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第四章 白魔導師の日々
収穫祭への序章~3
フロルがカエルを返した翌日のこと。
「あっれー?またいるの?」
今度は、フロルは浴室の底でじっと身動きしないトカゲを見つめていた。トカゲも、大人しく危害を加えるようなことはなく、ただただ、じっとフロルを浴槽の底から見上げている。
「ふふ・・・小さいのね。可愛いな」
つぶらな瞳でフロルを見上げるトカゲは可愛い。手の平サイズの茶色のトカゲをフロルは再び手にのせて、また同じ言葉を呟いた。
「ああ、また外に返しに行ってやらなくちゃ・・・リード家の屋敷って広いから外にでるのもめんどくさいのよねぇ・・・」
それでも、再びトカゲを手に部屋の外に出ると、どういう偶然か、またマルコムとジョエルと出くわす。
「偶然だね?なんかよく会うね?」
トカゲを片手ににっこりと微笑みかけるフロルに、マルコムは引き攣った顔で微笑み返した。
そして、さらに、その翌日。
「今日はバッタと来たか・・・・」
フロルは、ため息交じりにベッドの上にいる数匹のバッタを見つめた。
今日は、夕食の会話が盛り上がって、食事が終わるのが遅くなった。エドガー様がとても冗談が上手くて、食卓でギル様の家族みんなで笑い転げてしまったのだ。
食事が終わると、みんなにお休みを言い、上機嫌で部屋に戻ってきたばかりだった。寝支度をしようと思って、ベッドの布団をめくると、バッタがいた。この辺は生き物が多いのかしらと思いつつ、なんだか変だな、と思っていた矢先のことだ。
ここに来てからと言うもの、虫とか、は虫類とかのエンカウント率が異常に高すぎるのである。
しかもなぜか部屋の中にいるのは、小さなカエルとか、小さなイモリの類いで、たまにコオロギとかもあるが、どれもこれも可愛らしい生き物ばかりなのだ。
とりあえず、バッタを手元の箱に入れる。うっかりバッタをおしりの下に敷いてしまったら、双方にとっても大惨事になる。そんな状況は、ごめん被りたい。
今日のバッタだって、自ら進んでベッドの布団の中に入ってくるはずがない。いくら何でも、さすがにこれは偶然ではなく、恣意的なものを感じたものの、フロルは小首をかしげて、一人呟く。
「── 嫌がらせにしては、かわいらし過ぎるんだよねぇ」
もしフロルが生き物を使って誰かに嫌がらせするなら、絶対に、強烈な匂いを放つニオイガエル(紫とオレンジ色のゼブラ模様がある)とか、クサウシガエル(オレンジ色の変な角が生えていて、臭い)とか、そういう醜悪なものを使うはずだ。(フロルのほうが性格がずっと悪い)。
もし、そんなものが布団の中に入っていたら、完全に嫌がらせだと思うのだが。けれども、こんな小さなトカゲやら、カエルは、フロルの中には絶対に嫌がらせの範疇には入らないのだ。
フロルは田舎の宿屋の娘である。
森に挟まれた場所にダーマ亭があったため、自然には慣れ親しんでいる。当然、そこには、ヘビやら虫やら、色々いる訳で。特に、子竜を拾っちゃうくらい自然がある場所なのだ。
しかも、ブール草取りに、魔の森へと足を踏み入れるブール取り名人ならびに勇者である。虫やら小動物くらいでびびる訳がない。
結局、フロルは、嫌がらせ云々と考えるのがめんどくさくなって、窓をがらがらと開けて、バッタをぽいっと投げ棄てた。小動物なら窓の外に棄てたりしないが、虫ごときでイチイチ表に出るのもめんどくさい。召使いたちに、カエルやらトカゲを掴んでいる所も、恥ずかしいから見られたくない。
今日は一日、ギル様とエスペランサに乗って遠乗りに出かけたのだ。日がな一日大好きなギル様と一緒と言う天にも昇りそうなくらい幸せな時間の前に、バッタは何の効果も発揮しなかったのである。
疲れていたこともあって、フロルはそのまま、さっさと寝台に入って布団を被って寝てしまった。
◇
その窓の外では、マルコムとジュエルの二人が頭に虫を乗せたまま、膝を抱えてみじろぎもせずに座っていた。
今、マルコムの胸は、虚脱感と敗北感で満ちあふれている。そして、マルコムの頭の上には、フロルが投げ捨てたバッタがもぞもぞと動いていた。
トカゲもカエルも、フロルの前には全く効を奏さなかった。
バッタでも完全に惨敗した。
この悔し涙に暮れる状況を一体どうしろと言うのか。
フロルの悲鳴が聞けるのではと、ジョエルと二人で廊下の隅で待ち構えていたが、それが現実になったことは一度もない。それどころか、生き物を外に返してやろうと出てくる彼女と必ず廊下で必ず出くわすことになる。さすがにいつも廊下で出会うのは疑われるのではと思って、今日は用心して窓の外で膝を抱えて座っていたのだ。
今日こそ、バッタを見たフロルの悲鳴が聞けるかな、とマルコムはワクワクしながら窓枠の下で膝を抱えてしゃがんでいたのだが。
「ふうむ・・・今日はバッタか・・・あーめんどくさい」
部屋からは、気怠そうなフロルの声がマルコムの耳に響く。そのすぐ後のことだ。
「ま、いっか」
フロルが呟くと同時に、窓が開く音が聞こえた直後、二人の頭の上に、バッタたちが降り注いだのだ。いい加減、めんどくさくなったフロルが窓をあけて、ぽいっと窓の外に投げ捨てたからだ。
「にいさま、フロル、全然、怖がらないね?」
頭の上にもぞもぞと動くバッタを乗っけたジョエルが、膝を抱えたまま少し残念そうに言うと、マルコムは悔しそうに唇を噛む。
今日も惨敗だ。
数々の目論見が立て続けにくだけ落ち、マルコムの胸は虚脱感に満ちあふれる。
がっかりした様子で、マルコムは自分の頭の上のバッタを払いのけ、ジョエルの頭の上のも払い落としてやる。
マルコムの姉は虫や、は虫類やらが苦手で、一匹でも見つければ、パニックを起こして、それは大騒ぎになったものだ。姉は田舎ではなく、王都に近い所に嫁いだので、あからさまにほっとしながら嫁いで行ったのは記憶に新しい。
カエルがダメなら、と。マルコムが何を入れても、フロルは顔色一つ変えずに、ああ、と言いながら、窓の外へぽいっと投げ捨てるか、外の庭へ返しに行ってしまうのだ。
そういう訳で、マルコムの目論見はことごとく惨敗に終わっていた。嫌がらせはことごとく失敗し、マルコムは地団駄を踏む。
「あにうえ、もうやめたら?」
小さな弟が呆れ半分で兄を見つめると、兄は悔しそうに言う。
「何を言う。おとこは簡単にあきらめてはいかんのだ。見てろよ!」
マルコムの変なプライドに裏うちされた無駄なあがきはそれでも続く。
── でもね、フロルは王宮の魔獣係だったんだよ? そんじょそこらのものでびっくりする訳ないんだよ。
そう教えてあげる人が誰もいなかったのが、よくなかった。マルコムのせいで、とんでもない事態に発展することになるのだが。
「あっれー?またいるの?」
今度は、フロルは浴室の底でじっと身動きしないトカゲを見つめていた。トカゲも、大人しく危害を加えるようなことはなく、ただただ、じっとフロルを浴槽の底から見上げている。
「ふふ・・・小さいのね。可愛いな」
つぶらな瞳でフロルを見上げるトカゲは可愛い。手の平サイズの茶色のトカゲをフロルは再び手にのせて、また同じ言葉を呟いた。
「ああ、また外に返しに行ってやらなくちゃ・・・リード家の屋敷って広いから外にでるのもめんどくさいのよねぇ・・・」
それでも、再びトカゲを手に部屋の外に出ると、どういう偶然か、またマルコムとジョエルと出くわす。
「偶然だね?なんかよく会うね?」
トカゲを片手ににっこりと微笑みかけるフロルに、マルコムは引き攣った顔で微笑み返した。
そして、さらに、その翌日。
「今日はバッタと来たか・・・・」
フロルは、ため息交じりにベッドの上にいる数匹のバッタを見つめた。
今日は、夕食の会話が盛り上がって、食事が終わるのが遅くなった。エドガー様がとても冗談が上手くて、食卓でギル様の家族みんなで笑い転げてしまったのだ。
食事が終わると、みんなにお休みを言い、上機嫌で部屋に戻ってきたばかりだった。寝支度をしようと思って、ベッドの布団をめくると、バッタがいた。この辺は生き物が多いのかしらと思いつつ、なんだか変だな、と思っていた矢先のことだ。
ここに来てからと言うもの、虫とか、は虫類とかのエンカウント率が異常に高すぎるのである。
しかもなぜか部屋の中にいるのは、小さなカエルとか、小さなイモリの類いで、たまにコオロギとかもあるが、どれもこれも可愛らしい生き物ばかりなのだ。
とりあえず、バッタを手元の箱に入れる。うっかりバッタをおしりの下に敷いてしまったら、双方にとっても大惨事になる。そんな状況は、ごめん被りたい。
今日のバッタだって、自ら進んでベッドの布団の中に入ってくるはずがない。いくら何でも、さすがにこれは偶然ではなく、恣意的なものを感じたものの、フロルは小首をかしげて、一人呟く。
「── 嫌がらせにしては、かわいらし過ぎるんだよねぇ」
もしフロルが生き物を使って誰かに嫌がらせするなら、絶対に、強烈な匂いを放つニオイガエル(紫とオレンジ色のゼブラ模様がある)とか、クサウシガエル(オレンジ色の変な角が生えていて、臭い)とか、そういう醜悪なものを使うはずだ。(フロルのほうが性格がずっと悪い)。
もし、そんなものが布団の中に入っていたら、完全に嫌がらせだと思うのだが。けれども、こんな小さなトカゲやら、カエルは、フロルの中には絶対に嫌がらせの範疇には入らないのだ。
フロルは田舎の宿屋の娘である。
森に挟まれた場所にダーマ亭があったため、自然には慣れ親しんでいる。当然、そこには、ヘビやら虫やら、色々いる訳で。特に、子竜を拾っちゃうくらい自然がある場所なのだ。
しかも、ブール草取りに、魔の森へと足を踏み入れるブール取り名人ならびに勇者である。虫やら小動物くらいでびびる訳がない。
結局、フロルは、嫌がらせ云々と考えるのがめんどくさくなって、窓をがらがらと開けて、バッタをぽいっと投げ棄てた。小動物なら窓の外に棄てたりしないが、虫ごときでイチイチ表に出るのもめんどくさい。召使いたちに、カエルやらトカゲを掴んでいる所も、恥ずかしいから見られたくない。
今日は一日、ギル様とエスペランサに乗って遠乗りに出かけたのだ。日がな一日大好きなギル様と一緒と言う天にも昇りそうなくらい幸せな時間の前に、バッタは何の効果も発揮しなかったのである。
疲れていたこともあって、フロルはそのまま、さっさと寝台に入って布団を被って寝てしまった。
◇
その窓の外では、マルコムとジュエルの二人が頭に虫を乗せたまま、膝を抱えてみじろぎもせずに座っていた。
今、マルコムの胸は、虚脱感と敗北感で満ちあふれている。そして、マルコムの頭の上には、フロルが投げ捨てたバッタがもぞもぞと動いていた。
トカゲもカエルも、フロルの前には全く効を奏さなかった。
バッタでも完全に惨敗した。
この悔し涙に暮れる状況を一体どうしろと言うのか。
フロルの悲鳴が聞けるのではと、ジョエルと二人で廊下の隅で待ち構えていたが、それが現実になったことは一度もない。それどころか、生き物を外に返してやろうと出てくる彼女と必ず廊下で必ず出くわすことになる。さすがにいつも廊下で出会うのは疑われるのではと思って、今日は用心して窓の外で膝を抱えて座っていたのだ。
今日こそ、バッタを見たフロルの悲鳴が聞けるかな、とマルコムはワクワクしながら窓枠の下で膝を抱えてしゃがんでいたのだが。
「ふうむ・・・今日はバッタか・・・あーめんどくさい」
部屋からは、気怠そうなフロルの声がマルコムの耳に響く。そのすぐ後のことだ。
「ま、いっか」
フロルが呟くと同時に、窓が開く音が聞こえた直後、二人の頭の上に、バッタたちが降り注いだのだ。いい加減、めんどくさくなったフロルが窓をあけて、ぽいっと窓の外に投げ捨てたからだ。
「にいさま、フロル、全然、怖がらないね?」
頭の上にもぞもぞと動くバッタを乗っけたジョエルが、膝を抱えたまま少し残念そうに言うと、マルコムは悔しそうに唇を噛む。
今日も惨敗だ。
数々の目論見が立て続けにくだけ落ち、マルコムの胸は虚脱感に満ちあふれる。
がっかりした様子で、マルコムは自分の頭の上のバッタを払いのけ、ジョエルの頭の上のも払い落としてやる。
マルコムの姉は虫や、は虫類やらが苦手で、一匹でも見つければ、パニックを起こして、それは大騒ぎになったものだ。姉は田舎ではなく、王都に近い所に嫁いだので、あからさまにほっとしながら嫁いで行ったのは記憶に新しい。
カエルがダメなら、と。マルコムが何を入れても、フロルは顔色一つ変えずに、ああ、と言いながら、窓の外へぽいっと投げ捨てるか、外の庭へ返しに行ってしまうのだ。
そういう訳で、マルコムの目論見はことごとく惨敗に終わっていた。嫌がらせはことごとく失敗し、マルコムは地団駄を踏む。
「あにうえ、もうやめたら?」
小さな弟が呆れ半分で兄を見つめると、兄は悔しそうに言う。
「何を言う。おとこは簡単にあきらめてはいかんのだ。見てろよ!」
マルコムの変なプライドに裏うちされた無駄なあがきはそれでも続く。
── でもね、フロルは王宮の魔獣係だったんだよ? そんじょそこらのものでびっくりする訳ないんだよ。
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