ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します

たぬきち25番

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第二章 お飾りの王太子妃、国内にて

6 チームお飾りの正妃の復活(3)

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「ここまでにするか」

 鬼のブラッド先生の言葉で私は顔を上げた。

 やっと、終わった……。長かった……。

 私は本をパタリと閉じると茫然自失としながら、ブラッドを見つめた。
 これまで私は、なぜブラッドが私に王妃に必要なことを教えてくれないのか、と思ったこともあった。
 だが、そんなことを考えていたあの頃の私を捕まえて伝えたい、心から!!

 ブラッドは頭が良すぎて、凡人への指導者には壊滅的に向いていない……と。

 高速で濃厚な内容をぎゅっと凝縮したブラッド先生の講義を終えて、白目をむいていた私に更なる衝撃的な事実が襲いかかった。

「クローディア殿。そんなにのんびりとしていていいのか? そろそろ、フィルガルド殿下と食事の時間だぞ」
「…………………え?」

 この精神状態で、フィルガルド殿下と食事……私……詰んだ?

 本心では、このままブラッドたちとこの部屋で手早く食事を済ませて寝たかった。でも、プレゼントとお見舞いのカードのお礼は早い方がいい。
 それにすでに約束してしまった。ここで断ってしまっては、次こそ絶対にフィルガルド殿下が部屋までやって来るのは確実だ。

「そう……だったわ」

 私がようやく意識を戻すと、アドラーの姿が見えた。アドラーが癒し効果のありそうな優しいお兄ちゃん光線を出しながら私に手を差し伸べてくれた。

「クローディア様、参りましょう」

 私は差し伸べられた手を取るとゆっくりと立ち上がってアドラーの手を離した。そしてアドラーを見ながら微笑んだ。

「ありがとう、アドラー。……行きましょうか」

「はい」

 私は、今度はこの部屋に残っている他の人たちの方を見ながら言った。

「みんな、今日はありがとう。では、お先に失礼するわ」

 みんなに「お気を付けて」や「ご無事で」などこれから食事に行くとは思えない声かけをされながら私が部屋を出ようとするとブラッドが声を上げた。

「クローディア殿」

「何?」

 ドアの前でブラッドを振り返ると、ブラッドは余裕の笑みを浮かべながら言った。

「眠れなかったら、今日の復習をするといい」

 私は思わず今日のブラッド先生の講義を思い出してゾッとした後に、小さく笑って答えた。

「ええ。そうするわ。一瞬で眠れそう……じゃあ、また明日ね」

「ああ。また」

 そう言って私は、執務室を出てフィルガルド殿下との食事に向かったのだった。確かに眠れなければ今日のブラッドの講義を思い出せば眠れるかもしれない。
 それに心地よいアイピローもある。

 うん――大丈夫だ。

 私は、少しだけ足取りが軽くなっていたのだった。
 







 クローディアとアドラーが執務室を出た数分後に、リリアが執務室に戻って来た。
 リリアは執務室に残っていたブラッド、ガルド、そしてラウルとジーニアスに先ほどの薬師との会話の内容を伝えることにした。
 クローディアはすでにいなかったが、ブラッドには先に伝えた方がいいと判断した。

「ブラッド様。至急お伝えしたいことがございます」

 いつも冷静なリリアの慌てた様子に、ブラッドや他の皆もどこか緊張した顔でリリアの話に耳を傾けた。
 そんな中ブラッドがじっとリリアを見つめながら尋ねた。

「どうした?」

 リリアは息を整えて、口を開いた。

「先ほど、王宮の薬草保管室の薬師にクローディア様の今回の旅のために薬を貰いに行ったところ、船の完成披露式に、フィルガルド殿下がご出席されるとか」

 ブラッドは、怖いほど眉を寄せながらジーニアスを見ながら尋ねた。

「……聞いていないのか?」

 ジーニアスは首を振りながら答えた。

「聞いておりません」

 ブラッドは表情を消し去り、この場が凍てつくような低い声を上げた。

「ガルド……早急確認を」

「はっ!!」

「私も同行します」

 ガルドとラウルは素早く立ち上がると、薬師の元に向かうために執務室から出て行ったのだった。

「私も記録部に戻って確認します」

 ジーニアスも二人に続いて部屋を出て行った。

「…………」

 ブラッドは執務机に座ったまま黙って皆が出て行った扉を見つめたのだった。
 
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