文字サイズ
小
中
大
特大
48 / 127
第四章 白魔導師の日々
楽しみな収穫祭~1
収穫祭までの数日間は、宮廷の中で多少の(少なくともフロルの周りでは)騒ぎがあったものの、収穫祭の休暇までの日は、それなりにいつも通りに過ごす事が出来た。
そして、待ちに待った休暇の一日目。
フロルは旅立ちの準備をしっかりと済ませて馬屋へと来ていた。とっても少ない荷物を手に、馬屋へと来る。エスペランサに鞍をつけてやり、いつものように餌と水を与えながら、出発の準備をしてやる。馬屋の外には、これまたフロルと同じように旅立ちの準備をしたリルが大人しく待っていた。
これから、ギル様と一緒に、収穫祭の休暇に出発するのだ。
「フロル、準備は出来たか?」
ギルも荷物を持って、馬屋へとやってきた。
「はい。ギル様。全部、終わりました!」
どことなくすっきりした顔のフロルに、ギルはいつものように手を伸ばして、はっと気がついた。いつもの週間どおり、フロルの頭を撫でようとしたのだ。
・・・もう子供じゃないんだもんな。
可愛がっていた子供が大きくなってしまったようで、ギルはなんとなく寂しく感じた。それでも、相手は17才の女の子だと思い直し、きちんと接しようと心に決める。
そんな二人の所に、エスペランサはととっと駆け寄った。馬も、フロルと一緒に出かけられるのを知って、もの凄く上機嫌だ。
「エスペランサも、お前と一緒だって分かってるみたいだな」
フロルが竜に乗ると、スピードが速すぎて、エスペランサとギルが追いつけないのだ。そうなると道が分からなくなるし、ギルとはぐれてしまう。
当然、フロルとしては、先にギルの故郷に飛んで待ってます、とは言いたくない訳で。しかし、フロルは馬なんかには乗れないし、馬ももっていないから、結局ギルの馬に一緒に乗せてもらうしかない訳だ。
ギルはひらりと馬にのり、手慣れた様子でフロルに手を差し伸べる。
「あの・・・お邪魔します」
やはり、ギルと一緒に馬に乗せてもらうというのは、思った以上に恥ずかしい。少しモジモジしながら、ギルの手を取ると、軽々と馬の上に引き上げてくれた。
リルもそれを見届けた上で、上空へと飛び立った。
「リル。ちゃんとついてきてね」
フロルが声をかけると、リルは分かってますと言いたげな顔をして、上空を二、三回、旋回して、楽しそうに空を飛んでいた。たまには、人が乗っていない状態で気ままに飛ぶのも悪くないだろう、と、フロルはちらと考える。
「じゃあ、出発だ」
ギルがエスペランサの胴を軽く蹴ると、馬は機嫌よく走りだした。
それがなんだかとっても恥ずかしい。体が大きくなったせいで、羞恥心までも発達したのだろうか。
顔が真っ赤になっているのをギルに見つけられたくなくて、フロルは決して後を向かないように気を遣う。
そうして馬で移動すること数時間。幾つかの村を抜け、森を抜け、畑を抜けた。
「あともう少しで俺の故郷だ」
ギルが指をさした向こうには麦畑の丘が続いている。そして、その向こうには石作りの城のようなものがそびえ立っていた。
「ギル様、あれって、お城?」
不思議そうな顔をするフロルに、ふ、とギルは優しげな微笑みを浮かべる。
── 子供時代を過ごした懐かしい場所がそこにあった。
「ああ、あれが俺の家だ。家って言うにはちょっと広すぎるがな」
そうだったーーー!
(ギル様はそういえば、子爵家の人だったーーー!)
ギル様はいつも優しくて、気さくだからすっかり忘れていたが、この人は本来は子爵家の三男坊だった訳で!
今更ながらに、そんな重要なことをすっかり忘れていたフロルだったが、次に浮かんだのは恐ろしい事実だった。
(あ、服が! きちんとした服、買ってない)
魔道師の制服があるから、子供体型の時もそれほど服を持ってなかったが、急激に大人になった今、手持ちの服は、さらに少なく、エリザベス様からもらった数枚の服しかない。大人の体になってから、まだ一週間も経ってないのだ。
(は、子爵家って、食事の時とか、普段とか、着るものに厳しいんじゃないだろうか・・・)
遠目にみても、それは「城」と呼ぶにふさわしい。そこでギルの家族である子爵家の人々や使用人の手前で、何を着て出ると言うのか。それに、お作法やマナーも、通り一辺倒しか知らない。
どうしよう・・・お貴族様の家に泊まるのに、何にも用意してなかった。と、言うか、お貴族様の前に出て恥ずかくない服って何なんだろう。
当分は、エリザベス様から急場しのぎにもらったお洋服を着るしかないのだが、ギル様の家族の前で、みすぼらしい格好をしてたら、何か言われるだろうか。
(うう・・・手持ちの服が全然ない・・・)
背中につーっと変な汗が流れ、不安のあまりなんか胸がドキドキしてくる。
衣装については、全く盲点だった。そして、それに今更気がついても、もう遅い。
しまった。まずった。どうしよう・・・
静かな顔を装いながらも、フロルは心の中で盛大に慌てる。
本当は、服だけでなく靴や小物なんかも問題なのだが、残念なことにフロルはそこまで考えが及んでいないのが、まだ救いである。
もし、そこまで考えが及んでいたら、フロルはすぐに馬から下りてリルに乗って引き返していただろう。
「ほら、フロル、疲れたか? 到着したら、すぐに茶でも準備させよう」
大きな森を抜けると急に広い場所に出た。すぐ目の前に、城の大きな門扉が二人の前に現れる。フロルの不安をギルは全く知らず、フロルににっこっりと微笑みかけた。
そして、待ちに待った休暇の一日目。
フロルは旅立ちの準備をしっかりと済ませて馬屋へと来ていた。とっても少ない荷物を手に、馬屋へと来る。エスペランサに鞍をつけてやり、いつものように餌と水を与えながら、出発の準備をしてやる。馬屋の外には、これまたフロルと同じように旅立ちの準備をしたリルが大人しく待っていた。
これから、ギル様と一緒に、収穫祭の休暇に出発するのだ。
「フロル、準備は出来たか?」
ギルも荷物を持って、馬屋へとやってきた。
「はい。ギル様。全部、終わりました!」
どことなくすっきりした顔のフロルに、ギルはいつものように手を伸ばして、はっと気がついた。いつもの週間どおり、フロルの頭を撫でようとしたのだ。
・・・もう子供じゃないんだもんな。
可愛がっていた子供が大きくなってしまったようで、ギルはなんとなく寂しく感じた。それでも、相手は17才の女の子だと思い直し、きちんと接しようと心に決める。
そんな二人の所に、エスペランサはととっと駆け寄った。馬も、フロルと一緒に出かけられるのを知って、もの凄く上機嫌だ。
「エスペランサも、お前と一緒だって分かってるみたいだな」
フロルが竜に乗ると、スピードが速すぎて、エスペランサとギルが追いつけないのだ。そうなると道が分からなくなるし、ギルとはぐれてしまう。
当然、フロルとしては、先にギルの故郷に飛んで待ってます、とは言いたくない訳で。しかし、フロルは馬なんかには乗れないし、馬ももっていないから、結局ギルの馬に一緒に乗せてもらうしかない訳だ。
ギルはひらりと馬にのり、手慣れた様子でフロルに手を差し伸べる。
「あの・・・お邪魔します」
やはり、ギルと一緒に馬に乗せてもらうというのは、思った以上に恥ずかしい。少しモジモジしながら、ギルの手を取ると、軽々と馬の上に引き上げてくれた。
リルもそれを見届けた上で、上空へと飛び立った。
「リル。ちゃんとついてきてね」
フロルが声をかけると、リルは分かってますと言いたげな顔をして、上空を二、三回、旋回して、楽しそうに空を飛んでいた。たまには、人が乗っていない状態で気ままに飛ぶのも悪くないだろう、と、フロルはちらと考える。
「じゃあ、出発だ」
ギルがエスペランサの胴を軽く蹴ると、馬は機嫌よく走りだした。
それがなんだかとっても恥ずかしい。体が大きくなったせいで、羞恥心までも発達したのだろうか。
顔が真っ赤になっているのをギルに見つけられたくなくて、フロルは決して後を向かないように気を遣う。
そうして馬で移動すること数時間。幾つかの村を抜け、森を抜け、畑を抜けた。
「あともう少しで俺の故郷だ」
ギルが指をさした向こうには麦畑の丘が続いている。そして、その向こうには石作りの城のようなものがそびえ立っていた。
「ギル様、あれって、お城?」
不思議そうな顔をするフロルに、ふ、とギルは優しげな微笑みを浮かべる。
── 子供時代を過ごした懐かしい場所がそこにあった。
「ああ、あれが俺の家だ。家って言うにはちょっと広すぎるがな」
そうだったーーー!
(ギル様はそういえば、子爵家の人だったーーー!)
ギル様はいつも優しくて、気さくだからすっかり忘れていたが、この人は本来は子爵家の三男坊だった訳で!
今更ながらに、そんな重要なことをすっかり忘れていたフロルだったが、次に浮かんだのは恐ろしい事実だった。
(あ、服が! きちんとした服、買ってない)
魔道師の制服があるから、子供体型の時もそれほど服を持ってなかったが、急激に大人になった今、手持ちの服は、さらに少なく、エリザベス様からもらった数枚の服しかない。大人の体になってから、まだ一週間も経ってないのだ。
(は、子爵家って、食事の時とか、普段とか、着るものに厳しいんじゃないだろうか・・・)
遠目にみても、それは「城」と呼ぶにふさわしい。そこでギルの家族である子爵家の人々や使用人の手前で、何を着て出ると言うのか。それに、お作法やマナーも、通り一辺倒しか知らない。
どうしよう・・・お貴族様の家に泊まるのに、何にも用意してなかった。と、言うか、お貴族様の前に出て恥ずかくない服って何なんだろう。
当分は、エリザベス様から急場しのぎにもらったお洋服を着るしかないのだが、ギル様の家族の前で、みすぼらしい格好をしてたら、何か言われるだろうか。
(うう・・・手持ちの服が全然ない・・・)
背中につーっと変な汗が流れ、不安のあまりなんか胸がドキドキしてくる。
衣装については、全く盲点だった。そして、それに今更気がついても、もう遅い。
しまった。まずった。どうしよう・・・
静かな顔を装いながらも、フロルは心の中で盛大に慌てる。
本当は、服だけでなく靴や小物なんかも問題なのだが、残念なことにフロルはそこまで考えが及んでいないのが、まだ救いである。
もし、そこまで考えが及んでいたら、フロルはすぐに馬から下りてリルに乗って引き返していただろう。
「ほら、フロル、疲れたか? 到着したら、すぐに茶でも準備させよう」
大きな森を抜けると急に広い場所に出た。すぐ目の前に、城の大きな門扉が二人の前に現れる。フロルの不安をギルは全く知らず、フロルににっこっりと微笑みかけた。
感想 959
あなたにおすすめの小説
一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。
ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。
遠い存在になったはずの彼。
けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。
冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。
初夜のあとに愛する人がいると言われたので祝福で身体の時間を一日戻しました
夫婦となって初めて迎えた夜、セレンティアは夫リオールから「俺には、愛する人がいる」と告げられる。
彼が初夜を済ませた理由は、三年後に白い結婚として婚姻無効を申し立てられないようにするためだった。
けれどリオールは知らなかった。セレンティアの祝福《一日回帰》が、自分自身の身体にも使えることを。
セレンティアは自分の身体の時間を一日前へ戻し、三年間、侯爵家の妻として務めを果たすことを決める。
夫に愛されるためではない。三年後、白い結婚としてこの家を出ていくために。
【完結】私の出産日に初恋の人を選んだ夫、あなたを彼女に返品します
「子供っぽい嫉妬はやめろ」私が命懸けで出産した日、夫のヴィンセント侯爵は初恋の人の所へ行ってしまった。理由を説明して欲しいと言うと、子供っぽい嫉妬をやめろと厳しい声で言われてしまう。しかも初恋の相手がいきなりやってきて「侯爵様は昔から私を命懸けで助けてくれるんです」と悪びれもせずに言い放った。妻よりも初恋相手を優先する夫は必要ないので私は夫を初恋相手へ返品した。すると生まれてから一度も人に頭を下げたことのないヴィンセントが、ボロボロになって私に頭を下げてきて⋯⋯。
病弱な旦那さまの身代わりに嫁ぎましたが、治してしまいましたわ
「余命ひと月」と噂される公爵ジョフロワの「縁起直し」として、伯爵家の三女ロザリーは、実家から厄介払いのように嫁がされる。姉たちは「三女は薬草園育ちの田舎者。ちょうどいいわ」と笑う。
ロザリーは言い返さない。ただ、公爵の屋敷に入って三日で、気づく。公爵の病は、毒ではなく、屋敷じゅうに焚かれている「香」だと。
「余命ひと月? では、ひと月、お世話させていただきますわ」
香を止め、窓を開け、薬草園育ちの手で、朝の粥を煮る。公爵は、ひと月で、目を覚ます。「あなたが来て、初めて朝の匂いがした」。
実家は「病弱な三女を、縁起直しに嫁がせた」と嘘の届けを出していた。回復した公爵の妻となった娘を、慌てて取り戻そうとするが、公爵がその届けを王の使者に見せるだけで、実家は自分の嘘で面目を失う。
香を焚いていた執事は「公爵を早く逝かせて、跡目を」と白状し、公爵は追放ではなく、辺境の薬草園で働かせる。
疎まれた長所が、正しく愛される場所で花開く。縁起直しの嫁入り×薬草×自己肯定の令嬢ファンタジー、全8話。
飛べないと捨てられたので、竜ごと出て行きます
「お前は竜に乗れもしない、ただの妻だろう」
竜騎士団長の夫はそう言って、飛べる従騎士の娘を選びましたわ。
ええ、わたくしは飛べません。十二年、地上におりました。
夜明け前に三十一頭の寝息を数え、歯を磨き、爪の砂を取り、冬に毛布を掛け、契約を編んで。——この国でただひとりの「調律者」として。
竜は、人を乗せない生き物ですのよ。竜自身が「乗せてもいい」と決めない限り。そして竜が誰の言葉で頷いてきたか、あの方は十二年、一度もお考えにならなかった。
離縁されて、わたくしは竜舎を出ました。
三日後から、竜は一頭も飛ばなくなりましたの。
怒っているのではありませんのよ。竜は報復をしませんもの。ただ——寂しいのです。
そして来月は、三年に一度の、契約更新日ですわ。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
推しの旦那様に心の声が筒抜けでした!?〜バレた瞬間、毎回キスで黙らされます〜
推しに似ているという理由で政略結婚した相手は、冷酷と噂の公爵様。
――のはずが。
(無理、顔が良すぎるんだけど!?尊い!!)
心の声が、なぜか全部本人に聞こえていた。
必死に取り繕うも時すでに遅し。
暴走する脳内実況を止めるたび、旦那様はなぜか――キスしてくる。
「黙らせるのにちょうどいい」
いや全然よくないです!!むしろ悪化してます!!
無表情公爵様 × 心の声だだ漏れ令嬢
甘くて騒がしい新婚生活、開幕。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。