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〜オマケ後日談〜

叶わない小娘 〜スタン視点〜

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 「冒険者は身体が資本だろ? 割と早いうちに引退して貯金を資本にして開業する奴等もいるし、いつ死んでも不思議じゃない仕事だからな嫁や子供がいる奴は残せる金がでかい方がいい」


 色気も素っ気もない会話をしながら職人街に足を進める。


 ――今日に限って何故かコイツの手を握ったままだ。何やってんだ俺?――


 彼にとっては魔人に捕まった後、自分の中に入ってきた魔力の本来の持ち主のリナ。
 お互いに自我が消えずに1つの身体の中で共存して反発し合いながら過ごした相手で、言葉遣いも冒険者相手みたいに適当でも全く気にしない彼女は何となく付き合いやすかったし、不思議と遠慮もない。
 身体に戻った彼女は少しだけ雰囲気が変わったけど魔力が体に戻ったと思えばそんなものかもしれない。
 前世のリナも今は混ざってるから当然なんだろうとも思う。


 「ギルドの職員は、薄給でも安全てことでしょうか?」


 後ろから声がかかった。


 「まあ、現場よりは確実に安全だ。新人研修なんかに駆り出されなけりゃな」

 「新人研修?」

 「冒険者になったばっかりの連中の引率だな。野外で新人ばかりを引き連れて訓練するんだ。泊まり込みで野外キャンプで魔獣狩りだな」

 「へえ~。親切ですね。騎士団なんかいきなり前線部隊行きでしたよ」


 アハハハと思い出して笑うリナの言葉にギョッとして振り返った。ニコニコ笑いながら此方を見るワインの赤のような瞳が綺麗だ。


 「え? 訓練無し?」

 「ええ。いきなり眼の前に魔獣の群れですね。で、動きを見て本人向きの部署に配属が決まったらほぼ毎日最前線です」

 「マジか。この国の騎士団が強い訳はそういう事か」


 そういえばコイツは強い魔力を誇るからこそ魔人に魔力を盗まれたんだっけ。


 「休みも多いですよ。給料はSクラスの冒険者さんには劣るかもですけど、何しろ最低でも20人編成の集団戦ですからね。分配すればそんなものでしょう。スタンさん達は4人でそれをやってる訳ですから、私達の5倍は貰わないと割が合わないでしょうから、当たり前かもしれません」

 「!」


 里奈の考え方はスタンにとってはある意味斬新だった――


 「凄い理屈だな。そう考えるとギルドの職員は人数は馬鹿みたいに多いから薄給になるのは当たり前だな。仲介手数料だけでやって行くのは辛いから宿舎や食堂や酒場の経営もヤッてる訳だが・・・」

 「直営の宿もですよね」

 「ああ。そうやって考えたら俺のやった事は本当なら許されない犯罪だな・・・」


 後悔とは後からするモノとはよく言ったものだと思うスタン。


 「でも残業手当も出ないのに1人で遅くまで仕事してたでしょう?」

 「あ? ああ。よく知ってんな。ギルマス達は家庭があるし、職員は定時で就業させる義務があるからな」

 「じゃあ、スタンさんも定時に終わっていいんですよ」

 「え?」

 「だって休みも体調を整える為の仕事ですから」

 「・・・・」

 「残業分の手当を貰えないならする必要は全くありません。それやっちゃったからスタンさんは不満が出たんですよ」

 「・・・・成る程な」

 「私は1度貴方の中にいましたから。貴方のやったこともその時の気持ちもその時に感じ取りました。忘れて無いですよね?」

 「え?」


 急にピタリと歩みを止めるスタン。


 「気がついてなかったんですね。あの時意識共有はしてましたよ? その時にああ不器用な人だなって思ったんです。ギルマスの家庭とか心配しちゃって早く帰れとか言って、自分は残って仕事の遅れが出ないように翌日の準備までしてましたよね」

 「~~~~~~!!」


 くすくす笑う綺麗な顔はいたずらっ子のようにニンマリすると、


 「バレてますよ私には」


 そう言って極上の微笑みを見せる。


 「・・・ 参ったなあ」

 「参らなくて良いですから行きましょう? お店は1軒だけじゃ無いでしょう?」

 「ああ、2、3件行くつもりだが」

 「じゃあ行きましょうよ。遅くなっちゃう」


 今度は彼女が握った手をグイグイ引っ張って、職人街に向かい始める。


 「ああ。急ごう食堂で時間を喰っちまったからな・・・」

 「・・・毎回何で私と会う日にソニアさんが来るんでしょう?」

 「へ? ああ。そう言えばそうだな」


 確かにそうだ。毎回現れるよな?――


 「2週間に1度しかスタンさんには会えないから時間が勿体ないんですけど私」

 「え?」


 仏頂面になって口を尖らす彼女が何だか・・・ 可愛い?―― アレ?・・・


 「原因調べといて下さいね! 何か『デート』の邪魔されて、気分良くないですから」

 「え?」

 「デート!! スタンさんがどう思っててもデートだって私は思ってるんですからねッ!!」


 顔を真っ赤にして言い切ったけれど恥ずかしくて又前を向くが耳は赤いままで・・



 スタンまで顔が赤くなった。



×××



 「いい! その調子よー!」


 職人街に続く街路樹の上に障壁足場を作って下を覗いていたソフィアの口を慌てて塞ぐシルファ。


 「あ、ゴメン」

 「静かにしないとバレるぞ」


 まさか王太子夫妻にデートをデバガメされているとはリナもスタンも思わないだろう・・・

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