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18.知らない世界

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「それでルシウスは、これからどうするつもりなの?」
「まあ、しばらくは王都に留まろうと思っています。その後は北へ向かおうかと」
「そう。それならしばらくは会えるということね」
「ええ、そういうことになります」

 ルシウスの言葉に、私は少し嬉しくなっていた。
 彼と気軽に会えるのは、私にとってはとても喜ばしいことだ。色々としがらもなくなったことだし、弟と親交を深めたいという気持ちもある。なんというか、これからの毎日が楽しくなりそうだ。

「お金はあるのかしら?」
「ええ、その辺りに関しては問題ありません。それなりに稼いでいますから」
「冒険者は中々安定しないと聞いているけれど、上手くやっているのね?」
「真面目に依頼をこなしていれば、生活に困るなんてことはありませんよ。生活ができるからこそ、冒険者もそれなりに数がいる訳ですし」
「まあ、言われてみればそれはそうよね」

 冒険者は基本的に自由な職業である。そのため色々な人がいるのだろう。私が噂に聞くような人達は、悪い冒険者ということだろうか。

「困っているなら頼ってくれてもいいのよ?」
「ご心配なく、王都でも稼ぐつもりですからお金に困ることはないと思います」
「王都でも依頼はあるものなの?」
「ええ、もちろんです。むしろ、依頼は王都にこそ転がっていますよ」
「冒険者に関しても、王都が一番盛り上がっているのね……」

 どうやら私は、冒険者に関してまったく知らないようだ。わかっていたことではあるが、それは少し恥ずかしい。
 今後のために、弟から色々と聞いておいた方がいいかもしれない。私だって、冒険者に何かしらの依頼をすることはあるのかもしれないし。

「でも、騎士団の本拠地では討伐依頼なんかは少ないんじゃないの?」
「いいえ、騎士団の本拠地であるからこそ、むしろそういう依頼は多いんですよ。騎士団が依頼を出しますからね」
「そうなの? でも自分達でやる方が早いんじゃ……」
「騎士団だけでは手が回らないんですよ。王国直々の部隊ですから、色々と制約もありますし、全て手が回らないというのが現状らしいです」
「制約……そっか」

 ルシウスの言葉に、私は騎士団や魔術師団がどういった組織であるかを思い出していた。
 王国によって作られた二つの組織には、色々と決まりごとがあるのだ。自由な気質である魔術師団であまりそれを意識することがないので、少し頭から抜けていた。
 そんな組織が自由に討伐できる訳なんてないのだ。だからこそ、自由な冒険者に頼るということなのだろう。

「それに魔術師団からも依頼が出ることがありますよ」
「え? そうなの?」
「ええ、知りませんでしたか?」
「ええ、その辺りはまったく……」

 どうやら私は、冒険者所か騎士団や魔術師団に関する知識までなかったらしい。なんというか、少し情けなくなってくる。弟の前で無知を晒すのは流石に恥ずかしい。

「騎士団や魔術師団といった王国直属の組織からの依頼は信頼もできますから、冒険者としてはありがたい限りなんですよ。依頼を出した所によっては、問題が起こったりもしますからね」
「……世の中には色々な人がいるのね」
「ええ、そうですね。お陰で、色々な世界を見てきましたよ」

 ルシウスは私に笑顔を向けてきた。きっと大変だったはずだが、彼はとても嬉しそうにしている。やはり彼には、冒険者が肌に合っているということなのだろう。
 そんな彼に比べて、私は無知である。それは私が貴族の世界くらいしか知らないからなのだろう。私はもっと、色々なことを知る必要があるのかもしれない。今後この世界で自由に生きていくためには、それがきっと必要だ。

「見聞を広めるのはいいことよね。私もそれは見習わなければならないわね」
「おや、姉上も冒険者に?」
「いいえ、それは流石に無理だわ」

 ルシウスの言葉を、私は即座に否定した。
 確かに彼のように世の中を知っていく必要はあると思ったが、冒険者にはなりたくない。私には多分、魔術師団のような組織に属する方が似合っているはずだ。

「そうですか。それは残念です。姉上ならいい冒険者になれると思ったのですが……」
「私はわざわざ危険に飛び込もうなんて思わないわ」
「俺とコンビを組んで、各地を旅してもらえると結構嬉しかったんですけどね」
「残念ながら、今はここを離れるつもりはないわ」

 私は今まで、危険を避けて生きてきた。そんな私に危険を好む冒険者なんて無理だ。
 もっとも、ルシウスと旅をするというのはそれなりに魅力的な提案ではある。機会があったら、そういう旅をしてみるのもいいかもしれない。
 そんなことを思いながら、私はルシウスと話を続けるのだった。
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