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37. 王国の、決断②
椅子に腰かけたヴィクトールは深く息を吐くと未だ座り込んで動けないレイアードを一瞥して口を開く。
「レイアード、先程のお前の疑問に答えてやろう。
──── 私の妻、リリアーナには、初夜の儀で最上位の起源誓約魔法を施してある、」
「······は?」
「私達は、誓約に誓って他者との必要以上の接触を禁じている。お前が感じたのはそれだろう、」
「しょ······正気とは、思えない······」
レイアードは愕然として床を見つめ呟いた。
「どれだけ、僕の妹を愛していようと······一国の王たる貴方が!他の妃を今後一切取らないなんて、正気なのですか?もし跡継ぎができなければ、」
「シスコンと言えど、やはり貴族ですね。
もう皇国の侯爵になるのです、跡継ぎの心配をするとは、とても良い心掛けです」
ヴィクトールの横で軽い様子で呟くセドリックにレイアードは声を荒げる。
「セドリックっ!! お前がついていながら何故っ······、浅はかな考えを······」
「何か勘違いしているようですが。私は陛下がお決めになったことに従うだけです」
「まあ、どちらにせよ。これは俺自身の問題だ。
お前達が心配する事ではない。それで、」
ヴィクトールは王国から来た二人を見る。
目の前で繰り広げられるあまりにも突拍子も無い内容に二人はあんぐりと口を開けていた。
そしてクリストファーは慌ててそれを閉じると真っ直ぐにヴィクトールを見つめた。
「ルドアニア皇帝陛下。私、レベロン王国王太子、クリストファーからお願いしたき事がございます」
改まった様子のクリストファーを見て、ヴィクトールは顎で先を促した。
「王国を、皇国の属国として頂けませんでしょうか」
「「は?!」」
その言葉に、部屋にいたセドリックとレイアードは声を被らせて驚きを露わにする。
ヴィクトールは表情は変えず、鋭い目つきでクリストファーを見据えるとその言葉を繰り返した。
「······属国、とな」
「はい。属国です。ご存じの通り、王国は国の中枢から腐敗している。
これを我々二人だけで立て直すには ──── 」
”あまりに危険な世界です”とクリストファーは己の掌を見つめてそれを握りしめる。
「 ──── 獣人の国、魅惑の国、他にも、エルフやドワーフのいるこの国です。全ての国にそれぞれの力があり、到底今の王国では太刀打ちできない······」
神妙な面持ちのクリストファーに、ヴィクトールは瞳を細める。そして少し考えた後、ゆっくりと口を開いた。
「なるほど。だが、属国か。
国の位置が離れすぎているな。それに、妻を迎えた今、皇国の軍自力を貴国に割くわけにはいかない。
───────だが、そうだな。
再建に協力してやるのは吝かではない。
クリストファー殿下、貴殿は早々に国王となれ。
その後、この皇国と王国が行き来出来るように大規模転移陣を作成し、有事に備える事にしよう。
王国の再建はクリストファー殿下、宰相をアレクセイとし、二人で指揮を執れ。問題や疑問があればセドリックも頼ってもらって構わない。
また、レイアード、お前には皇国での侯爵位を授け、軍指揮を執ってもらう事にする。王国と皇国の架け橋となり、王国の軍の再建にも協力せよ」
「「はっ、お心のままに、」」
セドリックとレイアードが跪いて敬礼をし、ヴィクトールはクリストファーに冷ややかな目を向けた。
「クリストファー殿下、其国の散々たる失態の責任、属国という形で私に差し出したのかもしれないが、リリアーナを手に入れた現状、王国にはなんの価値もないのだが?」
「はい······重々承知しております」
「妻が悲しむ姿を見たくないから、貴国の力になってあげているだけ、だ。今後の貴殿らの活躍と我が国への還元、期待していいのだろうな?」
ギロリと黄金の瞳が光り、クリストファーとアレクセイは背筋を伸ばした。
「はい。勿論でございます。今後、王国は皇国に全てを捧げます」
「相分かった。セドリック、誓約書を作成してやれ。
媚薬の調査は王国の医師等も併せて研究所と連携せよ。転移陣の作成も優先度を上げよう、」
「はっ、お心のままに」
「レイアード、王国の騎士団の連中を精査してやれ。使えないやつは切り捨ててもいい。有能な奴を選び、必要であれば平民からも有能な若者を選出しすぐに軍を立て直してやれ。元公爵軍の人員も総動員せよ」
「はい、お心のままに」
そしてヴィクトールは立ち上がると扉に向かって歩を進める。そして何か思い出したかのように立ち止まると、気怠そうに王国の二人を振り返った。
「 ────ああ、だが。私の妻に何かあればそちらが優先だ。それは貴国が滅ぼうと変わらない、」
アレクセイは閉まった扉を見つめた。
どこまでも深い愛。
誓約魔法で守っているように見えるそれは、きっと執着、支配、独占その全てだろう。
もし、この世界の誰かが彼女を奪おうとしたら、あの方は────と、そこまで考えて首を振った。
仮定の話をする必要はない。そうなれば、もうこの世界すら実在しないかもしれないのだから。
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