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44. 娼館でうける、その報告※

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 リリアーナが魔法陣に飲み込まれ私室からかき消え、マリアが一人晩餐を楽しんでいた頃。


 ヴィクトールは娼館にいた。
 皇国の最も大きな娼館で、湯殿と共に妖艶な女性達と戯れる事のできる公共施設である。
 その最上階を贅沢に貸切って、竜王タオリャンと次期竜王ロンファと共に酒を酌み交わしていた。

 ドラファルトの接待はいつも、此処。
 それは現竜王の、というよりも歴代の竜王の、閨狂いが大きく影響している。

 今も女性を抱えながら高らかに笑い、両手に花状態で満悦げに愛でており、それを見ながらロンファとヴィクトールはただただ酒を飲んでいた。


「真に、今の皇帝は真面目よのお! もう妻帯したのだから精の管理は煩くされないだろう? 
 こんなに麗しき女性がいるのに楽しまないとは、」


 そう話しながら、自ら徐ろに男根を取り出すとそれを女にしゃぶらせて、彼はふーっ、と大きなため息をつく。


「ほれ、お前は倅のを頼むぞ、」


 竜王が隣にいた女に促せば、すぐにロンファのひざの間に跪いて顔を覗かせた娼婦が妖艶にほほ笑んだ。


「わたくしで宜しければ、御身お慰め致します」

「ええ、と、僕は······」


 そんな時、扉が開いて貫禄があり蠱惑的な雰囲気の女性が入室してきた。彼女はヴィクトール達の椅子の前に立つと深く腰を折る。


「皇帝陛下、本日はご利用誠にありがとうございます」

「ああ、女将。いつも世話になるな」

「ちょっと!誰か陛下のお世話を──「ああ、俺は良いんだ。寧ろ近寄られると少し困る、」」


 一人で酒を嗜むヴィクトールを気にする女将にそう告げて直ぐに下がらせ、ロンファに目を向けて、口を開いた。


「それで、即位式、だったか?」

「······っ、はい。即位式はっ、······を、近日中に行うので、参列して······いただけますか?···っふ、」


 女将と話している間に完全に女に為すがままにされたらしいロンファが、口淫の快感に呑まれそうになるのを必死で耐えている。
 それを気にせず、ヴィクトールは言葉を続けた。


「ああ、分かった。では、それには出席しよう」

「皇帝よ、酒ばかりで愉しいのか? 女は腐るほどいるではないか。ほれ、これも良い声で鳴くぞ?」


 女を自分の上に座らせて乱暴に腰をゆすり、男根を咥えこませた結合部を見せつけるように動かしながら、竜王は挑発するようにヴィクトールを見た。


「父君とは共に楽しめたのだがのお、」

「勃たぬのなら、抱けないだろう?」


 顔色を変えず言い放ったその一言に竜王はあからさまに残念そうな声をだす。


「なんと! ドラファルトの精力剤でもやろうかの。すぐに元気になるぞ? 若いのに大変な事だな、」


 そんな時、不意にヴィクトールの元に影から念話が入った。
 そしてその内容にヴィクトールは顔を顰める。


「······なんだと、?」


 ヴィクトールはその端整な顔を歪めて立ち上がると威圧的な声をだした。彼から怒りが滲み出て、周りにいた娼婦達の身体が小刻みに震える。


「いますぐここに来い、」

「······陛下の御前、失礼致します」


 突如、どこからともなく目の前に現れた灰色の髪の青年に、竜王は上に跨っていた女を押し退けると身を乗り出した。


「オマエ、狼か?!闇の魔法を······?」

「報告せよ、」


 威嚇するように青年を睨みつける竜王を無視してヴィクトールは言葉を発する。
 そして青年は跪いたまま口を開いた。



「はっ、先ほど、ベルリアーノ伯爵のマリアという女がリリアーナ様に接触。専属メイドのラナーを人質に取り、無理矢理皇后の部屋に侵入しました。
 そして転移魔法の付与された石で個室に捕らえられている模様。こちらの調べによれば、メイドを連れ去ったのはドラファルトの騎士で、個室にいるのもその護衛騎士と竜王の三男バロン王子の様です」

「・・・」


 ヴィクトールの身体から怒りの殺気と共に闇が漏れ出て、青年は慌てて声を出した。


「畏れながら、陛下、此処は······」


 娼館には魔法適性すらも持たない者たちが多くいるため、過度な殺気や魔力の放出は控えろ、という意味なのだろう。

 だが、ヴィクトールは事実怒っていた。
 最愛の妻を拉致、監禁されているのだから当たり前だ。


「今の話、本当であれば、流石に度が過ぎます。父上っ、謝罪をしなければ!」



 そして、その怒りを直ぐに察知し、ロンファが立ち上がる。その間も青年とヴィクトールは淡々と状況説明と対応を話し合っていた。



「部屋に侵入した令嬢は捕えますか?」

「ああ、それは泳がせておけ。俺の妻を脅した挙句、あの領域に踏み込んだ事の意味を分からせてやらねばな」


 目の前で慌てて開けた服を直しながら立ち上がり、焦った様子をみせるロンファを竜王は鼻で笑う。


「ふんっ、女一人いなくなっただけではないか。それに、バロンだと言う確証などは何処にもない」


 その竜王の言葉にヴィクトールは瞳を見開く。大人しく黙っていれば、それを良いことに調子に乗ってくれる。
 ヴィクトールは青年を一瞥すると感情の籠らない声で淡々と指示を出し始めた。


「おい、場所を正確に伝えろ、」
「はっ、」


 そして手を翳し魔法陣を展開させる。
 その黄金の魔法陣は大きく広がって、ヴィクトールを中心に辺りを取り囲むと、主要な四人を限定的に割り出す。


 直後、正確に転移魔法が発動した。
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