聖なる王女はベッドの上で帝国を救う

第五十七話 地下聖域への潜入と黒曜の罠

カルロス・ディーンからもたらされた情報は、衝撃的であると同時に、黒幕の正体と、その恐るべき計画の輪郭を明確にした。
「黒曜の円卓」の指導者アルベリッヒ・フォン・クロイツ。
彼が帝都の地下深くに眠る禁断の聖域で、世界を混沌に陥れるための大規模な儀式を計画しており、その儀式には聖女であるレティシアの力が必要とされている。
事態は一刻の猶予も許さなかった。
クリストフは直ちに、父帝ルイードにこの事実を報告し、地下聖域への潜入調査と、アルベリッヒ逮捕のための作戦を立案した。
皇帝もまた、事の重大さを理解し、帝国の総力を挙げてこの危機に対処することを決断。
しかし、敵は巧妙で、その全貌はまだ掴めていない。
大規模な軍事行動は、敵に警戒され、儀式を早めさせる危険性もある。
そこで、クリストフ、レティシア、そして事情に詳しいカルロスの三人に加え、最も信頼できる副官マルクスと、聖騎士団長のベネディクト将軍、そして数名の精鋭騎士だけという少数精鋭の部隊で、秘密裏に地下聖域へ潜入し、儀式を阻止すると共にアルベリッヒを捕らえるという、極めて危険な作戦が決定された。

「レティシア、本当に大丈夫ですか？ これまで以上に危険な任務になります。あなたを危険に晒すわけには…」

作戦決行の前夜、クリストフは不安げにレティシアの手を握った。
彼の瞳には、彼女を深く愛するがゆえの苦悩が浮かんでいた。

「クリストフ様、私は大丈夫です。私の力が、この世界を救うために必要とされているのなら、逃げるわけにはいきません。それに、あなたと一緒なら、どんな困難も乗り越えられると信じています」

レティシアは、クリストフの手を強く握り返し、揺るぎない決意を込めた瞳で彼を見つめた。
その姿は、もはや守られるだけの聖女ではなく、共に戦う戦士のようだった。

その夜、二人は言葉少なにお互いの存在を確かめ合うように、深く、そして静かに愛し合った。
それは、明日への不安を打ち消し、互いの魂に勇気と力を与えるための、神聖な儀式にも似ていた。

「んっ、ふぁっ…クリストフ様…っ…」
「あぁ…レティシア…」

レティシアは、クリストフの温もりの中で、自身の聖なる力を最大限に高め、明日の戦いに備えた。
彼女の指先から溢れ出る清らかな光が、クリストフの体を包み込み、彼の魂を浄化し、闇への抵抗力を極限まで高めていく。

「…ぁっ、んんっ…」
「レティシア…あなたの体は…まるで熱の塊のようだ…」
「クリストフ様こそ…っ…あ、んんっ、動くたび…熱いですっ…」

クリストフもまた、彼女の聖なる愛撫に応え、その熱い楔を彼女の最奥へと導き、互いの魂が溶け合うような深い結合の中で、明日への誓いを新たにする。
彼女の秘芯の熱さと、柔らかく脈打つような締め付けが、彼に生きる力と戦う勇気を与えてくれる。
二人の肌が触れ合い、吐息が重なり、愛の言葉が囁かれるたびに、彼らの魂はより強く共鳴し、見えない光の絆で結ばれていった。
その絆こそが、彼らの最強の武器となるだろう。

翌日、月も隠れる闇夜に紛れ、クリストフたちは帝都の地下に広がる迷宮のような水路から、禁断の聖域へと続く秘密の通路へと潜入した。
カルロスが持つ古地図と、レティシアの「闇の探知」能力が、彼らを導く唯一の頼りだった。
通路は狭く、湿った空気が漂い、時折、不気味な音が闇の奥から響いてくる。
それは、まるで冥府への入り口のようだった。

レティシアは、全神経を集中させ、周囲の気配を探った。
地下深くに進むにつれて、ザルゴスが封印されていたとされる場所特有の、濃密で古い闇の気配と、それに混じって「黒曜の円卓」の者たちが放つ、冷たく計算高い悪意の波動が、徐々に強まっていくのを感じる。

「クリストフ様、この先に、非常に強い闇のエネルギーが集まっています。おそらく、そこが儀式の場所です。そして…複数の人の気配も感じます。おそらく『黒曜の円卓』の者たちでしょう」

レティシアが小声で報告すると、クリストフは頷き、マルクスとベネディクト将軍に合図を送った。彼らは剣を抜き放ち、いつでも戦えるように警戒態勢を整える。

やがて、一行は広大な地下空間へとたどり着いた。
そこは、巨大な鍾乳洞をくり抜いて作られたような、異様な雰囲気の場所だった。
中央には、黒曜石でできた巨大な祭壇がそびえ立ち、その周囲には、おびただしい数の蝋燭が灯され、不気味な紋様が描かれた黒い布が垂れ下がっている。
そして、祭壇の上には、水晶のような透明な台座が置かれ、そこから禍々しい紫色の光が放たれていた。その光景は、まさに悪夢そのものだった。