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2:二人旅
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しおりを挟むベリーもそれについて行きながら、あれこれと俺に声を掛けてくる。
「ナイフから大剣まで揃ってるんだねぇ……ああ、あのナイフ良さそうじゃないかい?」
言われてナイフが置かれた棚に目をやり、そっと鑑定を行う。
エムヴァンのクロムナイフ:クロム鋼製。強度、耐摩耗性を追求しており、エムヴァンの特別な技法により極限まで鍛えられた逸品。使い勝手を求めたため、装飾は最低限に抑えられている。破格。
「……なんでこれが棚に?」
「さぁ?」
説明の通りにシンプルな見た目だった。手に取って眺めてみてもなんの変哲もない。無さすぎるが、攻撃力など詳細まで鑑定をしなくても分かる。切れ味も、耐久度も、恐ろしく良い逸品なのだと。
柄と刃が一体型。持ちやすくするためと、恐らく刃と取っ手の区別をつけるために木材を当ててあるのだろう。
これもまた恐らくだが、一般人が雑に扱ってもこのナイフは向こう20年くらい無傷だと思う。
錆びにくい素材であるうえに、刃が欠けないようにと彼が特別な技術を使っているのだ。見た目は一般的ナイフより細身でやや長く、包丁と言うには短い。使いようによってはそこそこの魔物相手でも戦えるに違いないと思える程度には鋭利そうである。
そんな、気付ける者には生唾を飲むような逸品が、ガラクタ一本銅1~3と書かれた札が置かれた棚にただ乗せられている。無造作にもほどがある。
物語に良くある伝説の剣が、とはいかないだろうがそれでも……銅1~3枚にあって良いとは思えないのだが……。
冷静になってざっと他の商品を見渡してみても、想像していたよりも良い品がごろごろとある。良い品だと思えるのに、ガラクタ扱いで樽に刺さっているものもある。しいて言うなら、飾り剣のようなものの方が恭しく飾られている。少し見てみたが、金額ばかりが嵩んでいて、強度もなければ攻撃力もそれほどない。それでいて重い。豪邸の壁掛けとしてなら価値を見出せるのかもしれないが、ここで売られるようなイメージはない。
なんていうか、宝石店と提携するような店でなら取り扱いがありそうだなという感じだろうか?
そういったものよりは、俺としてはこのナイフに惹かれて止まない。旅にも使えるだろうが、まず日常で助かる。
「なあ店主」
「……なんだい」
俺たちがナイフの存在に驚いていた時、どうやら店主は俺たちを観察していたらしい。神妙な面持ちで居たものだから、視線を向けて目が合って、そちらにも驚いた。気を取り直して、気になっていたので聞いてみることにした。
「……このナイフ、あっちのまともな値札のついた棚にあるのと遜色ないと思うが間違えて置いたのか? それともどこぞの客がいたずらしたか?」
店としてはそれなりに店内の品揃え確認なりで位置の調整をするだろうが、客が多ければその限りではないはずだ。客が置いてったのを都度都度直すのも面倒な店だと思われては客足が遠のくかもしれないのだし、忙しすぎて戻し損ねていた可能性だってある。ただ、これが本来の値段であっても支払って手に入れたいと思っている。つまりはちゃんとした金額が知りたい。
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