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2:二人旅
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詳細なことは開く必要もなく、本を鑑定してしまう。これで問題なく全てを識れる。一度でも十分ではあるが、網羅するため数度魔力を通し、もう一度空間魔法でしまった。
「おはよう」
冊子をしまったと同時に、部屋のドアが開いて若い男が入ってくる。見間違うことのなく、ベリーだ。
「まだ夜だが」
ちらりと窓へ視線を向ければ、起き抜けの時よりさらに空に闇の帳がかかってきている。
「んふふ。きみが起きた時がおはようの時間さ」
「意味がわからんが」
冒険者たちからの情報を、満足する程度には集めたのだろう。わざわざ足音を忍ばせ部屋に戻ってきたわけだ。物音がしなかろうと、探知は常にしているのだから意味もない。
ベリーくらいの存在が、気配も魔力も消していたのなら俺でも探知できないだろうけれども。勿論、そんなことはしないだろう。
体を起こそうとした俺を制するように、ベリーはベッドの縁に腰を掛けながら肩を押してくる。
「……なんだ」
「まだ少し体温が高いかな。眠いだろう?」
「ねむくない」
「そう?」
なおも肩を押してくる手を外して上体を起こす。くぅ、と心細くなるような腹の音が聞こえてきた。勿論、俺の腹だ。夕食の時間をすっかり逃して寝ていたのだから仕方がない。
これからもっと成長する予定なのだから、空腹になれば鳴くのも無理からぬ話ではないか。
「……んふっ、そっか。そういえばきみは夕飯食べれてないね」
「そうだ」
だから、もう一度寝ろと言われて素直に寝ようとしてもきっと、寝れるわけがない。寝れる気もしない。
言うが早いかベリーが室内の天井、壁、床にぴったりと添うように魔力を張る。結界だ。
他人のそれに詳しくはないが、ベリーは結界を多種多様に使い分けている。王道の、魔なるもの・邪なるものを阻むそれ(とはいえ光属性は苦手なのだそうだ)、あらゆる毒を阻むそれ、あらゆる属性の攻撃を阻むそれ、単属性になるがどんな威力でも阻むそれ、魅了・幻惑・睡眠などの効果を阻むそれ、相手から姿を隠すそれ、隠す上に音やにおいすら阻むそれ……と、ある種高貴な存在が喉から手を出すほどに欲するものばかりと言える効果でもって使い分けることが出来る。
つまり今、音やにおいを阻むものを張ったのだ。そうすればにおいの出る料理を出したり作ったりしても周囲に広まらない。
しまっていた肉と香草としても使える薬草数種、それから道中で精製していた塩などなど、を取り出したベリーがごく弱い火と風の魔法を使って焼いていく。じりじりと言う耳にも美味い音がすると、すぐに鼻にも届く。
焼けた頃合いで皿を出し、乗せられた肉の色と言いにおいと言い、旨そうである。
「何パンがいい?」
「……まるいやつ」
「まるいやつね、……はい」
生でも食べられる香草、薬草を添えて肉が置かれ、まるいパンも軽く炙られた状態で添えられた。
きゅう。情けない鳴き声だ。いただきます、とベリーに声を掛ければ、嬉しそうに返答がある。
両手を中心に清潔をして、まずはまるいパンを手に取った。ほかほかしていて、表面がぱりっとした手触りになっていた。実に美味しそうだ。
一口大に千切って、口に放り込む。もぐもぐと噛めば噛むほど甘みが出てくるし、バターの香りが口の中いっぱいになって、他に何かをしているわけではないパンだけれどとても美味しい。空腹がスパイスになっていると言われたらそれまでなのかもしれないけれど。
一度パンを皿に戻して、香草たちをフォークで頂く。すっとするものや少しからみがあるものが入っているのはいわゆる毒消しだろう。
塩と香草で味付けをされた肉を切って食べてみれば、香草によって臭みがうまく抑えられている。肉の方も、噛めば噛むほどに甘みが少し感じられるが、塩で引き締められていて食べやすい。
「おはよう」
冊子をしまったと同時に、部屋のドアが開いて若い男が入ってくる。見間違うことのなく、ベリーだ。
「まだ夜だが」
ちらりと窓へ視線を向ければ、起き抜けの時よりさらに空に闇の帳がかかってきている。
「んふふ。きみが起きた時がおはようの時間さ」
「意味がわからんが」
冒険者たちからの情報を、満足する程度には集めたのだろう。わざわざ足音を忍ばせ部屋に戻ってきたわけだ。物音がしなかろうと、探知は常にしているのだから意味もない。
ベリーくらいの存在が、気配も魔力も消していたのなら俺でも探知できないだろうけれども。勿論、そんなことはしないだろう。
体を起こそうとした俺を制するように、ベリーはベッドの縁に腰を掛けながら肩を押してくる。
「……なんだ」
「まだ少し体温が高いかな。眠いだろう?」
「ねむくない」
「そう?」
なおも肩を押してくる手を外して上体を起こす。くぅ、と心細くなるような腹の音が聞こえてきた。勿論、俺の腹だ。夕食の時間をすっかり逃して寝ていたのだから仕方がない。
これからもっと成長する予定なのだから、空腹になれば鳴くのも無理からぬ話ではないか。
「……んふっ、そっか。そういえばきみは夕飯食べれてないね」
「そうだ」
だから、もう一度寝ろと言われて素直に寝ようとしてもきっと、寝れるわけがない。寝れる気もしない。
言うが早いかベリーが室内の天井、壁、床にぴったりと添うように魔力を張る。結界だ。
他人のそれに詳しくはないが、ベリーは結界を多種多様に使い分けている。王道の、魔なるもの・邪なるものを阻むそれ(とはいえ光属性は苦手なのだそうだ)、あらゆる毒を阻むそれ、あらゆる属性の攻撃を阻むそれ、単属性になるがどんな威力でも阻むそれ、魅了・幻惑・睡眠などの効果を阻むそれ、相手から姿を隠すそれ、隠す上に音やにおいすら阻むそれ……と、ある種高貴な存在が喉から手を出すほどに欲するものばかりと言える効果でもって使い分けることが出来る。
つまり今、音やにおいを阻むものを張ったのだ。そうすればにおいの出る料理を出したり作ったりしても周囲に広まらない。
しまっていた肉と香草としても使える薬草数種、それから道中で精製していた塩などなど、を取り出したベリーがごく弱い火と風の魔法を使って焼いていく。じりじりと言う耳にも美味い音がすると、すぐに鼻にも届く。
焼けた頃合いで皿を出し、乗せられた肉の色と言いにおいと言い、旨そうである。
「何パンがいい?」
「……まるいやつ」
「まるいやつね、……はい」
生でも食べられる香草、薬草を添えて肉が置かれ、まるいパンも軽く炙られた状態で添えられた。
きゅう。情けない鳴き声だ。いただきます、とベリーに声を掛ければ、嬉しそうに返答がある。
両手を中心に清潔をして、まずはまるいパンを手に取った。ほかほかしていて、表面がぱりっとした手触りになっていた。実に美味しそうだ。
一口大に千切って、口に放り込む。もぐもぐと噛めば噛むほど甘みが出てくるし、バターの香りが口の中いっぱいになって、他に何かをしているわけではないパンだけれどとても美味しい。空腹がスパイスになっていると言われたらそれまでなのかもしれないけれど。
一度パンを皿に戻して、香草たちをフォークで頂く。すっとするものや少しからみがあるものが入っているのはいわゆる毒消しだろう。
塩と香草で味付けをされた肉を切って食べてみれば、香草によって臭みがうまく抑えられている。肉の方も、噛めば噛むほどに甘みが少し感じられるが、塩で引き締められていて食べやすい。
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