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 ゆっくりと意識が浮上していく。
もう明け方は寒い季節なのに、今朝はぽかぽかと暖かい。
顔の前に熱を発するしっとりとした物がある。
むふぅ、あったかーい。
ほっぺを寄せると「とくとくとく」少しテンポの速い音がする。
規則正しいその音に再び眠りへと誘わ……
「くすぐったいぞ」
少しかすれた低い声が頭上から聞こえ、一気に意識が覚醒した。
「ラ、ランドルフ!」
目の前にランドルフの筋肉質な裸の胸がある。
は・だ・か!
片手でウエストを、もう一方の手でヒップを引き寄せられ、ピッタリとくっついた下半身は、ランドルフの状態をはっきりと伝えて来る。
ホニャララ!ホニャララがくっついております!
硬い、おっきい、ピクピクしてるっ!
「はよ」
「お、おはようございます。あぁぁの、下が、その」
なんて言えばいいの!?
ホニャララが当たっております?ホニャララが主張しすぎです?
「単なる生理現象だ。腹が減れば、腹の虫が鳴くのと一緒だ」
そうかもしれないけど、そうじゃないでしょ!
なんだか昨日のランドルフと一緒でテンションがおかしい。
もしかして、朝はいつも変になるのだろうか?
「あの、困ります。本当に」
「嫌か?」
「嫌とかじゃなくて……」
「ならいいだろ」
私の顔を見ながら、ゆっくりと擦り付けるように動かした。
「ぎゃーーー!!」
「はははっ悪かったって。夜中にお前からすり寄って来たんだぞ」
……真実は分からないが、あったかいものに寄って行った可能性はある。
「ランドルフと違って、こういう事に慣れてないんです。手を放してください……ホニャラ、こ、腰も離して」
ランドルフは小さく首を振り
「俺も同じベッドで誰かと目覚めるのは初めてだぞ」
嘘だ。聞いても無いのに、お姉さま方が教えてくれた。
夜だけじゃなく、朝に目覚めてからも求められて大変だって。
きっと、こんな風だったんだ。
お姉さま方にしたことを、私にもしてるんだ。

「顔を洗ってくるので放してくださいっ」
本気で言ったと伝わったのだろう。
ランドルフは「わかった」と解放してくれたが、口を開けば嘘つきと責めてしまいそうで、無言で洗面所に駆け込んだ。
ガウンは少し乱れていたが、これは布団と擦れたからだろう。
首元まで詰まったナイトドレスは乱れていない。
それが、少し、ほんの少し悲しい。
生理現象で無く私を求めてもらいたい。
でもお姉さま方と同じように扱われるのは、私がなりたい関係じゃない。
ランドルフと一緒に過ごす時間が長くなるほど気持ちが大きくなっていく。
幼いころ夢見たお姫様のように、大切にしてくれる事がうれしくて……辛い。

鏡の中の顔が沈んでいる。
今日も大変な一日になるのにこれじゃダメ。
恋愛感情に向き合うのは一旦保留。ダンスに集中しないと。
気合を入れるために頬を軽く叩いた。

待たせてはいけないと、簡単に身支度を整え居室に戻ると、すでに朝食がセットされ
――ランドルフが上半身裸で足を組んでソファーに座っていた。
広い肩幅と割れた腹筋を惜しげもなくさらけ出して、優雅に紅茶を嗜んでいる。
「服!ふ、服を着て下さい!」
「あ?シャワー浴びるんだよ。足はなんともねーのか?」
雰囲気はいつも通りに戻っていた。やっぱり寝起きはおかしくなる体質に違いない。
「大丈夫です。昨日のマッサージのお陰でなんともないです。ありがとうございます」
ランドルフから視線をそらしながら、早口でまくし立てる。
「先に飯食っとけ」
やっと洗面所に行ってくれた。

待ってようと思ったが、ランドルフはなかなか出てこなかった。
着替えがあるのでとメイドに促され先に朝食を頂く。
相変わらず美味しい。
一品の量は少ないが、品数の多い朝食は、目にも楽しい。
フルーツを食べ始めた頃にやっとランドルフが出て来た。
犯人捜しはどうするのか聞きたかったが、別のメイドも入ってきて着替えのために寝室へ促され聞きそびれた。

 そのままダンスホールで集中レッスンとなってしまい、タイミングが合わない。
またマッサージをされ、足湯をしながら、軽い昼食を済ませた。

ランドルフが女性のダンス講師に声を掛ける。
「ちょっと外すが、男性パートは踊れるか?」
ちょっと考えた後
「もちろん踊れますが、お二人の身長差を考えれば、男性講師と練習された方がよろしいかと思います」
「だめだ。もうステップは問題ないだろ。後はリズムに乗って楽しむことだけだろう?なら、あんたでも問題ない」
女性講師は、含み笑いをした後出て行き、紳士服に着替えてきた。
「アリー様、私がパートナーとしてお相手させていただきますので、よろしくお願いいたします」
男性のように胸に片手を当て綺麗なお辞儀をしてくれ、見惚れてしまった。
これぞ男装の麗人!なんと麗しい!
「踊って頂けますでしょうか?」
差し出された片手に惚けながら手を乗せようとした時、横から割り込んできたランドルフの手が、私の手をペチッとはじいた。
「お前!俺の時と態度が違い過ぎるだろ!」
大きな手でほっぺをつぶしながら怒鳴られた。
「はぁってーはぁっこいいんはぁもーん」
「あぁぁん!?異性も同性も一秒以上見るな!犬も猫もだ!わかったなっ!!!」
言いたいことだけ言って出て行った。
「なによあれ。ほんと感じ悪いんだから」
「まだまだ青いですわね。さあ、始めましょうか」
微笑む講師と踊りだした。
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