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31.伯爵家にて①

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 私は、リルフを連れてラナキンス伯爵家の屋敷の近くまで来ていた。
 アルバナスの町から、少し離れた場所にあるこの屋敷には、時々来ることがある。本来なら、平民の私が来る機会など非情に限られるはずなのだが、二人と友人であることで、よく来ているのだ。

「む? 貴様は、孤児院の娘」
「あっ……」

 屋敷の前で、私はとある人物に出会った。この屋敷の主人であるマルギニム・ラナキンス伯爵である。

「なんだ? この屋敷に用でもあるのか?」
「ええ、ミルーシャ様とメルキム様に会いに来たのです」
「ふん、平民と馴れ馴れしくするなど、あ奴らは貴族としての自覚が足りん」

 私の言葉に、ラナキンス伯爵は少し怒っていた。その怒りの原因を、私はよく知っている。

「二人は、まだラナキンス伯爵に反発なさっているのですか?」
「忌々しいことだが、その通りだ」
「なんというか、二人は少し勘違いをしているみたいですからね」
「はっ! 平民である貴様の方がよくわかっているじゃあないか。益々、あ奴らが情けないわ」

 ラナキンス伯爵は、ミルーシャやメルキムから嫌われている。伯爵の言うことに、二人はよく反発しているらしい。
 二人がそうなったのは、伯爵が決定した孤児院の取り壊しのせいだ。私を含めた孤児院の皆と仲が良かった二人は、伯爵の決断が許せなかったようである。
 私や孤児院の皆は、伯爵に恨みを抱いている訳ではない。シスターがなくなった時点で、あの孤児院がやっていくのが難しいことはわかっていたし、維持費などを考えれば、取り壊しは仕方ないと思ったのだ。
 それに、伯爵は私以外の皆に居場所をくれた。恨む理由など、あるはずがないなのだ。

「私が怒っていないのに、二人が怒るというのも、おかしな話だと思うのですが……」
「まったくもって、その通りだ。私は、何も非道な決断を下した訳ではない。必要なことをしたまでなのだ。それなのに、あ奴らは感情論だけで訴えおって。貴族として、どこで育て方を間違えたのか」
「まあ、そこまで言わなくても、いいんじゃないでしょうか……」

 私に関しては、仕方ないことだと思っている。伯爵が色々な所に掛け合ったのは知っているし、怒る必要があると思っていない。
 エルッサさんに拾われなかったら、それはそれで伯爵はなんとかしてくれたはずである。口も態度も少し悪いが、この人はそういう人なのだ。
 しかし、二人は私の境遇に対してかなり怒っていた。孤児院を取り壊すだけでなく、フェリナを放っておくとはどういうことだというのが、二人の考えのようだ。
 こういうことは、他者の方が怒るものなのかもしれない。怒っている二人の態度を見る度に、私はいつもそんなことを思っている。
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