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第四章 白魔導師の日々
小話 フロルと魔道具~2
「・・・フロルなのか?」
確かめるように、もう一度、ライルの綺麗な口元から自分の名が呼ばれる。
当然、これは、激しく同意の一択しかない訳で。
ぶんぶんと大きく頷く猫を目の前にして、ライルの顔は目を大きく見開いた。
「ああ、なんてことだ!」
ライルは片手でフロル猫を掴んだまま、もう片方の手を口に当てる。驚きのあまり、ライル様がわなわなと震えている。
ライル様的にもショックが大きかったのだろうか。
考えてみれば、それはそうだ。フロル自身だって、まさかこんなことになるなんて、思いもよらなかったのだから。
そんなライルはフロルを片腕に抱えたまま、扉を大きく開けて、白魔術師のトップであるグエイドを大声で呼んだ。
「お呼びでございますか? ライル様」
恭しく扉の陰から現れたグエイドは、今日もデフォルトの仏頂面だ。竜騎士隊長のドレイク様といい、グエイドといい、どうして、こうも顔面筋が麻痺しているような輩が多いのか。
「ちょっとこれを見てくれ」
そう言って、グエイドに向ってライルが差し出したのは、真っ白な子猫。
「・・・ただの猫にしか見えませんが?」
グエイドは一瞬怪訝そうな顔をしてから、部屋をぐるりと見渡し、額にぴくりと青筋を浮かべた。
(おお、何やらグエイド様がお怒りのご様子!)
なんだなんだと、じっとグエイドを見つめると、グエイドは超絶不機嫌そうに口を開いた。
「そういえば、フロルの姿が見えませんね?・・・こんな所に猫を入れて、仕事をさぼるとは」
ライルの腕の中の猫がぴきっと凍り付く。
いえいえ、サボってなんかいませんよ! グエイド様、むしろ、これって労災ですよね?
ライルの腕の中のフロル猫は尻尾をぴんと伸ばしたまま、グエイドに不満そうな視線を向ける。目の前に、猫を差しだしたライルの意図を計りかねて、グエイドが言う。
「ライル様・・・私に、この猫を棄ててこいと言うことでしょうか?」
グエイド様、なんてことを!
フロルは棄てられてはたまらないと言わんばかりに、真っ青になってライルの胸に縋り付いた。ぎっと爪をライルの服に立てて、棄てられまいと踏ん張る。こんなことになった悔し紛れに、嫌がらせもちょっと込めて、ライルの服にギギっと爪をたててやった。
「こら、フロル! 私の服を破らないでくれ」
ライル様が迷惑そうな顔をして猫を叱ると、そこで、グエイドがぴたりと動きを止めた。
「もしかして、その猫は・・・・」
グエイドも猫が自分であることに気がついたのだろう。わなわなと震えながら、グエイドも目を見開いて、口元に手をあてた。
「ああ・・・これは、なんてことだ・・・・」
だから早く直してくださいよぉ。ショック受けてる場合じゃないでしょう? グエイド様。
白魔道師なんだから、さっさとこの呪いを解除してくださいよ。
そんなフロルの心の声は、グエイドには一向に届かないのである。
「これは、その、あの、魔道具が?」
驚いているグエイドに、ライルは顎で床に落ちている手鏡を示した。
「まさか、フロルがこれに触れるとは思わなかったが・・・」
グエイドの顔の上に歓喜の表情が浮かんだ。
「ああ、感動ものだ!ライル様、ついに、あの魔道具がきちんと作動したと?!」
「そうなんだ。アレが、やっと狙い通りに作動したんだ!」
ライルが目を輝かせて嬉しそうに笑う。
へ?
猫でも間が抜けた顔が出来ることを、フロルは今、始めて知った。
この魔道師二人は、自分に起きたこの出来事をショックとしてでなく、嬉しそうに目を輝かせているではないか。
魔道具の開発に成功したと、嬉々として語り合っている。
フロルは、呆気にとられすぎて、二人をぼけっと眺めるしか出来なかった。
なんでだ?
なんでそうなる魔道師?
フロルは、ふと我に返り、早く人間に戻してもらわなくてはならないと思い出すのだ。
フロルは二人の関心を元に戻そうと、にゃー、と鳴いた。
(二人で手を取り合って喜んでる場合じゃないでしょう?)
と言う顔で、二人を代わる代わる見つめれば、意図を察したようだ。
「あ、ああ、フロル。すまない」
そう言ったのは、グエイド様のほうだ。さすがに、グエイド様は、猫になったフロルを気の毒に思ったらしく、哀れみの視線を向けてきた。
うん、グエイド様のほうがライル様よりまともだ。そんなフロル猫の背を、ライルはほっそりとした手で梳くように撫でる。
「かわいいだろう?」
ライルは自分の腕の中で、尻尾をゆらゆらと揺らしている自分を、見せつけるようにしてグエイドに向けた。
「そうですね、でも・・・」
グエイド様が口に手を当てて、じっと自分を見つめて思案している。グエイドが言った「でも・・・」の先が気になり、フロルはぴくりと視線をグエイドに向けた。
「魔道具の呪いを解除するのは、簡単でしょうが・・・」
戸惑うような声を出すグエイド見て、フロルはなんだか嫌な予感を感じる。そんな二人に、ライルはあっさりした口調で言った。
「・・・まだ、私の魔力が十分に回復しきっていないから、すぐには無理だろうな」
へ?
解除は簡単じゃないんですか? 今、グエイド様が、解除は簡単だって言ってましたよね? だったら、グエイド様がやってくださいよ。
フロルは、抗議の意味を込めて、グエイドを見つめると、彼は困った様子でフロルを見返した。
「魔道具を製作したものしか、呪いを解除出来ないのだよ。フロル」
じゃあ、ライル様が解除してくれればいいってこと?
そんなフロルの疑問をグエイドが察した。
「本来のライル様ならば、即座に、このくらいの呪いは解除出来るはずなんだが」
「生憎、まだ魔力が十分回復してなくてねぇ」
ライルがしれっとした口調で言う。
「まだ魔力切れの後遺症が続いていてね。まあ、しばらくして、魔力が回復したら解除してあげるよ」
(ちょっとっ、ちょっと、待ったー!しばらくってどのくらい?)
ライル様の『しばらく』が酷くいい加減なもののように思える。この人は、見かけとは正反対にいい加減で忘れっぽい。何ヶ月も放置された挙げ句、『忘れてた』の一言で済まされてはたまらない。
フロルは、にゃあーともう一度鳴き、ライルの顔を覗き込んだ。そんなフロル猫を、ライルは可愛いと言って撫でる。
ヒトを、いやネコを勝手に愛玩動物として扱わないでくださいね、ライル様。
フロルが瞳に憤りを込めてじぃっとライルを見つめると、何故かライルは、すっと視線をそらす。人との確執は全然気にしない人が、猫との確執は嫌か? 嫌なのか?
「それで、フロルが解術されるまでの間の仕事はいかがいたしましょうか?」
「そうだな・・・フロルが元に戻れるまで、他の仕事は、別の人間にやらせよう・・・」
ライルは、そう言いつつも、自分を撫でる手を止めない。心なしか、ライル様が嬉しそうに見えるのは何故だ?
そして、ライル様がなんだか、人に戻すのが気乗りしないような顔をしているのは、どうしてなんでしょうか?
もう嫌な予感しかしない。
(やだあ。早く人間に戻してー)
涙目で見上げるフロル猫の喉を、ライルはそっと撫でて、あっさりとした口調でフロルに言った。
「災難だったな。勝手に私の魔道具に触るからこうなるんだ」
しょんぼりして項垂れるフロルに、ライルは、ふっと笑いかけた。その笑顔を見て、グエイドが、ちょっと引き攣った顔をしていた。
◇
そうして、その日の昼前、フロルはライル様の部屋の窓から外を眺めていた。ライル様は起き上がれるようになったし、普通に歩くことも出来るが、まだ魔力の充填が不十分なのだそうだ。
「ちょっと、用事で出かけてくる。フロルは、解除出来るまでここにいるといい」
ライルがそう言い残して部屋を後にした。当分は、ライル様の部屋で同居だ。
もうあの魔道具たちには絶対に触るまい! フロルは、不気味な魔道具たちを遠巻きに眺めながら、迂回するように回り込む。そう。ライル様の部屋には素敵な出窓があって、それがさっきからずっと気になっていたのだ。
床の上から、出窓にぴょんっと飛び乗り、暖かい日当たりのある場所に座り込んだ。
(・・・ああ、お日様が暖かい。気持ちいいー)
目を細めて、出窓の上で気持ち良さそうに寝転がった瞬間、フロルは、はっと我に返る。
いかん、いかん。思考経路が、すっかり猫のようになっている。
魔道具の影響だろうか、なぜか思考経路も猫に引きずられていくのだ。
(・・・人間に戻れるのはもう少し先かあ)
確かに勝手に魔道具に触った自分がいけないのだ。ギル様にも、うっかりでも魔道具に決して触るなと言われていたではないか。
しょんぼりと項垂れながら、フロル猫は、日当たりのいい窓辺から、そっと外を眺めた。窓から気持ちのいい風がそよそよと流れ込む。王城の農園の向こうには、市井の町並みが大きく広がっているのが見える。レンガ造りの町並みの中に教会の塔がそびえ立っていた。
今日は穏やかで天気がよい日だ。
(あーあ、魔道具なんかに触らなきゃよかった・・・)
日向でウトウトと微睡みながら、窓の外に目を向けると、そこに一匹の蝶々が飛んできた。
(あ、蝶々だ・・・)
それはフロルの目の前をひらひらと飛んでいる。その瞬間、フロルのお尻がむずむずとし始めた。
(ああ、蝶々・・・ヒラヒラ飛んでるし・・・)
あ、やばい。どうしよう。あの蝶々を捕まえたい!
突き上げる衝動を理性でぐっと押さえつけた。ここは魔道師塔の一番上だ。
一応、窓の下に屋根があって、またその下に屋根があるような構造なのだが、いくら蝶が気になるからと言って、窓から飛び出たら怪我くらいはするかもしれない。
そんな自分の目の前を、蝶が、フロルをからかうようにヒラヒラと舞う。
(が、我慢。我慢・・・)
フロルは前足を折り、窓の前に寝そべりながらも、蝶が気になり、しっかりとその姿を目で追う。
我慢我慢我慢我慢がま・・・
「にゃあっっっ!」
気がつけば、蝶に襲いかかるために、思いっきり窓からジャンプしてしまっていた。
黄色い蝶々をがしっとキャッチした瞬間、はっと気がついた。今、自分が宙に浮いていると言うことに。
「ふぎゃぁぁぁぁ・・・・!」
猫らしく盛大な叫び声をあげて、塔の窓から落下していった。
確かめるように、もう一度、ライルの綺麗な口元から自分の名が呼ばれる。
当然、これは、激しく同意の一択しかない訳で。
ぶんぶんと大きく頷く猫を目の前にして、ライルの顔は目を大きく見開いた。
「ああ、なんてことだ!」
ライルは片手でフロル猫を掴んだまま、もう片方の手を口に当てる。驚きのあまり、ライル様がわなわなと震えている。
ライル様的にもショックが大きかったのだろうか。
考えてみれば、それはそうだ。フロル自身だって、まさかこんなことになるなんて、思いもよらなかったのだから。
そんなライルはフロルを片腕に抱えたまま、扉を大きく開けて、白魔術師のトップであるグエイドを大声で呼んだ。
「お呼びでございますか? ライル様」
恭しく扉の陰から現れたグエイドは、今日もデフォルトの仏頂面だ。竜騎士隊長のドレイク様といい、グエイドといい、どうして、こうも顔面筋が麻痺しているような輩が多いのか。
「ちょっとこれを見てくれ」
そう言って、グエイドに向ってライルが差し出したのは、真っ白な子猫。
「・・・ただの猫にしか見えませんが?」
グエイドは一瞬怪訝そうな顔をしてから、部屋をぐるりと見渡し、額にぴくりと青筋を浮かべた。
(おお、何やらグエイド様がお怒りのご様子!)
なんだなんだと、じっとグエイドを見つめると、グエイドは超絶不機嫌そうに口を開いた。
「そういえば、フロルの姿が見えませんね?・・・こんな所に猫を入れて、仕事をさぼるとは」
ライルの腕の中の猫がぴきっと凍り付く。
いえいえ、サボってなんかいませんよ! グエイド様、むしろ、これって労災ですよね?
ライルの腕の中のフロル猫は尻尾をぴんと伸ばしたまま、グエイドに不満そうな視線を向ける。目の前に、猫を差しだしたライルの意図を計りかねて、グエイドが言う。
「ライル様・・・私に、この猫を棄ててこいと言うことでしょうか?」
グエイド様、なんてことを!
フロルは棄てられてはたまらないと言わんばかりに、真っ青になってライルの胸に縋り付いた。ぎっと爪をライルの服に立てて、棄てられまいと踏ん張る。こんなことになった悔し紛れに、嫌がらせもちょっと込めて、ライルの服にギギっと爪をたててやった。
「こら、フロル! 私の服を破らないでくれ」
ライル様が迷惑そうな顔をして猫を叱ると、そこで、グエイドがぴたりと動きを止めた。
「もしかして、その猫は・・・・」
グエイドも猫が自分であることに気がついたのだろう。わなわなと震えながら、グエイドも目を見開いて、口元に手をあてた。
「ああ・・・これは、なんてことだ・・・・」
だから早く直してくださいよぉ。ショック受けてる場合じゃないでしょう? グエイド様。
白魔道師なんだから、さっさとこの呪いを解除してくださいよ。
そんなフロルの心の声は、グエイドには一向に届かないのである。
「これは、その、あの、魔道具が?」
驚いているグエイドに、ライルは顎で床に落ちている手鏡を示した。
「まさか、フロルがこれに触れるとは思わなかったが・・・」
グエイドの顔の上に歓喜の表情が浮かんだ。
「ああ、感動ものだ!ライル様、ついに、あの魔道具がきちんと作動したと?!」
「そうなんだ。アレが、やっと狙い通りに作動したんだ!」
ライルが目を輝かせて嬉しそうに笑う。
へ?
猫でも間が抜けた顔が出来ることを、フロルは今、始めて知った。
この魔道師二人は、自分に起きたこの出来事をショックとしてでなく、嬉しそうに目を輝かせているではないか。
魔道具の開発に成功したと、嬉々として語り合っている。
フロルは、呆気にとられすぎて、二人をぼけっと眺めるしか出来なかった。
なんでだ?
なんでそうなる魔道師?
フロルは、ふと我に返り、早く人間に戻してもらわなくてはならないと思い出すのだ。
フロルは二人の関心を元に戻そうと、にゃー、と鳴いた。
(二人で手を取り合って喜んでる場合じゃないでしょう?)
と言う顔で、二人を代わる代わる見つめれば、意図を察したようだ。
「あ、ああ、フロル。すまない」
そう言ったのは、グエイド様のほうだ。さすがに、グエイド様は、猫になったフロルを気の毒に思ったらしく、哀れみの視線を向けてきた。
うん、グエイド様のほうがライル様よりまともだ。そんなフロル猫の背を、ライルはほっそりとした手で梳くように撫でる。
「かわいいだろう?」
ライルは自分の腕の中で、尻尾をゆらゆらと揺らしている自分を、見せつけるようにしてグエイドに向けた。
「そうですね、でも・・・」
グエイド様が口に手を当てて、じっと自分を見つめて思案している。グエイドが言った「でも・・・」の先が気になり、フロルはぴくりと視線をグエイドに向けた。
「魔道具の呪いを解除するのは、簡単でしょうが・・・」
戸惑うような声を出すグエイド見て、フロルはなんだか嫌な予感を感じる。そんな二人に、ライルはあっさりした口調で言った。
「・・・まだ、私の魔力が十分に回復しきっていないから、すぐには無理だろうな」
へ?
解除は簡単じゃないんですか? 今、グエイド様が、解除は簡単だって言ってましたよね? だったら、グエイド様がやってくださいよ。
フロルは、抗議の意味を込めて、グエイドを見つめると、彼は困った様子でフロルを見返した。
「魔道具を製作したものしか、呪いを解除出来ないのだよ。フロル」
じゃあ、ライル様が解除してくれればいいってこと?
そんなフロルの疑問をグエイドが察した。
「本来のライル様ならば、即座に、このくらいの呪いは解除出来るはずなんだが」
「生憎、まだ魔力が十分回復してなくてねぇ」
ライルがしれっとした口調で言う。
「まだ魔力切れの後遺症が続いていてね。まあ、しばらくして、魔力が回復したら解除してあげるよ」
(ちょっとっ、ちょっと、待ったー!しばらくってどのくらい?)
ライル様の『しばらく』が酷くいい加減なもののように思える。この人は、見かけとは正反対にいい加減で忘れっぽい。何ヶ月も放置された挙げ句、『忘れてた』の一言で済まされてはたまらない。
フロルは、にゃあーともう一度鳴き、ライルの顔を覗き込んだ。そんなフロル猫を、ライルは可愛いと言って撫でる。
ヒトを、いやネコを勝手に愛玩動物として扱わないでくださいね、ライル様。
フロルが瞳に憤りを込めてじぃっとライルを見つめると、何故かライルは、すっと視線をそらす。人との確執は全然気にしない人が、猫との確執は嫌か? 嫌なのか?
「それで、フロルが解術されるまでの間の仕事はいかがいたしましょうか?」
「そうだな・・・フロルが元に戻れるまで、他の仕事は、別の人間にやらせよう・・・」
ライルは、そう言いつつも、自分を撫でる手を止めない。心なしか、ライル様が嬉しそうに見えるのは何故だ?
そして、ライル様がなんだか、人に戻すのが気乗りしないような顔をしているのは、どうしてなんでしょうか?
もう嫌な予感しかしない。
(やだあ。早く人間に戻してー)
涙目で見上げるフロル猫の喉を、ライルはそっと撫でて、あっさりとした口調でフロルに言った。
「災難だったな。勝手に私の魔道具に触るからこうなるんだ」
しょんぼりして項垂れるフロルに、ライルは、ふっと笑いかけた。その笑顔を見て、グエイドが、ちょっと引き攣った顔をしていた。
◇
そうして、その日の昼前、フロルはライル様の部屋の窓から外を眺めていた。ライル様は起き上がれるようになったし、普通に歩くことも出来るが、まだ魔力の充填が不十分なのだそうだ。
「ちょっと、用事で出かけてくる。フロルは、解除出来るまでここにいるといい」
ライルがそう言い残して部屋を後にした。当分は、ライル様の部屋で同居だ。
もうあの魔道具たちには絶対に触るまい! フロルは、不気味な魔道具たちを遠巻きに眺めながら、迂回するように回り込む。そう。ライル様の部屋には素敵な出窓があって、それがさっきからずっと気になっていたのだ。
床の上から、出窓にぴょんっと飛び乗り、暖かい日当たりのある場所に座り込んだ。
(・・・ああ、お日様が暖かい。気持ちいいー)
目を細めて、出窓の上で気持ち良さそうに寝転がった瞬間、フロルは、はっと我に返る。
いかん、いかん。思考経路が、すっかり猫のようになっている。
魔道具の影響だろうか、なぜか思考経路も猫に引きずられていくのだ。
(・・・人間に戻れるのはもう少し先かあ)
確かに勝手に魔道具に触った自分がいけないのだ。ギル様にも、うっかりでも魔道具に決して触るなと言われていたではないか。
しょんぼりと項垂れながら、フロル猫は、日当たりのいい窓辺から、そっと外を眺めた。窓から気持ちのいい風がそよそよと流れ込む。王城の農園の向こうには、市井の町並みが大きく広がっているのが見える。レンガ造りの町並みの中に教会の塔がそびえ立っていた。
今日は穏やかで天気がよい日だ。
(あーあ、魔道具なんかに触らなきゃよかった・・・)
日向でウトウトと微睡みながら、窓の外に目を向けると、そこに一匹の蝶々が飛んできた。
(あ、蝶々だ・・・)
それはフロルの目の前をひらひらと飛んでいる。その瞬間、フロルのお尻がむずむずとし始めた。
(ああ、蝶々・・・ヒラヒラ飛んでるし・・・)
あ、やばい。どうしよう。あの蝶々を捕まえたい!
突き上げる衝動を理性でぐっと押さえつけた。ここは魔道師塔の一番上だ。
一応、窓の下に屋根があって、またその下に屋根があるような構造なのだが、いくら蝶が気になるからと言って、窓から飛び出たら怪我くらいはするかもしれない。
そんな自分の目の前を、蝶が、フロルをからかうようにヒラヒラと舞う。
(が、我慢。我慢・・・)
フロルは前足を折り、窓の前に寝そべりながらも、蝶が気になり、しっかりとその姿を目で追う。
我慢我慢我慢我慢がま・・・
「にゃあっっっ!」
気がつけば、蝶に襲いかかるために、思いっきり窓からジャンプしてしまっていた。
黄色い蝶々をがしっとキャッチした瞬間、はっと気がついた。今、自分が宙に浮いていると言うことに。
「ふぎゃぁぁぁぁ・・・・!」
猫らしく盛大な叫び声をあげて、塔の窓から落下していった。
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