはもっと後。だから久遠と出会った前後にあの惨状が起きたと考えるのが自然だ。

……でも全員死んでたら?ずっと久遠は彷徨っていたかもしれない。



「――――っ!!」



どうにかしなきゃ。

でも情報があまりにも少なすぎる!ここで何かが起きたのは確実。それで久遠は一人で森を彷徨うことになった。

まだ、あの屋敷に戻るには時間がある。だからその間は家を張ろう。

でも、俺の装備が心もとない。

あの祠にもう一度行こう。

俺はすぐに走り出し祠に向かった。

屋敷からは少し遠いがあの祠があった。俺はそれに縋りつくようにして扉を開く。



あ。



「な、い……?」



そんな馬鹿な!ここから俺は刀を取った!

いやでも考えればこの祠に対してあの刀は大きかった。ここにあるんじゃなくて他の人が置いていったものなのか?いやでもあんなもの……。



「どう、しよう……」



どうしよう、どうすればいいんだろう。このままじゃ久遠が不幸になる。そんなのだめだ。久遠は絶対に幸せにならないと!

なんのために俺にやり直しの機会をくれたのか。それは神様が久遠を幸せにしろと言っているからだ。



「よし!」



頭を切りかえて俺は一先ず小石を拾う。この小石でも妖魔は倒せるから万が一、人相手であろうと目に当ててしまえば時間稼ぎになるだろう。

ぶんぶん肩を回しつつその為に精度を上げねばと木に小石をなげつけた。貫通して小さい穴が空いた。その穴めがけてもう一度小石を投げつける。



今俺に出来ることをしなければ。

少しでも最悪を回避しなければ。

久遠は俺のたった1人の大切な人だから。

例え、きっと死んだとしても死ぬとわかっていても同じことをする。
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