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episode4 帰れない道
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肌を刺すような冷たい水が、全身を覆っている。泳がなくては、と思うのに、
足に何かが絡んで、それを許してくれない。天も地もわからぬまま、
つばさは息苦しさにもがいた。意識が遠のいてゆく。
もうダメだ。このまま、死ぬのかな?
そう思った時、つばさの肩を力強い腕が抱いた。
この腕……誰???
薄れていく意識の中で、浴槽に引きずり込まれる寸前、
嵐の手が自分を掴んだのを思い出す。ああ、そっか、嵐だ。
嵐が自分を抱いて、泳いでくれている。水面に浮上する感覚を
躰に感じながら、つばさの意識は闇に消えた。
-----スゥ-----
空っぽになった肺に、空気が流れ込む。
何度も空気が流れ込んで、少しずつ頭の中の霧が晴れていく。
柔らかな感触が、唇を覆っている。そうして、胸を押される感覚。
「……ばさ!!つばさっ」
また、肺に空気が流れ込んで………
つばさは、突如、吸い込んだ空気で激しく咽た。
「ケホッ!!ゲホッ!!」
苦しさに涙を滲ませる。その背中を、誰かの手が擦ってくれる。
「良かった。もう、大丈夫だ」
その声に顔を上げれば、咳込むつばさを抱きかかえて、
嵐が笑みを浮かべていた。どうやら、生きているらしい。
「あら…し……ここは?」
つばさは、躰を起こして辺りを見渡した。確か、自分たちは別荘の浴槽に
引きずり込まれたはずだ。なのに、いま、自分たちがいるのは狭い砂浜で、
目の前には深緑に縁取られた大きな湖がある。目を凝らせば、対岸には
色とりどりのボートやヨットが並んで見えて……背後には断崖が迫っていた。
「ここって……」
つばさは、目を丸くして呟いた。
「どうやら、別荘近くの……湖みたいだな」
息をついてそう言った嵐に、つばさは「なんで!?」と訊きそうになって、
口を閉じた。別荘の風呂の底が、湖と繋がるなんて非科学的な現象を、
嵐が説明できるワケがない。そんなことを疑問に思えば、異次元に飛ば
されたことだって、科学じゃ説明がつかないのだ。霊的な超常現象。
その一言で、納得するしかない。つばさは目の前の現実をそのまま
受け止めて、嵐を向いた。
「ありがとう、助けてくれて。嵐がいなかったら、私、死んじゃったかも……」
ぽたぽた、と前髪から滴り落ちる水を、手の甲で拭いながら笑んだ。
息が出来ないまま、意識が薄れていく、あの感覚を思い出せば、
今さらながらぞっとする。嵐は、首を振りながら額に貼りつく前髪を
掻き上げた。どきりとつばさの鼓動が、鳴る。
ただでさえ整った顔立ちが、額を露わにしたことで、いっそう大人っぽく、
色気さえ醸し出している。水も滴るいい男、とはこのことだ。
「まったく……つばさが、一人で走り出した時は、どうしようかと思ったよ。
すぐに追いかけたのに、やたら足が速くて追いつけないし、どの部屋に
飛び込んだのかわからなくて、黒沢と手分けしてドア開けてみたら、
今度はつばさが風呂で溺れてるし……やっとの思いで砂浜に引き上げた
お前が、息してなかった時はマジでびびって……本当に、危なかったんだぞ」
形の良い眉を吊り上げて、嵐がつばさの額を小突く。ごめんなさい、と
肩を竦めて、つばさは額を擦った。
もし、嵐がいなかったら、自分は溺れたまま、息を吹き返すことができな
かったかもしれない。嵐が、助けてくれなかったら………あれ?
つばさは、不意に柔らかな唇の感触を思い出して、目を見開いた。
あれは。あの感触は……キスをした時の、ものじゃないだろうか?
指で唇に触れながら、じっと嵐を見つめる。嵐は、バツが悪そうに視線を
逸らすと、手で口元を覆った。
足に何かが絡んで、それを許してくれない。天も地もわからぬまま、
つばさは息苦しさにもがいた。意識が遠のいてゆく。
もうダメだ。このまま、死ぬのかな?
そう思った時、つばさの肩を力強い腕が抱いた。
この腕……誰???
薄れていく意識の中で、浴槽に引きずり込まれる寸前、
嵐の手が自分を掴んだのを思い出す。ああ、そっか、嵐だ。
嵐が自分を抱いて、泳いでくれている。水面に浮上する感覚を
躰に感じながら、つばさの意識は闇に消えた。
-----スゥ-----
空っぽになった肺に、空気が流れ込む。
何度も空気が流れ込んで、少しずつ頭の中の霧が晴れていく。
柔らかな感触が、唇を覆っている。そうして、胸を押される感覚。
「……ばさ!!つばさっ」
また、肺に空気が流れ込んで………
つばさは、突如、吸い込んだ空気で激しく咽た。
「ケホッ!!ゲホッ!!」
苦しさに涙を滲ませる。その背中を、誰かの手が擦ってくれる。
「良かった。もう、大丈夫だ」
その声に顔を上げれば、咳込むつばさを抱きかかえて、
嵐が笑みを浮かべていた。どうやら、生きているらしい。
「あら…し……ここは?」
つばさは、躰を起こして辺りを見渡した。確か、自分たちは別荘の浴槽に
引きずり込まれたはずだ。なのに、いま、自分たちがいるのは狭い砂浜で、
目の前には深緑に縁取られた大きな湖がある。目を凝らせば、対岸には
色とりどりのボートやヨットが並んで見えて……背後には断崖が迫っていた。
「ここって……」
つばさは、目を丸くして呟いた。
「どうやら、別荘近くの……湖みたいだな」
息をついてそう言った嵐に、つばさは「なんで!?」と訊きそうになって、
口を閉じた。別荘の風呂の底が、湖と繋がるなんて非科学的な現象を、
嵐が説明できるワケがない。そんなことを疑問に思えば、異次元に飛ば
されたことだって、科学じゃ説明がつかないのだ。霊的な超常現象。
その一言で、納得するしかない。つばさは目の前の現実をそのまま
受け止めて、嵐を向いた。
「ありがとう、助けてくれて。嵐がいなかったら、私、死んじゃったかも……」
ぽたぽた、と前髪から滴り落ちる水を、手の甲で拭いながら笑んだ。
息が出来ないまま、意識が薄れていく、あの感覚を思い出せば、
今さらながらぞっとする。嵐は、首を振りながら額に貼りつく前髪を
掻き上げた。どきりとつばさの鼓動が、鳴る。
ただでさえ整った顔立ちが、額を露わにしたことで、いっそう大人っぽく、
色気さえ醸し出している。水も滴るいい男、とはこのことだ。
「まったく……つばさが、一人で走り出した時は、どうしようかと思ったよ。
すぐに追いかけたのに、やたら足が速くて追いつけないし、どの部屋に
飛び込んだのかわからなくて、黒沢と手分けしてドア開けてみたら、
今度はつばさが風呂で溺れてるし……やっとの思いで砂浜に引き上げた
お前が、息してなかった時はマジでびびって……本当に、危なかったんだぞ」
形の良い眉を吊り上げて、嵐がつばさの額を小突く。ごめんなさい、と
肩を竦めて、つばさは額を擦った。
もし、嵐がいなかったら、自分は溺れたまま、息を吹き返すことができな
かったかもしれない。嵐が、助けてくれなかったら………あれ?
つばさは、不意に柔らかな唇の感触を思い出して、目を見開いた。
あれは。あの感触は……キスをした時の、ものじゃないだろうか?
指で唇に触れながら、じっと嵐を見つめる。嵐は、バツが悪そうに視線を
逸らすと、手で口元を覆った。
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