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クマをも倒すは危険です。
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「ケンちゃん、キャラメル……」
「非常食には役に立つから、防災セットの中にでも突っ込んどいたらどうだ?」
押し付けようとしたら、笑顔で交わされました。
そうですか、流石にラーメンキャラメルは要りませんか。
「別にいらないわけじゃないけど、なにかの役にたつ時があるかも知れないだろ?」
「そういう不用意なフラグを立てるのはやめて」
今、完全に防災セットが必要となる事態へのフラグが発生したから。
そんな会話をしていたのが理由、というわけではあるまいが。
ドンドンドンドンドン!!!!!!!
「な、何事!?」
「きゃぁ!!!!!!」
激しく壁を連打する音の後に、ガチャガチャがチャとドアノブを回す音が続き、それらが数分続いたあと、急にぴたりと止まった。
「瀬津。お前はこっちに」
警戒をした龍一に呼ばれ、なんとなくその懐に入れば、それをいかにも不愉快そうに見つめる主任と部長。
いや、好きでやってるわけじゃないんで。
これはいわゆる緊急措置というやつです。
「いざとなったら盾にする予定です」と、指をサムズアップして見せれば、はぁとため息をつく2人。
賢治はと言えば一体何を想定しているのか、用意されていたバッグの中から黒い機械のようなものを取り出し、「使えるかな?」と一人首をかしげている。
「ケンちゃんそれ何?」
「ん?高出力スタンガン。クマも一発で気絶するぞ」
「……………」
聞いてちょっと後悔しました。
高出力、という言葉に流石にちょっと引いた様子の龍一が逆に珍しい。
クマが一発で気絶ってそれ、人間に当てたら死ぬんじゃなかろうか。
「とんでもないものを所持してやがるな………」
「人生備えあれば憂い有り、だろ?」
「………その諺、おかしくない?」
普通は憂いなしと言う。
「ほら、さっきタカ子もいってたろ?フラグが立つってさ」
卵が先か鶏が先か。
むしろそう思っているのなら物騒なものを用意するのはやめて欲しい。
ーーーーーこれはまさか。
「ケンちゃんがダークサイドにすっかり落ちてる………」
あわわ、口が開きっぱなしになる高瀬だが、そこに竜児がいたならばきっとこう言っただろう。
「賢治はダークサイドに落ちたわけではなく、そもそも闇の人間です」と。
ヤクザの組長と平気で碁を打てる便利屋を一般人とは呼べない。
「アウトレイジ……!!」
「安心しろタカ子。日本の法律ではな、真っ黒以外はみんなグレーだ」
薄汚れた潔白は、ギリギリの所でオフホワイトです。
ドンドンドンドンドン!!!!
「ちょっと……!そんな話をしている暇があったらどうにかして頂戴!!」
再び始まった扉をたたく音に怯え、頭を抱える矢部先輩。
中塚女史も不安そうに扉の方に目を向けている。
「なぁ高瀬君。あれ、人間だと思うか?」
「う~ん。微妙」
「微妙?」
何だその返答は、と何とも言えない顔になった主任。
「なんかね、気配が変なんですよ。人っぽいんですけど、生霊っぽくもあるというか……」
「生霊………」
その言葉を聞き何を思い出したのか、実に嫌そうな顔になったのは部長だ。
軽くトラウマをえぐられた模様。
「タカ子~。コイツの出番はあるかな?」
「むしろできることなら使わずに行く方向でお願いします」
危険物はしまって。お願いだから。
「……?何してんの?」
上を見れば、龍一が懐からなにか札のようなものを取り出し、そこに息を吹きかけている。
「我が息は神の息、そして神の意志なり」
ブツブツと難しい言葉を唱えていたかと思うと、その札をひらりと宙に飛ばす龍一。
すると。
「……!!ぶ、分裂した……!!!」
目の前で、龍一が二人になった。
「あ~。それってもしかして、いわゆる式神ってやつ?」
「そうだ。そもそも今の俺自身もこいつと変わらぬ身だがな」
そういえばすっかり忘れていたが、今のこいつは実体じゃないんだった。
現れたもうひとりの龍一は、近づいてきたマルちゃんを従え、一直線に扉のもとへ。
扉を開け、そこに何がいるのかを確認するつもりらしい。
「……今更な質問だけど、あんたの式神を増やす必要ってあった?」
「俺がいなくなったらお前は別の男に擦り寄るだろ」
「私は何処ぞのアバズレか」
私を確保しておくためだけに分身を作り出すのはやめて欲しい。
もっと効率的に生きろ。
「でも、なんでマルちゃんが一緒に………」
「お前に役に立つところを見せたいんじゃないか?」
そういわれ、なるほどと納得した。
十分ありうる話である。
「ってことはまた捕食?捕食なの?」
「………あいつは喰らうしか能がないのか……?」
仮にも神の使いが、といわれちょっと切なくなった。
だが残念ながら、マルちゃんの能力というのは捕食以外に見たことがない。
ほかにどんな能力があるんだろうなぁ、とは確かに気にはなる。
「あ、人化はしたな、人化は」
「そのくらいただの化生でもできる」
「……!!確かに!!」
狐は化ける。
それはもはや常識だ。
そうこういっている間に、再び聞こえる激しい殴打音。
続いてガチャガチャというノブを回す音が聞こえるはずのそのタイミングで、龍一(偽)が動いた。
バンッ!!!
内側から開け放たれたドア。
そこに待っていましたというように飛び込んできたのは一人の男。
「……!!コイツ!!」
どうやら見覚えが有るらしく、瞬間的に息を飲んだのは矢部先輩。
男は姿を現すなり、目の前にたつ龍一(偽)に向かい、手に持っていた警棒のようなものを思い切り振り下ろす。
ドンッ……!!!
嫌な音を立てて、龍一(偽)の頭がはぜ割れ…………は、しなかった。
人を殴ったにしてはやたらと重い重低音が響き、頭を殴打されたはずの龍一(偽)は、何事もなかったかのような顔で警棒を掴み、振り払おうとする男ともみ合いに発展する。
そこに登場したマルちゃん。
男の足元に噛み付いた次の瞬間、はっとしたような顔をして勢いよくその側から離れた。
そして、固唾を飲んで展開を見守る高瀬たち一同に向かい、こう言葉を発したのだ。
『主。こやつは、生成りでございます!!』
ーーーーーーーー生成り?
「非常食には役に立つから、防災セットの中にでも突っ込んどいたらどうだ?」
押し付けようとしたら、笑顔で交わされました。
そうですか、流石にラーメンキャラメルは要りませんか。
「別にいらないわけじゃないけど、なにかの役にたつ時があるかも知れないだろ?」
「そういう不用意なフラグを立てるのはやめて」
今、完全に防災セットが必要となる事態へのフラグが発生したから。
そんな会話をしていたのが理由、というわけではあるまいが。
ドンドンドンドンドン!!!!!!!
「な、何事!?」
「きゃぁ!!!!!!」
激しく壁を連打する音の後に、ガチャガチャがチャとドアノブを回す音が続き、それらが数分続いたあと、急にぴたりと止まった。
「瀬津。お前はこっちに」
警戒をした龍一に呼ばれ、なんとなくその懐に入れば、それをいかにも不愉快そうに見つめる主任と部長。
いや、好きでやってるわけじゃないんで。
これはいわゆる緊急措置というやつです。
「いざとなったら盾にする予定です」と、指をサムズアップして見せれば、はぁとため息をつく2人。
賢治はと言えば一体何を想定しているのか、用意されていたバッグの中から黒い機械のようなものを取り出し、「使えるかな?」と一人首をかしげている。
「ケンちゃんそれ何?」
「ん?高出力スタンガン。クマも一発で気絶するぞ」
「……………」
聞いてちょっと後悔しました。
高出力、という言葉に流石にちょっと引いた様子の龍一が逆に珍しい。
クマが一発で気絶ってそれ、人間に当てたら死ぬんじゃなかろうか。
「とんでもないものを所持してやがるな………」
「人生備えあれば憂い有り、だろ?」
「………その諺、おかしくない?」
普通は憂いなしと言う。
「ほら、さっきタカ子もいってたろ?フラグが立つってさ」
卵が先か鶏が先か。
むしろそう思っているのなら物騒なものを用意するのはやめて欲しい。
ーーーーーこれはまさか。
「ケンちゃんがダークサイドにすっかり落ちてる………」
あわわ、口が開きっぱなしになる高瀬だが、そこに竜児がいたならばきっとこう言っただろう。
「賢治はダークサイドに落ちたわけではなく、そもそも闇の人間です」と。
ヤクザの組長と平気で碁を打てる便利屋を一般人とは呼べない。
「アウトレイジ……!!」
「安心しろタカ子。日本の法律ではな、真っ黒以外はみんなグレーだ」
薄汚れた潔白は、ギリギリの所でオフホワイトです。
ドンドンドンドンドン!!!!
「ちょっと……!そんな話をしている暇があったらどうにかして頂戴!!」
再び始まった扉をたたく音に怯え、頭を抱える矢部先輩。
中塚女史も不安そうに扉の方に目を向けている。
「なぁ高瀬君。あれ、人間だと思うか?」
「う~ん。微妙」
「微妙?」
何だその返答は、と何とも言えない顔になった主任。
「なんかね、気配が変なんですよ。人っぽいんですけど、生霊っぽくもあるというか……」
「生霊………」
その言葉を聞き何を思い出したのか、実に嫌そうな顔になったのは部長だ。
軽くトラウマをえぐられた模様。
「タカ子~。コイツの出番はあるかな?」
「むしろできることなら使わずに行く方向でお願いします」
危険物はしまって。お願いだから。
「……?何してんの?」
上を見れば、龍一が懐からなにか札のようなものを取り出し、そこに息を吹きかけている。
「我が息は神の息、そして神の意志なり」
ブツブツと難しい言葉を唱えていたかと思うと、その札をひらりと宙に飛ばす龍一。
すると。
「……!!ぶ、分裂した……!!!」
目の前で、龍一が二人になった。
「あ~。それってもしかして、いわゆる式神ってやつ?」
「そうだ。そもそも今の俺自身もこいつと変わらぬ身だがな」
そういえばすっかり忘れていたが、今のこいつは実体じゃないんだった。
現れたもうひとりの龍一は、近づいてきたマルちゃんを従え、一直線に扉のもとへ。
扉を開け、そこに何がいるのかを確認するつもりらしい。
「……今更な質問だけど、あんたの式神を増やす必要ってあった?」
「俺がいなくなったらお前は別の男に擦り寄るだろ」
「私は何処ぞのアバズレか」
私を確保しておくためだけに分身を作り出すのはやめて欲しい。
もっと効率的に生きろ。
「でも、なんでマルちゃんが一緒に………」
「お前に役に立つところを見せたいんじゃないか?」
そういわれ、なるほどと納得した。
十分ありうる話である。
「ってことはまた捕食?捕食なの?」
「………あいつは喰らうしか能がないのか……?」
仮にも神の使いが、といわれちょっと切なくなった。
だが残念ながら、マルちゃんの能力というのは捕食以外に見たことがない。
ほかにどんな能力があるんだろうなぁ、とは確かに気にはなる。
「あ、人化はしたな、人化は」
「そのくらいただの化生でもできる」
「……!!確かに!!」
狐は化ける。
それはもはや常識だ。
そうこういっている間に、再び聞こえる激しい殴打音。
続いてガチャガチャというノブを回す音が聞こえるはずのそのタイミングで、龍一(偽)が動いた。
バンッ!!!
内側から開け放たれたドア。
そこに待っていましたというように飛び込んできたのは一人の男。
「……!!コイツ!!」
どうやら見覚えが有るらしく、瞬間的に息を飲んだのは矢部先輩。
男は姿を現すなり、目の前にたつ龍一(偽)に向かい、手に持っていた警棒のようなものを思い切り振り下ろす。
ドンッ……!!!
嫌な音を立てて、龍一(偽)の頭がはぜ割れ…………は、しなかった。
人を殴ったにしてはやたらと重い重低音が響き、頭を殴打されたはずの龍一(偽)は、何事もなかったかのような顔で警棒を掴み、振り払おうとする男ともみ合いに発展する。
そこに登場したマルちゃん。
男の足元に噛み付いた次の瞬間、はっとしたような顔をして勢いよくその側から離れた。
そして、固唾を飲んで展開を見守る高瀬たち一同に向かい、こう言葉を発したのだ。
『主。こやつは、生成りでございます!!』
ーーーーーーーー生成り?
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