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第四章 白魔導師の日々
収穫祭~2
「ほら、フロル、これが名物のバクダの串焼きだ。腹が減ってるだろ?もっと食え」
ギル様が屋台で美味しそうな肉の串刺しを買ってきてくれた。近くの石のベンチの上に腰掛け、フロルは熱々の串を両手でもち、大きくかぶりつく。たちまち、濃厚な肉汁が口の中にじゅわーっと広がる。
「ん~、おいしい~」
それがとっても美味しくて、フロルの顔には満面の笑みが浮かぶ。
「そうだろ? 俺もこの肉が大好きなんだ。これを食べると故郷に帰ってきたな、としみじみ思うよ」
そう言って、ギルも自分の串にがぶりとかぶりつく。
肉はほどよくスパイスがきいて、肉のうまみと香辛料の香りが絶妙にマッチする感じがたまらない。
夢中になって、肉にかぶりつきながらも、フロルは、ふと、騎馬隊の騎士達はみんな筋肉フェチだったことを思い出した。
筋肉愛に満ちあふれている彼らの大好物は、当然、肉だ。肉を見たら、見境なく手を出すし、そこにさらに酒が入れば、俺の筋肉美を披露します!とか言って、すぐに服を脱ぎ始める。
そんな騎士達のことを思い出して、フロルはくすりと笑う。
「どうした?」
「ああ、騎馬隊の面々がこの肉を見たらどういう反応をするかと思って」
「間違いなく、あいつら、この串焼き屋を襲撃して、肉を食い尽くすだろうな」
「ふふ、目に浮かぶようですね」
二人は、串を片手にふふと笑い合う。なんて楽しいのだろう。
フロルが肉を片手に、あたりを見回すと、他にも色々な屋台が出ていた。エールを売ってるお店もあるし、可愛い髪飾りを売っているお店もある。
お祭りは活気に満ちていて、みんながそれぞれ思い思いの仮装している。今日だけは、農夫も王様になれるし、鍛冶屋も騎士になれるのだ。二人とも一応、目だけが隠れる仮面をつけているから、ギル様がご領主様のご子息だと見破るものは誰もいない。
「ほら、串焼き肉を食べると喉が渇くだろ。りんごのエールを持ってきたから、これを飲んでみろ」
それは、リンゴを発酵させたもので甘く軽やかな味がするのだそうだ。エールだから、当然、少しのアルコールが入っているが、騎士達が好む普通のエールよりずっと弱く、女性が好む飲み物だ。
「わあ。ギル様、ありがとうございます」
フロルはそう言って、差し出された果物のエールをゴクリと飲む。少し炭酸が入っているけど、甘くて軽い口当たりがとっても美味しい。 今日は、また一つ、幸せな『初めて』が加わった。
人生初めてのお酒だ。
「これを食い終わったら、踊りに行こうな」
見れば、広場では、沢山のキャンドルの下で、バンドが演奏を初めていた。男も女も、大人も子供も、手を取り合って、ぽつりぽつりと踊り始めた。
「はい。ギル様、楽しそうですね」
フロルの首元には、さっき、露天でギルが買ってくれたネックレスが光っていた。青い石のネックレスは、どこかギル様の青い瞳を思い出させるようで、とっても可愛かった。屋台で魅入られたようにネックレスを見つめるフロルに気がついて、それをギルが買おうとした。フロルが慌てて辞退したが、女に金を出させるなんて男じゃないと、ギル様が男気を発揮したのだ。
そんなに高価なものではないが、フロルにとってはギル様が自分のために買ってくれたものだったから、一番、大切な宝物になった。そのネックレスを、フロルは嬉しそうに、そっと指でなぞる。
── この瞬間を忘れないようにするにはどうしたらいいんだろう。
もし、記憶が薄れていくものだとしたら、年を取ることはなんて悲しいんだろう。今の瞬間をずっとずっと忘れないでいられたら、どんなに幸せなことなのだろう。
フロルがそんなことを考えていると、ギルがどうしたのかと聞く。正直にフロルがそういうと、ギルは、思慮深い目をして言う。
「・・・だったら、来年は、もっと素敵な思い出を作ればいいじゃないか」
ギルの言葉に、フロルは深く頷く。そう、今年よりは来年、来年よりは再来年。もっともっと幸せな思い出を集めて、そして、寿命が来た時、お迎えの天使と一緒に、その思い出と一緒に空に登っていくのだ。
── きっと、その先には天国があるのに違いない。
幸せな記憶と共に、この世に感謝を込めて旅立つのだ。そんな風に生きられたら、なんて素敵なのだろう。
串焼きの他にも、美味しそうな丸い蒸しパンを食べたり、エールを飲んだりして、お腹がいっぱいになった頃、音楽の演奏が賑やかなものへと変わる。男も女も、大人も子供も、音楽につられて楽しそうに踊りの輪に入っていく。
「さあ、フロル、そろそろ踊ろうか」
「ええ、もちろんです。ギル様」
差し出された手を、フロルは躊躇なくとり、二人は踊りの輪へと加わる。
ギル様のごつごつした大きな手の中に包まれている自分の手の感覚。自分に笑いかけるギル様の笑顔。明るくリズムののった踊りの音楽。
どれも楽しくて、とても幸せで ──
──ずっと、ずっとこのままでいられたらいいのに。
踊りの輪の中にはいり、飛んだり跳ねたりしながら皆と一緒に踊る。フロルはめいっぱい、お祭りを楽しんでいた。
だって今日は、女神フローリア様のためのお祭りなのだから。
◇
ギル様が屋台で美味しそうな肉の串刺しを買ってきてくれた。近くの石のベンチの上に腰掛け、フロルは熱々の串を両手でもち、大きくかぶりつく。たちまち、濃厚な肉汁が口の中にじゅわーっと広がる。
「ん~、おいしい~」
それがとっても美味しくて、フロルの顔には満面の笑みが浮かぶ。
「そうだろ? 俺もこの肉が大好きなんだ。これを食べると故郷に帰ってきたな、としみじみ思うよ」
そう言って、ギルも自分の串にがぶりとかぶりつく。
肉はほどよくスパイスがきいて、肉のうまみと香辛料の香りが絶妙にマッチする感じがたまらない。
夢中になって、肉にかぶりつきながらも、フロルは、ふと、騎馬隊の騎士達はみんな筋肉フェチだったことを思い出した。
筋肉愛に満ちあふれている彼らの大好物は、当然、肉だ。肉を見たら、見境なく手を出すし、そこにさらに酒が入れば、俺の筋肉美を披露します!とか言って、すぐに服を脱ぎ始める。
そんな騎士達のことを思い出して、フロルはくすりと笑う。
「どうした?」
「ああ、騎馬隊の面々がこの肉を見たらどういう反応をするかと思って」
「間違いなく、あいつら、この串焼き屋を襲撃して、肉を食い尽くすだろうな」
「ふふ、目に浮かぶようですね」
二人は、串を片手にふふと笑い合う。なんて楽しいのだろう。
フロルが肉を片手に、あたりを見回すと、他にも色々な屋台が出ていた。エールを売ってるお店もあるし、可愛い髪飾りを売っているお店もある。
お祭りは活気に満ちていて、みんながそれぞれ思い思いの仮装している。今日だけは、農夫も王様になれるし、鍛冶屋も騎士になれるのだ。二人とも一応、目だけが隠れる仮面をつけているから、ギル様がご領主様のご子息だと見破るものは誰もいない。
「ほら、串焼き肉を食べると喉が渇くだろ。りんごのエールを持ってきたから、これを飲んでみろ」
それは、リンゴを発酵させたもので甘く軽やかな味がするのだそうだ。エールだから、当然、少しのアルコールが入っているが、騎士達が好む普通のエールよりずっと弱く、女性が好む飲み物だ。
「わあ。ギル様、ありがとうございます」
フロルはそう言って、差し出された果物のエールをゴクリと飲む。少し炭酸が入っているけど、甘くて軽い口当たりがとっても美味しい。 今日は、また一つ、幸せな『初めて』が加わった。
人生初めてのお酒だ。
「これを食い終わったら、踊りに行こうな」
見れば、広場では、沢山のキャンドルの下で、バンドが演奏を初めていた。男も女も、大人も子供も、手を取り合って、ぽつりぽつりと踊り始めた。
「はい。ギル様、楽しそうですね」
フロルの首元には、さっき、露天でギルが買ってくれたネックレスが光っていた。青い石のネックレスは、どこかギル様の青い瞳を思い出させるようで、とっても可愛かった。屋台で魅入られたようにネックレスを見つめるフロルに気がついて、それをギルが買おうとした。フロルが慌てて辞退したが、女に金を出させるなんて男じゃないと、ギル様が男気を発揮したのだ。
そんなに高価なものではないが、フロルにとってはギル様が自分のために買ってくれたものだったから、一番、大切な宝物になった。そのネックレスを、フロルは嬉しそうに、そっと指でなぞる。
── この瞬間を忘れないようにするにはどうしたらいいんだろう。
もし、記憶が薄れていくものだとしたら、年を取ることはなんて悲しいんだろう。今の瞬間をずっとずっと忘れないでいられたら、どんなに幸せなことなのだろう。
フロルがそんなことを考えていると、ギルがどうしたのかと聞く。正直にフロルがそういうと、ギルは、思慮深い目をして言う。
「・・・だったら、来年は、もっと素敵な思い出を作ればいいじゃないか」
ギルの言葉に、フロルは深く頷く。そう、今年よりは来年、来年よりは再来年。もっともっと幸せな思い出を集めて、そして、寿命が来た時、お迎えの天使と一緒に、その思い出と一緒に空に登っていくのだ。
── きっと、その先には天国があるのに違いない。
幸せな記憶と共に、この世に感謝を込めて旅立つのだ。そんな風に生きられたら、なんて素敵なのだろう。
串焼きの他にも、美味しそうな丸い蒸しパンを食べたり、エールを飲んだりして、お腹がいっぱいになった頃、音楽の演奏が賑やかなものへと変わる。男も女も、大人も子供も、音楽につられて楽しそうに踊りの輪に入っていく。
「さあ、フロル、そろそろ踊ろうか」
「ええ、もちろんです。ギル様」
差し出された手を、フロルは躊躇なくとり、二人は踊りの輪へと加わる。
ギル様のごつごつした大きな手の中に包まれている自分の手の感覚。自分に笑いかけるギル様の笑顔。明るくリズムののった踊りの音楽。
どれも楽しくて、とても幸せで ──
──ずっと、ずっとこのままでいられたらいいのに。
踊りの輪の中にはいり、飛んだり跳ねたりしながら皆と一緒に踊る。フロルはめいっぱい、お祭りを楽しんでいた。
だって今日は、女神フローリア様のためのお祭りなのだから。
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