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43.本に宿るもの

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「……あなたは一体、何者なのかしら?」
『……』
「答えてくれないのね……」

 私は、半透明な女性に質問を投げかけた。
 しかし、彼女は答えてくれない。鋭い視線を投げかけてくるだけである。

「答えてくれないというなら、こちらにも考えがあるわ」
『……?』
「私の目を見なさい」
『こ、これは……?』

 このまま彼女はきっと何も答えてくれない。そう思った私は、彼女に強制的に答えてもらうことにした。
 はっきりと言って、彼女を消滅させるのはそれ程難しいことではない。このまま消滅させても問題はなかっただろう。
 だが、私は今回の事件の真実を知りたいと思っていた。一体、この半透明な女性は何者で、何をしていたのだろうか。

「さあ、力を抜いて私の指示に従って……」
『うっ……』

 私は、彼女に魔法をかけていく。
 幸いにも、私のことをじっと見つめてくれていたため、半透明な女性は簡単に私の魔法にかかってくれたようだ。

「まず、あなたの名前から聞かせてもらえるかしら?」
『私の名前は……エルネリス』
「エルネリス……」

 彼女の名前は、聞いたことがないものだった。
 少なくとも、魔法関連で業績を残しているような人物ではないようである。
 とはいえ、闇の魔法のことに関して私は詳しくない。もしかしたら、そちらの道を極めた人物という可能性はある。

「あなたは、何者なの? そうね……どうして、本に宿っているのか聞きたいわ」
『私は、この世に未練を残していた……だから、死んでからもその魂は現世に留まり続けていた。この本は、その媒体だったというだけ。偶々、近くにあった本に私は宿ることになったの』
「なるほど……」

 どうやら、エルネリスは幽霊のような存在であるらしい。
 それに、この本は別に彼女にとって特別なものではく、偶然近くにあっただけのものであるようだ。
 ということは、彼女は闇の魔法に長けているという訳ではないのかもしれない。

「その未練とは一体何かしら?」
『私は、姉に殺された……その憎しみで、現世に留まった』
「姉に殺された? あなたは、その姉に復讐しようとしているということ?」
『……正確には少し違う。姉は、既に亡くなっている。とっくの昔にね』

 私の質問に、エルネリスは口の端を歪めてそう答えた。
 恐らく、彼女は結構昔の人なのだろう。長い間、現世に留まっているのではないだろうか。
 しかし、復讐するべき対象である姉が亡くなっているというのに、留まっているという事実は気になる所だ。一体、どうして彼女は成仏しないのだろうか。
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