私を陥れたつもりのようですが、責任を取らされるのは上司である聖女様ですよ。本当に大丈夫なんですか?

木山楽斗

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5.魔法による契約

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「今の所大きな問題にはなっていないが、聖女エムリーナは何かやらかしかねない。それが俺は気になっている」
「そうですか? 確かに心配ですね」

 ゼルフォン殿下は、深刻な顔をして言葉を発していた。
 それに対して、私はとりあえず頷いておく。

 王族である彼にとって、王城の秩序を保つことは重要なことであるのだろう。
 それは彼の表情から伝わってきた。

 ただ私はそれに対して、そこまで真剣に返答を返せるという訳ではなかった。
 私は自分が生きていくということに精一杯である。王城の秩序だとか、そういう大きいことを気に掛ける余裕なんてないのだ。

「そこで君の力を借りたい」
「私の力、ですか?」
「君よりも劣ってはいるが、聖女エムリーナは強力な魔法使いだ。それは間違いない。それを止められるのは、恐らく君くらいだろう。故に俺は、何かあった時のために君に頼んでおかなければならない。聖女エムリーナを止めることに協力して欲しいと」
「なるほど……」

 私は、ゼルフォン殿下の意図していることが段々とわかってきた。
 これは要するに、保険ということなのだろう。もしも何かあった時、私が尻込みして動かないと、ゼルフォン殿下や他の王族達が困るのだ。

 確かに、聖女エムリーナを正面から抑えつけられる魔法使いは、私くらいであるだろう。
 多勢に無勢でも成し遂げられないことはないとは思うが、私が動いた方が被害は最小限に済むだろうし、話が早い。

「つまり何かあった時は、躊躇わず聖女エムリーナを止めていいという訳ですね? その責任は王家が取ってくれると?」
「ああ、それを保証するとしよう。魔法によって君と契約を交わす。それに関しては、君の方が詳しい訳であるし、そちらに任せよう」
「それは……」

 ゼルフォン殿下は、私の目を真っ直ぐに見てきた。
 魔法による契約は、様々な方式があり、中には危険なものもある。それすらも許容するということからは、ゼルフォン殿下の覚悟が伺える。

 そこで私は、慎重に魔方陣を作った。
 彼が契約を交わしてくれるというなら、私としては提案を安心して受け入れられる。そのためにも契約に関する魔法は、完璧なものにしておかなければならない。

「わかりました。私はゼルフォン殿下と契約を交わします。契約の内容は約束を破れないということでよろしいでしょうか?」
「ああ、ここに署名と血判をすれば、良いのだったな?」
「魔法による契約は、その内容を相手に明かしておかなければなりません。つまり、ペナルティの内容も伝えなければならないのです。もしもゼルフォン殿下が私との約束を破ったら、あなたは私の操り人形になります。本当によろしいのですか?」
「なるほど、どちらにしても君の安全は保障される訳か」

 私の言葉に、ゼルフォン殿下は笑みを浮かべていた。
 彼は、とても余裕そうである。それはつまり、契約を決して破らないという自信があるからなのだろう。

 ゼルフォン殿下は、そのまま魔方陣に署名と血判をしてくれた。
 これで私と彼との間で、契約が完了したのである。
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