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魔法よ魔法

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 小さき姫は夜な夜なソロリソロリとベッドを抜け出しては城の地下に向かう。

 影に隠れ、闇に隠れ、老婆のいる部屋に向かうのでございます。

 鉄格子のはまった扉は頑丈ですが、鍵を使えば容易に開く。

 鍵の入手は思いのほか簡単で、反対側の壁にかかっているのを借りるだけです。

 小さき姫は手を伸ばし、そっと鍵を取っては老婆の元へと向かいます。

 扉を開けては入り、出ては鍵をかけてを繰り返し、ヒミツの時間は積み上がっていきます。

 老婆はどこから手に入れるのか、魔法を収めた小さな器と、それを施す何かを用意していました。

 夜毎、夜毎、夢の中にいるように。

 小さな姫は、魔法について学びます。

 魔法操る老婆は、身の内にいったん魔法のエネルギーを収め、それを対象となるモノに与えるのです。

 力を与えられたモノは、枯れた花なら蘇り、古びた物なら新しく、その姿を変えていくのでございます。

「この力を、どう使ったらいいの?」

 小さき姫は素直に疑問をぶつけます。

「さぁ。どうさなぁ。どう使ったらいいか。それは大人になったら考えなさい」

「え、おばあ様には分からないの?」

「ワタシは外の状況が分からぬゆえ……」

 チロチロ揺れる光に浮かび上がる皺くちゃの顔が、思案深げに遠い目をするのを小さな姫は見上げていました。

「姫よ。賢く使いなされ。力は賢く使いなされ」

「賢く、とは?」

「目的のために使いなされ。無理なく、無駄なく、望みを叶えるために使いなされ」

「おばあさまの言う事はときどき、難しすぎてワカラナイの」

「ふふ。そのうち。わかるようになるよ、そのうち」

「そうかしら」

「そうだよ。大きくなったらね」

「そうなのね」

「ああ、そうだよ」

 二人は薄暗い地下で、顔を見合わせて笑いました。

 ユラリユラリと炎は揺れて。

 影を引く命はふたつのみにあらず。

 闇に隠れて探りし影ひとつ。

 ふたりの行動は近衛兵から側近へ。

 側近から王と女王へと伝わっていく。

 姫君のひみつは秘密であらず、王も女王も知るところとなれど。

 咎めないのは、彩姫の祖母が命を取らぬのと同じ理由。

 ただ。女王は、彩姫に言うのです。

「魔法の力は自然の力。人工的にゆがめてはなりませぬ。自然のままを使うのです。火を使うのと同じように」

 彩姫は、頷きはしますが従いはしません。

 密かに。いつか役に立つかもしれぬ、魔法の操り方を祖母から教えて貰う日々が続くのでした。
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