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俺に憧れてるらしい
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ドラゴンには、スキル『炎の勇者』を持つタイキンさんでさえ苦戦していた。
弓や魔法をものともしない強靱な鱗に守られ、尻尾の一薙ぎで巨大な建造物を吹き飛ばし、上空から灼熱の炎を吐いて街を壊滅させてしまう最強最悪のモンスターだ。
名前のついたモンスターはネームドと呼ばれ、同種の中でも抜きん出た強さを誇ることで知られている。
ネームドドラゴンというだけでも恐ろしいのに、その中で一番強い個体を一分もかからず瞬殺したのが狂乱の一角獣ライトニングビーストという四天王らしい。
勇太:良かった、俺なら今回の四天王を簡単に倒せるらしいです。……んなわけあるかいっ!
コメ:突然のノリツッコミwww
コメ:この状況でよくふざけていられるなw
勇太:ちょっと企画やっていいですか?
コメ:唐突すぎて草
コメ:面白かったらマネチャするわw
勇太:俺よりランデルの方が強いって分かってもらえれば、代わりに戦ってくれると思うんですよね。なので、今からジジイと模擬戦します!
コメ:自殺する気か?
コメ:ちゃんとイカれてて草
コメ:身投げ企画お疲れ様です!
危険なのは重々承知の上だが、説得しても伝わらないのだから体で分からせるしかない。
直接戦えば、いくらこのジジイが脳無しだとしても、俺がどれだけ弱いか気付いてくれるはず。
「りゃんぢぇりゅ、いっきゃいりぇんしゅうしにゃい? みょぎしぇんちぇいうにょきゃにゃ。おりぇぎゃちゃちゃきゃえにゃいっちぇきょちょを、しょろしょろきぢゅいちぇひょしいんぢゃよにぇ」
※ランデル、一回練習しない? 模擬戦っていうのかな。俺が戦えないってことを、そろそろ気付いて欲しいんだよね
「よろしいのですか? ワシが本気で戦っても傷一つつけられるかどうか……。しかし、一武人として勇者と戦えるのはこの上ない名誉。全力で行きますぞ!」
近くにいた騎士に聖宝剣ゲルバンダインとルミエールシールドを持って来てもらった。
勇者の戦いが見れると興奮していたのか、剣と盾を雑に渡された。
あまりの重さに耐えきれず肘関節が伸びきり、その衝撃で肘と肩が脱臼しそうになった。
配信を一人称視点に戻し、準備完了だ。
「いざ、参る!」
ランデルは、自分の身の丈程もある巨大な大剣を両手で握り、下段に構えると深く腰を落とした。
皺の刻まれた表情は険しく、その眼光は抜き身の刀のように鋭い。
自らの命を顧みず、差し違えてでも一太刀当ててやろうという気概を感じさせた。
蛇に睨まれた蛙というけれど、俺は恐怖から一歩も動けない。
周囲の温度が下がったかのような寒気を感じ、俺の全身はゾワゾワと鳥肌立ち、顔面は脂汗まみれになった。
コメ:怖すぎwwwww
コメ:心臓を鷲掴みにされてる気分……。
コメ:これが本物ってやつか。
コメ:迫力がやべえ! 俺の膝も震えてきたんだが。
「みゃちぇみゃちぇ、けぎゃしちゃりゃみゃじゅいよ。しゅんぢょめだきゃらにぇ? じぇっちゃいあちぇにゃいぢぇよにぇ!」
※待て待て、怪我したらまずいよ。寸止めだからね? 絶対当てないでよね!
「お心遣いありがとうございます。しかし、ワシも武人の端くれです。どうぞ全力をお出し下され!」
勇太:いや、俺が命を落としたくないから言ってるんですけど。ちなみに、こちらは現在全力で剣と盾を握り締めています。
コメ:無駄実況助かる!
コメ:ランデルとの温度差よw
ランデルがすり足でジリジリと距離を詰めてくる。
俺は当然その場でただ立ち尽くしているだけだ。
仮に動いたところで何が出来るわけでもない。
戦いを見守る騎士からは、異様な期待と緊張感が伝わってくる。
俺の右手には十五キロ近くある豪華な剣、左手には二十キロを超える巨大な盾、どちらもブラリと垂れ下がり、剣先は地面についてしまっている。
全力で握りしめているので、指が痛い。
何故か分からないが、膠着状態が続く。
ランデルは、少し近づいては下がり、右へ左へと体を振るような動きを見せるだけで、何もしてこない。
俺は、頑張って剣と盾を握り締め、ただ茫然と立っているだけだ。
そろそろ握力が限界を迎えそうだ。
「ちょっちょ? ひゃやきゅきちぇみょりゃえりゅ?」
※ちょっと? 早く来てもらえる?
「ま、参りましたああああああ!」
……は?
何を言ってるんだこのハゲは。
「いや、ちゃんちょやりょうよ……」
※いや、ちゃんとやろうよ……
「二百通りほど攻め手を考えてみましたが、返り討ちにあう未来しか見えませぬ。こちらの動きに合わせて、ユートルディス殿の筋肉が細かく反応しているのが分かりました。これ以上踏み込むことが出来ませぬ! 見てくだされ、恐ろしくて震えが止まりませんぞ!」
出たよ茶番が。
頑張って考えた二百通りが全部間違えてるだけなんだよ。
重い物を持ったせいで両腕が痙攣しているだけなのに。
「いやいやりゃんぢぇりゅ、いっぱちゅうちきょんぢぇきゅりぇりぇばいいだきぇなんだきぇぢょ?」
※いやいやランデル、一発撃ち込んでくれればいいだけなんだけど?
「いやはや、高みにおられる方の言う事は違いますな。それが出来るユートルディス殿とワシの間には越えられぬ壁があるという事です。ワシがユートルディス殿の間合いに入った瞬間、斬るおつもりだったのでしょう?」
勇太:あー、なんか変なモードに入って気持ちよくなってるなこいつ。武の極みに達してます感が出てるわ。俺が斬れると思ってるのがまず間違いなんだよね。斬れないけどキレてるよ俺は。
コメ:さすが勇者!【二千円】
コメ:勇太くん激おこやんwww
コメ:変なモードというパワーワード草【五千円】
コメ:殺されなくて良かったねw【一万円】
勇太:いつもマネチャありがとうございます!
いつの間にか視聴者数が五千を超えていた。
ランデルが構えた瞬間の迫力は見応えがあったと思うが、結末がこれではみんな拍子抜けしてしまったのではないだろうか。
「お疲れ様でした。素晴らしい戦いを見れて感激しました! 私もいつか勇者殿みたいになれるよう精進します!」
駆け寄って来た騎士が、鼻息荒く尊敬の眼差しを向けながら、俺から剣と盾を預かって去って行った。
この騎士は、重いものを持たされてただ立っているだけの、『廊下で反省していなさい!』スタイルを目指すようだ。
是非、俺より長い時間立っていられるように頑張って欲しい。
弓や魔法をものともしない強靱な鱗に守られ、尻尾の一薙ぎで巨大な建造物を吹き飛ばし、上空から灼熱の炎を吐いて街を壊滅させてしまう最強最悪のモンスターだ。
名前のついたモンスターはネームドと呼ばれ、同種の中でも抜きん出た強さを誇ることで知られている。
ネームドドラゴンというだけでも恐ろしいのに、その中で一番強い個体を一分もかからず瞬殺したのが狂乱の一角獣ライトニングビーストという四天王らしい。
勇太:良かった、俺なら今回の四天王を簡単に倒せるらしいです。……んなわけあるかいっ!
コメ:突然のノリツッコミwww
コメ:この状況でよくふざけていられるなw
勇太:ちょっと企画やっていいですか?
コメ:唐突すぎて草
コメ:面白かったらマネチャするわw
勇太:俺よりランデルの方が強いって分かってもらえれば、代わりに戦ってくれると思うんですよね。なので、今からジジイと模擬戦します!
コメ:自殺する気か?
コメ:ちゃんとイカれてて草
コメ:身投げ企画お疲れ様です!
危険なのは重々承知の上だが、説得しても伝わらないのだから体で分からせるしかない。
直接戦えば、いくらこのジジイが脳無しだとしても、俺がどれだけ弱いか気付いてくれるはず。
「りゃんぢぇりゅ、いっきゃいりぇんしゅうしにゃい? みょぎしぇんちぇいうにょきゃにゃ。おりぇぎゃちゃちゃきゃえにゃいっちぇきょちょを、しょろしょろきぢゅいちぇひょしいんぢゃよにぇ」
※ランデル、一回練習しない? 模擬戦っていうのかな。俺が戦えないってことを、そろそろ気付いて欲しいんだよね
「よろしいのですか? ワシが本気で戦っても傷一つつけられるかどうか……。しかし、一武人として勇者と戦えるのはこの上ない名誉。全力で行きますぞ!」
近くにいた騎士に聖宝剣ゲルバンダインとルミエールシールドを持って来てもらった。
勇者の戦いが見れると興奮していたのか、剣と盾を雑に渡された。
あまりの重さに耐えきれず肘関節が伸びきり、その衝撃で肘と肩が脱臼しそうになった。
配信を一人称視点に戻し、準備完了だ。
「いざ、参る!」
ランデルは、自分の身の丈程もある巨大な大剣を両手で握り、下段に構えると深く腰を落とした。
皺の刻まれた表情は険しく、その眼光は抜き身の刀のように鋭い。
自らの命を顧みず、差し違えてでも一太刀当ててやろうという気概を感じさせた。
蛇に睨まれた蛙というけれど、俺は恐怖から一歩も動けない。
周囲の温度が下がったかのような寒気を感じ、俺の全身はゾワゾワと鳥肌立ち、顔面は脂汗まみれになった。
コメ:怖すぎwwwww
コメ:心臓を鷲掴みにされてる気分……。
コメ:これが本物ってやつか。
コメ:迫力がやべえ! 俺の膝も震えてきたんだが。
「みゃちぇみゃちぇ、けぎゃしちゃりゃみゃじゅいよ。しゅんぢょめだきゃらにぇ? じぇっちゃいあちぇにゃいぢぇよにぇ!」
※待て待て、怪我したらまずいよ。寸止めだからね? 絶対当てないでよね!
「お心遣いありがとうございます。しかし、ワシも武人の端くれです。どうぞ全力をお出し下され!」
勇太:いや、俺が命を落としたくないから言ってるんですけど。ちなみに、こちらは現在全力で剣と盾を握り締めています。
コメ:無駄実況助かる!
コメ:ランデルとの温度差よw
ランデルがすり足でジリジリと距離を詰めてくる。
俺は当然その場でただ立ち尽くしているだけだ。
仮に動いたところで何が出来るわけでもない。
戦いを見守る騎士からは、異様な期待と緊張感が伝わってくる。
俺の右手には十五キロ近くある豪華な剣、左手には二十キロを超える巨大な盾、どちらもブラリと垂れ下がり、剣先は地面についてしまっている。
全力で握りしめているので、指が痛い。
何故か分からないが、膠着状態が続く。
ランデルは、少し近づいては下がり、右へ左へと体を振るような動きを見せるだけで、何もしてこない。
俺は、頑張って剣と盾を握り締め、ただ茫然と立っているだけだ。
そろそろ握力が限界を迎えそうだ。
「ちょっちょ? ひゃやきゅきちぇみょりゃえりゅ?」
※ちょっと? 早く来てもらえる?
「ま、参りましたああああああ!」
……は?
何を言ってるんだこのハゲは。
「いや、ちゃんちょやりょうよ……」
※いや、ちゃんとやろうよ……
「二百通りほど攻め手を考えてみましたが、返り討ちにあう未来しか見えませぬ。こちらの動きに合わせて、ユートルディス殿の筋肉が細かく反応しているのが分かりました。これ以上踏み込むことが出来ませぬ! 見てくだされ、恐ろしくて震えが止まりませんぞ!」
出たよ茶番が。
頑張って考えた二百通りが全部間違えてるだけなんだよ。
重い物を持ったせいで両腕が痙攣しているだけなのに。
「いやいやりゃんぢぇりゅ、いっぱちゅうちきょんぢぇきゅりぇりぇばいいだきぇなんだきぇぢょ?」
※いやいやランデル、一発撃ち込んでくれればいいだけなんだけど?
「いやはや、高みにおられる方の言う事は違いますな。それが出来るユートルディス殿とワシの間には越えられぬ壁があるという事です。ワシがユートルディス殿の間合いに入った瞬間、斬るおつもりだったのでしょう?」
勇太:あー、なんか変なモードに入って気持ちよくなってるなこいつ。武の極みに達してます感が出てるわ。俺が斬れると思ってるのがまず間違いなんだよね。斬れないけどキレてるよ俺は。
コメ:さすが勇者!【二千円】
コメ:勇太くん激おこやんwww
コメ:変なモードというパワーワード草【五千円】
コメ:殺されなくて良かったねw【一万円】
勇太:いつもマネチャありがとうございます!
いつの間にか視聴者数が五千を超えていた。
ランデルが構えた瞬間の迫力は見応えがあったと思うが、結末がこれではみんな拍子抜けしてしまったのではないだろうか。
「お疲れ様でした。素晴らしい戦いを見れて感激しました! 私もいつか勇者殿みたいになれるよう精進します!」
駆け寄って来た騎士が、鼻息荒く尊敬の眼差しを向けながら、俺から剣と盾を預かって去って行った。
この騎士は、重いものを持たされてただ立っているだけの、『廊下で反省していなさい!』スタイルを目指すようだ。
是非、俺より長い時間立っていられるように頑張って欲しい。
応援ありがとうございます!
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