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第1部

第15話 探して見つけて、初めての戦闘

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「コン!私はまだ上手く感知できないから、『気配感知』でフィリアを探して!あと、出来るだけ移動を早くしたいから私がルーミャを抱えて、イルリ、『身体強化』を使ってコンを運べる?」

「ぜ、全力で探します!『気配感知』!」

「うん、運べる!『身体強化』!」

「『身体強化』!『威圧』!」

 私がルーミャを担ぎ、イルリがコンを担ぎ、強化された肉体でとにかく森の中を走り回る。フィリアが外に出てからそれなりに時間は経っているが、暗くて足元も悪く、身体強化できないフィリアがそれほど遠くに行けるとは思えない。

 結局は手当たり次第になるが、ある程度捜索範囲を絞ることができる。
 大まかに絞ってからはとにかく走り回る。

 いつかは見つかりそうだが、不安なのは私の魔力量。『威圧』と『身体強化』を使ってるからすぐにガス欠を起こしそうだ。もしフィリアが見つかっても私がガス欠したら帰れなくなってしまう。

 いまいち魔力残量の感覚が掴めないけど、大体一割くらいは残しとかないとな……。

 なんて考えていると、

「こ、こっちの方角にフィーっぽい気配と、ほ、他に大きな気配が一つ………は、走って移動してる!」

「ホント!?イルリ!こっち行こう!」

「うん!」

 こんな速度で走っているのにちゃんと気配を感知できるコンはすごい。イルリも、こんな暗い中で自分と同じくらいの背丈の子を抱えて走れていてすごい。
 最初は守ってあげないといけないとか思ってたけど、この子たちはちゃんと勇気を持っていて、力があるんだ。

 無力だと決めつけて二の句も告げずに置いて行こうとした自分を恥じる。

 というか大きな気配って、まさか………いや、そんな訳ないよ、ね?

「も、もうちょっとで見えると思う!」

 草木を掻き分け走った先に見えた。

 必死に逃げるフィリアと、それを追いかける、熊。
 さっき見た熊より二倍くらい大きくて、全身が黒の毛で覆われていて、顔に白の×印。間違いない。アレは、

「ベアナル!!」

 反射的に手を前方に翳し、

「『ウィンドカッター』!」

 風の刃を発動し、ベアナルに向けて放つ。
 刃は大きな図体の脇腹辺りに直撃し、ベアナルは足を止め、僅かによろける。フィリアはもう限界だったのかうつ伏せで地面に倒れ込み、過呼吸になっていた。

「イルリ!もうちょっと近付くよ!!私がフィリアを担ぐから、近付き過ぎない程度でベアナルの注意を引いて欲しい!」

「う、うん!分かった!」

 全速力でフィリアを拾い、一瞬ベアトルを倒す考えも過ったが、私も残り魔力が少ないし、フィリアは体力がない。場所は覚えたし一旦帰った方がいいよね。

 ミッションは達成したし、すぐにイルリを呼ぼうとした瞬間、ベアナルが鼓膜が破けそうな声量で咆哮した。
 スキルじゃないみたいだし体は動く。問題ない。

「イルリ!一旦家まで帰って………イルリ!?」

 見れば、イルリは青ざめた表情でその場に立ち竦んでいた。
 足はガタガタと震えており、背中に乗っているコンも同じく青ざめて震えていた。どう見ても、すぐに動ける状態じゃない。

 しかも、ベアナルとの距離が近い。ほんの二、三歩進んで振りかぶれば爪が当たりそうな距離だ。

「ぐっ…」

「アカリ、フィリアは、ルーに任せて」

 ルーミャはアカリの背から降りて、しっかりとした目でアカリの瞳を覗いた。
 アカリは下唇を噛んで一瞬だけ迷いを見せたが、

「…分かった!信じてるよ、ルーミャ!」

 私はさっき、この子たちを無力だと決めつけた自分を恥じた。
 だから今度はちゃんと信じよう。大丈夫、ルーミャはちゃんとフィリアを守ってくれる。

 軽く目線だけを交わし、アカリはフィリアをルーミャに任せて足を地面に踏み込んだ。

 高々と振り上げられたベアナルの腕が振り下ろされる直前に、アカリはイルリとコンの方へ突っ込んだ。全員仲良く地面に倒れるが、振り下ろされた爪から逃れることに成功する。

「『ウィンドカッター』!」

 再び繰り出した風の刃がベアナルの顔に直撃するが、大熊は若干よろけるだけですぐにアカリたち目掛けて腕を振り上げる。

「『ウィンドバインド』!」

 即興で考えた『風の束縛魔法』を繰り出す。風のワイヤーがベアナルの腕を巻き込み、糸の両端が奥の大木に突き刺さる。腕を引っ掻けてる間にイルリとコンを抱えて距離を取り、地面に降ろした。

「イルリ、動けそう?」

 尋ねてみるが、イルリは唇を噛んで首を振る。コンは声すら聞こえていないようでガタガタと虚空を見ていた。

 最悪の展開だ。
 流石に四人全身を抱えて走ることはできない。
 イムナーも言っていたが、ベアナルは体皮が異常に硬いようで風の刃もあまり効いているように見えない。

 風の束縛は通じたが、今丁度ブチっと風のワイヤーが引きちぎられる音が響いた。
 アレで縛るのも難しそうだ。見た目通りだが、力もかなりあるらしい。

 魔力もあまり残っていない。

 一先ずイルリたちを置いて前に出る。

「来い!私が相手してやる!!」

 今身体強化かけてるし、ワンチャン拳でいけるんじゃね?

 ってことで思い切り勢いをつけて拳を腹に叩き込む。

「うおおおぉぉ!!」

 ドスッ!と大きな音がして巨体が後ろに倒れていく。ドスンと地面に倒れると、「ぐぎゃあっ」とダメージの入ったっぽい鳴き声を出した。案外いけるかもと希望を見出したアカリだったが、目にも止まらぬ速さで振られた拳によって思い切り殴り飛ばされる。

「ぐぇっ!痛たたた!!」

 殴られた腹部を押さえながら立ち上がる。同じくしてベアナルも立ち上がり、四つん這いになってアカリの方へ走り寄っていく。アカリは負けじと拳をベアナルの米神に打ち付けるが、巨体は止まらずそのままアカリをぶっ飛ばした。

 ゴロゴロと地面に転がり、全身痛くて立ち上がれなくなる。

「ひ、『ヒール』…」

 治癒魔法をかけて回復するが、アカリは冷や汗をかいた。

 待って。今、拳全然効いてなくなかった?
 お腹が弱点なのかな?
 …ホントに?

 考えがまとまるより先にベアナルの拳が飛んできて間一髪で避ける。

「ああもうっ!!もうちょっとで考えまとまりそうなのにっ!!」

 こんなことになるならルーミャの『思考加速』ももらっておくべきだったと後悔する。

 その後も必死の攻防が続き、魔力切れが近いのか頭の奥が霞むような眩暈がアカリを襲っていた。

 や、ヤバ………、倒れそう。

 その隙を狙いベアナルが突進する。アカリの体は軽々と吹き飛ばされ、木に激突する。

「ひ……『ヒール』」

 回復をかけても、余計に頭が霞む。
 段々と避ける力も無くなってきたし、ちょっとでも気を抜いたら『身体強化』が解けてしまいそうだ。風で切っても炎で焼いても拳で殴っても、あの硬い皮膚にはほとんど効いた様子がない。何百発も打ち込んだら倒せるかもだけど、魔力が足りない。

「ハァ…ハァ………」

 もう……無理か?

 いや、あと一発くらいは撃てる。
 この一撃が偶然ベアナルの急所を仕留めれば、勝てる。まだ勝てる。

 諦めるなよ、アカリ。
 お前は助けないといけないんだろ?
 「任せて」と言ったんだ。四人を助けないと、こんな所で諦めるなんてカッコ悪いだろ?

 拳が飛んでくる。

 避けろ。
 避けろ避けろ避けろ。
 動け体!

「わあぁ!!」

 転がるようにギリギリ避ける。
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