私を陥れたつもりのようですが、責任を取らされるのは上司である聖女様ですよ。本当に大丈夫なんですか?

木山楽斗

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2.曲がった先に

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 私は、エムリーナ様から離れるために早足で歩いていく。
 陰口を叩いていた二人がどうなるかはわからない。ただ、あの二人のとばっちりで私まで被害を受けるのはごめんだ。今回の件に、私は関係ないということにしなければならない。

「おっと……」
「あっ……」

 そんな私は、曲がり角を曲がった所で足を止めることになった。
 私の目の前に、一人の男性が現れたからである。
 彼も丁度曲がろうとしていたのだろう。私の姿を見て、目を丸くしている。

「す、すみません。急いでいたもので……」
「いや、謝る必要はない。これは不可抗力というものだろう。俺も君を責めようなんて思わない。顔を上げてくれ」

 頭を下げた私に、男性は寛大な心で言葉をかけてくれた。
 そのことに、私は安心する。なぜなら、目の前にいる人はその機嫌一つで、私の首を文字通り飛ばすことができる人だからだ。

 目の前の男性の名前は、ゼルフォン・オーロンド。
 このオーロンド王国の第二王子なのである。

「そんなに怯えないでくれ……といっても、無理な話か。君からすれば、俺は恐ろしい存在であるのだろうしな」
「えっと、それは……」
「すまない。答えにくいことを言ってしまったな」

 ゼルフォン殿下は、少し自嘲気味に笑みを浮かべていた。
 もしかして、私があまりにも恐れるものだから、萎縮してしまっているのだろうか。それはなんというか、少し申し訳ない。

 ただ、こちらとしては仕方ない面もあるのだ。
 王族なんて、私達平民にとっては恐れ多い存在である。失言や失礼な態度を取ったら全てが終わるかもしれない。正直気が気ではないのだ。

 この王城で働く以上、その心配は常について回って来る。
 平民出身はそこまで数が多くないため、大抵の場合とにかく失礼がないように、私は努めているのだ。

 それに加えて、今回はエムリーナ様のこともある。
 ここまで離れていれば、多分先程の件との関わりは疑われないだろうが、それでも焦りがあるのだ。

「まあ、お互いに廊下の曲がり角では慎重に歩みを進めるとしよう。万が一、誰かとぶつかったりしたら大変なのだからな」
「か、寛大な心遣い、感謝致します、ゼルフォン殿下」
「寛大という程のことではないと思うが……さて」

 そこでゼルフォン殿下は、周囲の様子を伺っていた。
 それに釣られて、私も周りを見渡す。ただ、特に人は見当たらない。珍しいくらいに、廊下は静かだ。

「アルエリア、君とは前々から少々話がしたいと思っていた。もしも暇ならば、少しいいだろうか?」
「……え?」

 ゼルフォン殿下の言葉に、私は固まってしまった。
 彼の提案、それに対して私は心穏やかではいられない。
 もしかしたらこれは、そういう提案ということなのだろうか。そんなことを考えて、私は額から汗を流していた。
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