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第四章 白魔導師の日々
楽しみな収穫祭~1
収穫祭までの数日間は、宮廷の中で多少の(少なくともフロルの周りでは)騒ぎがあったものの、収穫祭の休暇までの日は、それなりにいつも通りに過ごす事が出来た。
そして、待ちに待った休暇の一日目。
フロルは旅立ちの準備をしっかりと済ませて馬屋へと来ていた。とっても少ない荷物を手に、馬屋へと来る。エスペランサに鞍をつけてやり、いつものように餌と水を与えながら、出発の準備をしてやる。馬屋の外には、これまたフロルと同じように旅立ちの準備をしたリルが大人しく待っていた。
これから、ギル様と一緒に、収穫祭の休暇に出発するのだ。
「フロル、準備は出来たか?」
ギルも荷物を持って、馬屋へとやってきた。
「はい。ギル様。全部、終わりました!」
どことなくすっきりした顔のフロルに、ギルはいつものように手を伸ばして、はっと気がついた。いつもの週間どおり、フロルの頭を撫でようとしたのだ。
・・・もう子供じゃないんだもんな。
可愛がっていた子供が大きくなってしまったようで、ギルはなんとなく寂しく感じた。それでも、相手は17才の女の子だと思い直し、きちんと接しようと心に決める。
そんな二人の所に、エスペランサはととっと駆け寄った。馬も、フロルと一緒に出かけられるのを知って、もの凄く上機嫌だ。
「エスペランサも、お前と一緒だって分かってるみたいだな」
フロルが竜に乗ると、スピードが速すぎて、エスペランサとギルが追いつけないのだ。そうなると道が分からなくなるし、ギルとはぐれてしまう。
当然、フロルとしては、先にギルの故郷に飛んで待ってます、とは言いたくない訳で。しかし、フロルは馬なんかには乗れないし、馬ももっていないから、結局ギルの馬に一緒に乗せてもらうしかない訳だ。
ギルはひらりと馬にのり、手慣れた様子でフロルに手を差し伸べる。
「あの・・・お邪魔します」
やはり、ギルと一緒に馬に乗せてもらうというのは、思った以上に恥ずかしい。少しモジモジしながら、ギルの手を取ると、軽々と馬の上に引き上げてくれた。
リルもそれを見届けた上で、上空へと飛び立った。
「リル。ちゃんとついてきてね」
フロルが声をかけると、リルは分かってますと言いたげな顔をして、上空を二、三回、旋回して、楽しそうに空を飛んでいた。たまには、人が乗っていない状態で気ままに飛ぶのも悪くないだろう、と、フロルはちらと考える。
「じゃあ、出発だ」
ギルがエスペランサの胴を軽く蹴ると、馬は機嫌よく走りだした。
それがなんだかとっても恥ずかしい。体が大きくなったせいで、羞恥心までも発達したのだろうか。
顔が真っ赤になっているのをギルに見つけられたくなくて、フロルは決して後を向かないように気を遣う。
そうして馬で移動すること数時間。幾つかの村を抜け、森を抜け、畑を抜けた。
「あともう少しで俺の故郷だ」
ギルが指をさした向こうには麦畑の丘が続いている。そして、その向こうには石作りの城のようなものがそびえ立っていた。
「ギル様、あれって、お城?」
不思議そうな顔をするフロルに、ふ、とギルは優しげな微笑みを浮かべる。
── 子供時代を過ごした懐かしい場所がそこにあった。
「ああ、あれが俺の家だ。家って言うにはちょっと広すぎるがな」
そうだったーーー!
(ギル様はそういえば、子爵家の人だったーーー!)
ギル様はいつも優しくて、気さくだからすっかり忘れていたが、この人は本来は子爵家の三男坊だった訳で!
今更ながらに、そんな重要なことをすっかり忘れていたフロルだったが、次に浮かんだのは恐ろしい事実だった。
(あ、服が! きちんとした服、買ってない)
魔道師の制服があるから、子供体型の時もそれほど服を持ってなかったが、急激に大人になった今、手持ちの服は、さらに少なく、エリザベス様からもらった数枚の服しかない。大人の体になってから、まだ一週間も経ってないのだ。
(は、子爵家って、食事の時とか、普段とか、着るものに厳しいんじゃないだろうか・・・)
遠目にみても、それは「城」と呼ぶにふさわしい。そこでギルの家族である子爵家の人々や使用人の手前で、何を着て出ると言うのか。それに、お作法やマナーも、通り一辺倒しか知らない。
どうしよう・・・お貴族様の家に泊まるのに、何にも用意してなかった。と、言うか、お貴族様の前に出て恥ずかくない服って何なんだろう。
当分は、エリザベス様から急場しのぎにもらったお洋服を着るしかないのだが、ギル様の家族の前で、みすぼらしい格好をしてたら、何か言われるだろうか。
(うう・・・手持ちの服が全然ない・・・)
背中につーっと変な汗が流れ、不安のあまりなんか胸がドキドキしてくる。
衣装については、全く盲点だった。そして、それに今更気がついても、もう遅い。
しまった。まずった。どうしよう・・・
静かな顔を装いながらも、フロルは心の中で盛大に慌てる。
本当は、服だけでなく靴や小物なんかも問題なのだが、残念なことにフロルはそこまで考えが及んでいないのが、まだ救いである。
もし、そこまで考えが及んでいたら、フロルはすぐに馬から下りてリルに乗って引き返していただろう。
「ほら、フロル、疲れたか? 到着したら、すぐに茶でも準備させよう」
大きな森を抜けると急に広い場所に出た。すぐ目の前に、城の大きな門扉が二人の前に現れる。フロルの不安をギルは全く知らず、フロルににっこっりと微笑みかけた。
そして、待ちに待った休暇の一日目。
フロルは旅立ちの準備をしっかりと済ませて馬屋へと来ていた。とっても少ない荷物を手に、馬屋へと来る。エスペランサに鞍をつけてやり、いつものように餌と水を与えながら、出発の準備をしてやる。馬屋の外には、これまたフロルと同じように旅立ちの準備をしたリルが大人しく待っていた。
これから、ギル様と一緒に、収穫祭の休暇に出発するのだ。
「フロル、準備は出来たか?」
ギルも荷物を持って、馬屋へとやってきた。
「はい。ギル様。全部、終わりました!」
どことなくすっきりした顔のフロルに、ギルはいつものように手を伸ばして、はっと気がついた。いつもの週間どおり、フロルの頭を撫でようとしたのだ。
・・・もう子供じゃないんだもんな。
可愛がっていた子供が大きくなってしまったようで、ギルはなんとなく寂しく感じた。それでも、相手は17才の女の子だと思い直し、きちんと接しようと心に決める。
そんな二人の所に、エスペランサはととっと駆け寄った。馬も、フロルと一緒に出かけられるのを知って、もの凄く上機嫌だ。
「エスペランサも、お前と一緒だって分かってるみたいだな」
フロルが竜に乗ると、スピードが速すぎて、エスペランサとギルが追いつけないのだ。そうなると道が分からなくなるし、ギルとはぐれてしまう。
当然、フロルとしては、先にギルの故郷に飛んで待ってます、とは言いたくない訳で。しかし、フロルは馬なんかには乗れないし、馬ももっていないから、結局ギルの馬に一緒に乗せてもらうしかない訳だ。
ギルはひらりと馬にのり、手慣れた様子でフロルに手を差し伸べる。
「あの・・・お邪魔します」
やはり、ギルと一緒に馬に乗せてもらうというのは、思った以上に恥ずかしい。少しモジモジしながら、ギルの手を取ると、軽々と馬の上に引き上げてくれた。
リルもそれを見届けた上で、上空へと飛び立った。
「リル。ちゃんとついてきてね」
フロルが声をかけると、リルは分かってますと言いたげな顔をして、上空を二、三回、旋回して、楽しそうに空を飛んでいた。たまには、人が乗っていない状態で気ままに飛ぶのも悪くないだろう、と、フロルはちらと考える。
「じゃあ、出発だ」
ギルがエスペランサの胴を軽く蹴ると、馬は機嫌よく走りだした。
それがなんだかとっても恥ずかしい。体が大きくなったせいで、羞恥心までも発達したのだろうか。
顔が真っ赤になっているのをギルに見つけられたくなくて、フロルは決して後を向かないように気を遣う。
そうして馬で移動すること数時間。幾つかの村を抜け、森を抜け、畑を抜けた。
「あともう少しで俺の故郷だ」
ギルが指をさした向こうには麦畑の丘が続いている。そして、その向こうには石作りの城のようなものがそびえ立っていた。
「ギル様、あれって、お城?」
不思議そうな顔をするフロルに、ふ、とギルは優しげな微笑みを浮かべる。
── 子供時代を過ごした懐かしい場所がそこにあった。
「ああ、あれが俺の家だ。家って言うにはちょっと広すぎるがな」
そうだったーーー!
(ギル様はそういえば、子爵家の人だったーーー!)
ギル様はいつも優しくて、気さくだからすっかり忘れていたが、この人は本来は子爵家の三男坊だった訳で!
今更ながらに、そんな重要なことをすっかり忘れていたフロルだったが、次に浮かんだのは恐ろしい事実だった。
(あ、服が! きちんとした服、買ってない)
魔道師の制服があるから、子供体型の時もそれほど服を持ってなかったが、急激に大人になった今、手持ちの服は、さらに少なく、エリザベス様からもらった数枚の服しかない。大人の体になってから、まだ一週間も経ってないのだ。
(は、子爵家って、食事の時とか、普段とか、着るものに厳しいんじゃないだろうか・・・)
遠目にみても、それは「城」と呼ぶにふさわしい。そこでギルの家族である子爵家の人々や使用人の手前で、何を着て出ると言うのか。それに、お作法やマナーも、通り一辺倒しか知らない。
どうしよう・・・お貴族様の家に泊まるのに、何にも用意してなかった。と、言うか、お貴族様の前に出て恥ずかくない服って何なんだろう。
当分は、エリザベス様から急場しのぎにもらったお洋服を着るしかないのだが、ギル様の家族の前で、みすぼらしい格好をしてたら、何か言われるだろうか。
(うう・・・手持ちの服が全然ない・・・)
背中につーっと変な汗が流れ、不安のあまりなんか胸がドキドキしてくる。
衣装については、全く盲点だった。そして、それに今更気がついても、もう遅い。
しまった。まずった。どうしよう・・・
静かな顔を装いながらも、フロルは心の中で盛大に慌てる。
本当は、服だけでなく靴や小物なんかも問題なのだが、残念なことにフロルはそこまで考えが及んでいないのが、まだ救いである。
もし、そこまで考えが及んでいたら、フロルはすぐに馬から下りてリルに乗って引き返していただろう。
「ほら、フロル、疲れたか? 到着したら、すぐに茶でも準備させよう」
大きな森を抜けると急に広い場所に出た。すぐ目の前に、城の大きな門扉が二人の前に現れる。フロルの不安をギルは全く知らず、フロルににっこっりと微笑みかけた。
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