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6.安全のための言質

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 署名と血判を終えたゼルフォン殿下は、少し体を動かし始めた。
 それはつまり、契約が終わったかどうかを確かめているということなのだろう。
 ただそれは無駄なことである。なぜなら、この段階で契約に関する何かが起こっているという訳ではないからだ。

「ゼルフォン殿下、契約は完了しました。これであなたは、私との約束を破ることはできません。どうか私の安全を保障してくださいね?」
「もちろんだ……なるほど、そういうことか」
「すみませんね。でも、私としては死活問題ですから」

 そこで私は、ゼルフォン殿下に対して少しだけ保険をかけておいた。
 先程交わした契約は、言葉通りの契約だ。つまり、彼は私との約束を破ることができなくなっている。

 それはエムリーナ様のことに対して、働いている訳ではない。
 今の彼は、私とのあらゆる約束を破れなくなっている。私の安全を保障して欲しいという言葉に頷いたことによって、ゼルフォン殿下が私に危害を加えようとした瞬間、彼は私の傀儡になるのだ。

 少々申し訳なさはあるが、これも安全のためである。
 相手が王族である以上、強かにいかなければならない。これでやっと、本当に安心できる。

「いや、問題はない。元より、君の安全は保障するつもりだったからな。しかし、魔法使いというものは強かなものだな?」
「ええ、魔法による契約なんて、あまりしていいものではありませんからね……」
「勉強になった。礼を言おう」
「お礼を言われるようなことではありませんよ」

 ゼルフォン殿下は、苦笑いを浮かべていた。
 やはり私のやり方は、汚かったということなのだろう。

 王族に対してそのようなことをしたということには、不安と焦りがある。
 ただ、それでも私は安全だ。それは契約によって、保証されている。

「ふむ。しかし、君との契約には一つ明確な抜け道があるな?」
「抜け道ですか?」
「ああ、君との約束を破ってはいけないということは、君と約束を交わさなければ問題がないということだろう? その辺り、君は優しいと言える」
「そうでしょうかね?」

 ゼルフォン殿下は、すぐにこの契約のことを理解していた。
 約束を交わすということは、私から彼が提案したことに同意する必要がある。
 その同意さえしなければ、この契約には意味がない。はぐらかされるだけでも、効果がなくなってしまうのである。

「もっとも、君とお茶の約束もできないというのは、少々もどかしい事柄ではあるか」
「……お茶に誘っていただけるんですか?」
「さて、どうだろうな?」

 私とゼルフォン殿下は、そこでお互いに笑い合った。
 なんというか、彼となら上手くやっていけそうだ。
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