皇帝の肉便器

眠りん

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三話

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 翌日になってもその肉便器が頭から離れなかった。
 仕事をしても、結婚相手を探している時も、頭に浮かぶのは今いる肉便器だ。

 三日もすれば死んでしまう彼に何故そこまで固執するのか、自分が信じられない。
 気付けば、その夜も肉便器部屋に足を運んでいた。

 昨日と同じようにしっかりと地に足をつけて準備万端な彼。ウェルディスがいない間に下男等が綺麗にしたのだろう。
 昨日ウェルディスが汚したものはなく、彼の尻も綺麗だ。

 穴を見ているとゴクリと喉が鳴った。ウェルディスは膝をつき、その尻穴に舌を這わせた。
 今まで肉便器にこのような事をした事がない。だが、彼は特別だった。

 丁寧に舐めると、肉便器の男性器が大きくなっていく事に気付いた。

「彼も生きている。当然の事だが……」

 前に回り、男性器を舐める。ピクピクと痙攣しながら大きく、固くなる男性器が愛おしく思えて、丹念に舐めていった。

 彼の脚に力が入る。射精が早いだろうと思い、舐めるのを止めて自身の肉棒を彼のアナルに挿入した。
 昨日のように自分の精を発散させる為ではない。彼にも気持ち良くなってもらいたいと、ゆっくりと前後に動かす。

 すると、彼の腰が揺れた。実際の感情は分からないが、それがもっと欲しがっているように見えた。

「間違っていたらすまんな」

 ウェルディスは彼の身体を気遣いながらもスピードを上げて腰を前後に動かす。
 緩急をつけながら、彼の良いところを探す。だが、先にウェルディスが射精をしてしまった。

 疲れて息が途切れる中、右手を彼の肉棒に伸ばし、擦ってやる。
 彼の腸に力が入る。まだ尻の中に入れたままの自身の肉棒が締め付けられた。

 彼も感じているのだと、手に力を入れてシュッシュッと上下させると、彼も蜜口から精を吐き出した。

「少しでも気持ち良くなってくれたら……」

 明日には死ぬだろう。その前に一度くらい快楽を得てもいいではないかと、彼の尻を撫でた。
 また少し勃ってしまった肉棒を尻穴から抜き、用意した濡れタオルで拭いて外に出た。

 今までの死刑囚は三日程で亡くなると聞いていた。明日にはもういないだろうと、寂しく感じた。

 自室に戻っても布団には入らず、夜空を見上げて呟いた。

「もう、肉便器という制度は今回で最後にしようか。僕の代だけでも」

 顔も知らない肉便器にいつの間にか恋をしていた。亡くなると知って性処理に使うのは悲しい。
 いなくなったらもっと辛くなる。

 この先、彼以外の肉便器を使いたいと思えなくなった。
 ウェルディスの目から涙が流れていた。


 その翌日もウェルディスは肉便器部屋にやってきた。もう亡くなっていませんようにと祈りながら。
 彼は今までと同じようにしっかりと立ち、綺麗な尻を向けていた。

「まだ死んでいなかったか。良かった。でも明日には……」

 その日は性処理には使わず、尻を撫でたり、尻の割れ目に顔を埋めて匂いを嗅いだりした。
  会話も出来ない彼の横に座って夜を過ごした。


 その翌日、執事には「僕が彼が死んでいるか確認するから、いない間に処分しないように」と命じて仕事に向かった。
 そして、早めに仕事を終わらせて、夕飯もそこそこに肉便器部屋に向かった。

 彼はまだ生きていた。嬉しさから勃ってしまったので、これが最後だろうと性処理ではなく、抱くように犯した。
 彼の射精を促す事も忘れない。

「はぁ、僕の権限で死刑判決を覆して……いや、権力の乱用はいけない」

 悪い考えが頭を過ぎりそうになったが、そんな事は考えなかったと、忘れる事にした。

 これで最後だろうから……と思ったのだが、翌日も彼は生きていた。翌々日も、同じように彼は強く生きていた。

 そして、気付けば七日が経っていた。
 夜、いつもなら肉便器部屋に行っているウェルディスだが、行くかどうか悩んで廊下をウロウロしていた。

 執事に彼を死んだ事にして、自分の愛人に出来ないか聞こうと思っているのだ。

「大臣達が指名した令嬢と結婚するから彼を救いたい……いや、こんな事恥ずかし過ぎて言えないぞ……」

 数分悩んだ後、決心して執事の部屋に向かう事にした。

「まずは医者……いや、食事をさせねば、それよりも服を用意した方がいいのか?」

 ブツブツと呟きながら歩くと、後ろからドカッと何かが壊れるような音がした。
 驚いてウェルディスが振り向くと、全裸の男がこちらに向かって走ってきた。
 壊れたのは扉のようだ。

「なんだ!?」

 肩まで伸びた埃まみれの黒い髪、全身無事なところがない程傷だらけの細い身体。
 すぐに肉便器の彼だと気付く。ボーッ見つめると、彼はウェルディスの目の前で立ち止まり、目が合うとバタリと倒れてしまった。

 気のせいか、彼はウェルディスと目が合った時、安堵したように微笑んでいたように見えた。

「誰か!!」

 ウェルディスは膝をついて彼を抱き起こして叫んだ。顔を隠している髪をどかすと綺麗な顔が見えた。
 痣だらけで汚れに塗れているが、整った顔だろうと想像がつく。
 まだ十代後半くらいの少年だ。

「美しいな。誰だろう、死刑囚は無価値な人間だなどと言い出した奴は。
 こんなに高い価値があるではないか」

 彼だけが特別なのだ。どんな罪を犯そうと殺してしまうには惜しいと感じる程、彼の顔は芸術作品のように美しい。

「陛下! いかが致しましたか!?」

 執事、従者や護衛達が走ってやってきた。

「カルテス! 医者を呼べ! 僕の部屋に彼を連れていく!」

「なんと……陛下! その者は死刑囚ですぞ! 何故外に……」

「今その話はいい。とにかく、医者を呼べ! これは皇帝たる僕の命令だ!」

 誰もが納得しない事は当然な事だ。権力を使ってしまった事に少し罪悪感を感じつつ、彼をお姫様抱っこをして自室に入れ、ベッドに寝かせた。

「死なせはしない。
 君はどの死刑囚とも違う。今まで出会ってきたどんな人間とも違うのだから」

 力の入らない手を両手で握り締めて祈った。
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