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91.騎士団長との戦い③

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「ぐああっ!」
「ぬうっ!?」

 ローディスの手には、確かに肉を切り裂く感触が伝わってきた。しかし、それ以上に彼は、自身の胸部に痛みを覚えていた。
 何が起こったのか。ローディスにはわからなかった。後退しながら見えたのは、血を流すアラーグだ。つまり、ローディスの攻撃は、確かに決まっていたということだ。
 だが、同時にローディスは自身の状態も理解した。彼の鎧には、大きくひびが入っている。左胸の辺りに、攻撃を受けていたのだ。

「まさか……」

 アラーグが何をしたのか、ローディスはだんだんと理解してきた。彼は、ローディスの斬撃に合わせて、拳を振るっていたのだ。
 ただの拳で、ここまでの威力はないはずである。恐らく、カウンターのような要領で、攻撃したのだろう。
 結果的には、アラーグは切り裂かれて、ローディスは痛みを覚えただけだった。だが、もし完璧に攻撃が決まっていれば。もし、彼の武器が健在だったならば。
 そう思い、ローディスは驚いていた。自身の最大の奥義に、そのような弱点があったということに、彼は衝撃を覚えていた。それを最初の一撃で見抜いたアラーグの実力にも、彼は驚きを隠せない。

「いや、それ以前に……」

 そこで、ローディスはとある事実に気づいた。よく考えてみれば、彼の奥義を受けたアラーグが、ああして立っていることがおかしいのだ。
 恐らく、攻撃を受けたことで、ローディスの斬撃は完璧に入らなかったのだろう。ローディスは、自らの攻撃の大きな弱点を悟るのだった。

「……俺の奥義を破ったことは見事だ。しかし、それでも、勝者は変わらない」
「うぐっ……」

 ローディスは、ゆっくりとアラーグに近づいていく。
 アラーグの力は、称賛に値するものだった。だが、結局の所、勝負の結果が変わることはない。
 立っているとはいえ、アラーグは満身創痍である。後もう一撃を加えれば、簡単に倒れるだろう。

「ストーム・ブレス!」
「ぬうっ!」

 しかし、ローディスは大きく後退することになった。自身の前方に、竜巻が現れたからである。
 その竜巻で、ローディスは悟った。あの二人が、現れたのだと。

「兄貴に手を出すな!」
「来たか……」

 ローディスの目の前に、竜と少女が下りてくる。巨大な竜の背に乗った少女の瞳に、アラーグと同じ力を感じて、ローディスはこれから起こる戦いが過酷なものであることを悟るのだった。
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