追放されたら無能スキルで無双する

ゆる弥

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33.暗闇

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 目の前が真っ暗だ。
 なんだかお腹が暖かい。
 プカプカとした浮遊感がある。

 一体なんだろう。
 この感じ。

「しゅ…………たす……んですか?」

「げん……ちりょ…………なので…………せん」

 誰かが喋ってる。
 そういえば僕、刺されたんだっけ。
 死んじゃったのかなぁ?

 ここは天国?
 この暗闇は地獄?

 一体僕の体はどうなったんだろう?
 賢人は無事だったかな?

 あの時、たしかいつも通り配信してたはず。誰が刺したかはそれを見れば特定はできるはずだよね。

 賢人を狙っていたのか、それとも誰でもよかったのか。だとしても余りにも計画性がなさすぎる。今はダンジョン攻略しているパーティーなんてみんな配信してる。

 一体何が目的でそんなことしたんだろうか。無謀にも思える行いは何のためにされたのか。僕は何のために刺されたんだろう。

 考えても仕方がないけど、僕の体は動くのだろうか。指を動かしてみようか。あっ。ちょっと動いた。

「…………と!?」

「しゅうと!?」

 目ぇ開けられるかなぁ?

 少しづつ光が入ってくる。
 目の前にいたのは奈々だった。

「収斗が目を覚ました!」

 奈々が後ろを向いて話すと賢人と猛が近づいてきた。今居たのはベッドの上で、一日ほど寝てしまっていたらしい。

「収斗! 大丈夫か!? なんで俺の代わりに!?」
 
「だって、僕が守るって言ったでしょ?」

「だからっておまえ────」

「────賢人! 落ち着くっすよ!」

 猛が賢人を抑えてくれる。僕にくってかかる勢いだった。僕の勝手な判断でやったことだから怒られてもしょうがないけど。でも、守りたかったんだ。

「でも、刺した奴は捕まえたぜ?」

「よかった。何が目的だったんだろう?」

「俺が聞いた時にはだんまりだった」

 捕まえた人に聞いたけど答えなかったってことか。ということは知られたらまずいことがあるっていうことだよね。一体誰に言われて刺したんだろう。

 ────ガタンッ

 病室の扉がいきなり開いた。
 僕の知らないスーツの男の人だった。

「さっきの男、護送中に殺されてしまった。すまない」

「えっ!? あの男殺されたんですか?」

「何者かによる狙撃だったようだ。申し訳ない」

 賢人とこの人は警察の人なんだろう。そして、刺した男の人は口封じに殺されたということだね。でも目的が何もわからない。それじゃあ、警戒のしようがないよ。

「それじゃあ、なんで俺達を狙ったのかは……」

「あぁ。わからずじまいだ。だが、動画配信に顔が映っている。そこから映像解析をして防犯カメラから追ってみる。なにかわかるかもしれないからな」

「お願いします」

 それだけいうと警察の人は去って行った。

「さっきの人な、俺たちの話を聞いてくれた人なんだ。鮫島さんっていう人」

「そっか。いい人そうだったね」

「あぁ。きっと何か掴んでくれると思う」

 賢人が信頼しているなら僕も信頼することにしよう。

「ねぇ。お腹痛くない?」

 聞いてくれたのは奈々だった。実際のところそこまで痛くないし、なんだか暖かい気がして変な感じだ。

「うん。なんか温かいんだ。不思議な感じ」

「治癒系のスキルを持っている人が治療してくれたんだ。傷は塞がったから大丈夫なんだって」

「そうなんだ。よかった。また戦えるね」

「無理しないで!? 少し休もうよ?」

 僕はまたダンジョンに行けることを喜んでいたけど、奈々は心配だったみたい。
 たしかにこの事件の原因がわかるまではあまりダンジョンに入らない方がいいかもしれない。

「そうだね。少し休もうか」

「そうしよ?」

 奈々が気の抜けたような顔になる。よっぽど僕が突っ走るのを心配していたんだろうね。ここ最近の僕たちはノリに乗っていてかなり調子が良かったから。何かの暗示かもしれないもんね。

「賢人? 僕たちは少し休むことにしよう?」

「あぁ。そうだな。俺は自分の不甲斐なさに憤りを感じてんだ。もう一度根性叩き直してもらうわ」

「自分も! 異変に気付けませんでした。倒したことで油断してました。こんなんじゃダメです」

 賢人と猛は眉間にしわを寄せて険しい表情でそう言う。

「あれは誰のせいでもないよ? あそこで誰かが刺しに来るなんて予想できなかったもの」

「そうだよ! 収斗の前でそんなに険しい顔しないで! 傷に触るでしょ!」

 僕は努めて明るくないようにそう言った。だが、奈々が二人を戒めると今度は目と頭を垂らして捨てられた子犬のようにシュンとしている。

「まぁまぁ。僕は大丈夫だから。いつ退院できるんだろう?」

「目を覚ましたら様子を見て退院していいって」

 僕の疑問には奈々が答えてくれた。

「じゃあ、みんなで帰ろうか? みんな何食べたい?」

「私は、麺かなぁ」
「自分、辛い物が食べたいっす!」
「俺は、肉!」

 それぞれが食べたいものを言っていく。そこから食べるものを考える。それがいつもの僕たちのスタイルなのだ。

「じゃあ、焼き肉をのせたピリ辛ラーメンみたいなのにしようか?」

「「「いえーぃ!」」」

 みんなの喜ぶ顔が見られて嬉しいな。

 ────ガタンッ

 また扉が急に開けられた。

「静かにしてください! それと、収斗さんは今日の夜は消化にいい、お粥か、うどんとかにしてくださいね!?」

 そう看護師さんに言われたことで夜ご飯は別々で作ることになった。

 僕は一人、お粥を食べることになるのであった。
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