ですがそれは私には関係ないことですので

木山楽斗

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16.関係がないこと

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 リヴルム様は、目の前にいる私と二人の女性に対して、苦悶の表情を浮かべていた。
 今のこの状況は、彼にとっては最悪といえるだろう。修羅場といっても差し支えない。

「リヴルム様、これはどういうことなのですか?」

 ペルファ嬢は、語気を荒げてリヴルム様に詰め寄っていた。
 私やフォルナと比べて、彼女はかなり怒っている様子だ。本当に愛し合っていると思っていた彼女にとって、フォルナの存在は許せないものなのかもしれない。

 しかし幸いなことに、ペルファ嬢の怒りはリヴルム様に向いている。
 フォルナが責められる可能性もあったため、私は少し安心していた。身重の彼女が責められるというのは、できれば避けたいことだったからだ。

「リヴルム様……」

 その当の本人であるフォルナは、そこまで怒っているという訳ではなかった。
 彼女としては、自分が所謂妾であるという認識だったのだろう。リヴルム様に対して、少し呆れたような視線を向けている。

 私としても、リヴルム様にはそういった視線を向けざるを得ない。
 彼の短絡的な行動は、情けないとしか言いようがないからだ。

「婚約のことはともかく、こちらの女性の妊娠は明らかに私と交際していた期間の話ではありませんか! あなたは一体、何をしていたのですか?」
「い、いや、それは……」
「しかも、平民に手を出すなんて、どういったことなのです? あなたは、平民が嫌いだったのではありませんか?」

 リヴルム様は、ペルファ嬢の乱雑な言葉に何も言えなくなっていた。
 彼は、縋るような視線でフォルナの方を見る。その視線から、フォルナはゆっくりと目をそらした。平民である自分には、ペルファ嬢をどうすることもできないということだろう。

 そこで彼は、私の方に目を向けてきた。
 今度は私のことを頼ってきたということだろうか。それなら彼には、とある事実を告げなければならない。

「申し訳ありません、リヴルム様。この件は、私と関係がないことですから」
「な、何?」
「リヴルム様が自分で仰っていたではありませんか……ああ、あなたとの婚約は、破棄させてもらいます。理由は言うまでもありませんよね?」
「お、おい……」

 私は、リヴルム様にゆっくりと背を向ける。
 言うべきことは言ったので、これ以上彼と話し合う必要があるとは思わない。見るに堪えない光景であるし、ここは立ち去らせてもらおう。

 私は、成り行きを見守っていたニーベル伯爵夫妻とルベート様に目配せをする。
 婚約破棄するのだから、これ以上ここに留まるつもりはない。その旨は三人にも既に伝えている。
 こうして私は、ニーベル伯爵家を後にするのだった。
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