彼にはみえない

橘 弥久莉

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episode1 私、みえるんです

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----うげっ、一問目から、わからない。


つばさが顔を顰めた時だった。

つばさ以外、誰もいない筈の部屋の中を、

何者かが歩き出した。ヒタヒタ……と擦るように畳を歩く、

音だけが聴こえる。その足音は、ぐるぐる、つばさの

周囲を歩いて、歩いて、そうして、つばさの後ろで

ピタリと止まった。------無視、無視、無視。

通りすがりの浮遊霊にまで構っていたら、キリがない。

つばさは、息を殺してその気配が消えるのを待った。

けれど突然、ドン!とその足が背中にあたった。

あたった、と言うのは語弊があるかもしれない。

蹴られたのだ。その衝撃でポキリとシャー芯が折れた。

マジか……と泣きそうになりながら、それでも我慢して

いると、ドン、ドン!と続けて背中を蹴ってくる。

「あーー、もう無理っ!!」

斗哉とうやの部屋でやろう。

そう、思い立ったつばさは、そそくさと荷物をまとめると、

背中を蹴った主から逃げるように、部屋を出ていった。

玄関のドアを出て、ひとつ隣り。

幼馴染の家のドアを、インターホンと同時に

ガチャリと開けると、廊下の奥から斗哉の母親が

顔を出した。

「あら。つばさちゃん、いらっしゃい」

「お邪魔しまーす」

挨拶もそこそこに、2階に続く階段を上がり始めると、

下から母親の声が聴こえて振り返った。

「あの子、まだ帰ってないわよ。この頃、遅いのよ」

「ですよね。漫画読んで待ってます」

濡れた手をエプロンで拭いながらつばさを見上げる

母親に、にかっ、と笑って返すと、子供の頃から上り

慣れた階段を、軽やかな足取りで上った。

斗哉の部屋に入る。相変わらず、きちんと片付けられた

部屋は、自分の部屋にいるよりも、心地いい。

持ってきた荷物を置いて、角にあるデスクに座る。

ボイルカーテンだけが敷かれたベランダの窓から、

灯りの漏れる、つばさの部屋が見えた。

電気は、消してこなかった。まだ、あの足音が彷徨って

いるかもしれない部屋に、真っ暗なまま入る勇気はない。

つばさは、机の隣にある本棚から雑誌を引っ張り出すと、

1ページ目を開いた。毎週発売される少年アクションだ。

毎回、斗哉から借りて読むことにしている。

つばさが読みたいのは、この中の2作だけだから、

その方が都合いいのだ。斗哉が帰ってくるまでに、さくっ、

と読んでしまおう。そう思って、ごろん、と斗哉のベッドに

寝転がった時だった。ガチャリと部屋のドアが開いた。


「お前なー、人のベッドに制服のまま寝るなよ」

ドアノブを握ったままで、斗哉がうんざりしたように言う。

つばさは、起き上がってスカートを叩くと、ぺろりと舌を

出した。

「ごめん。いつもの癖で、つい。

ってゆーか、読んだら回してって言ってるのに。

コレ、今週出たやつでしょ?」

ため息をつきながら、制服のブレザーを脱ぎながら、

つばさを横目で睨む斗哉に、つばさは口を尖らせて

文句を言った。

「回すも何も、まだ買ったっきり1ページも読んでないの。

 忙しくて、読む暇がないんだよ」

それはつばさも、知っている。生徒会長を務める斗哉は、

ただでさえ学園祭の準備で忙しい。なのに、つばさが

クラス委員に決まった瞬間、斗哉も立候補してしまったの

だから、いまは二重の仕事をこなしているのだ。

そもそも、どうして斗哉がクラス委員までやる必要が

あったのか?その真意は、いまも聞けていない。

12年前、隣に引っ越してきた時から、小、中、高、を共に

過ごしてきた幼馴染、黒沢斗哉は、とにかくモテるのだ。

家でも、学校でも、委員会でも、いつも一緒にいることになった、

つばさに対する、女子の風当たりは酷いものだった。

当の本人は、女子のひがみが迷惑で仕方ないのだけど……

つばさは、ブレザーに続き、シャツ、パンツを脱いで、

トランクス1枚になった斗哉に目をやった。
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