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第四章 白魔導師の日々

ドレイクの観察

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竜から降り立ったドレイクは、まっすぐにフロルの元に歩いてきた。フロルの横には、鞍をつけ、すっかり身支度を調えたリルが寄り添うように立っている。

「ドレイク様、それで女神の様子はいかがでした?」

キースがドレイクに声をかけた。自分達が立ち去った後、何が起きたのか、キースも知らなかったのだ。

「レルマは竜を使役する所か、興奮したリルの足下にも近寄れなかった。さらには、氷竜を激怒させて、周囲を凍結させた」

酷いもんだと呟くドレイクの傍らでは、リルが満足そうに、きゅんと呟きながらフロルに甘えている。

「竜を無理やり主から引き離すなんて、酷いことをしますね」

他の竜騎士達もフロルを取り囲み、不満げな声を荒げる。自分の愛竜から引き離される悲しみを、竜騎士たちも簡単に想像できた。他の人間には理解出来ないだろう。竜とそれを使役する人間の絆の強さや、竜の主に対する強い愛着を。

ドレイクがふんと鼻でせせら笑う。

「奇跡を起こすどころか、あれじゃ、ただの小娘だ。使い物になぞならんだろう」

ドレイクはフロルに振り返った。

「さて、リルは女神を嫌って、暴れて逃げ出したのだ。私はそこで起きたことを一部始終、殿下に報告しなければならない。リルはお前の後を追ってここまで飛んできた。そうであれば、リルは確かにお前の竜だ。フロル。殿下にもそう報告しておく」

「ありがとうございます。ドレイク様」

「さ、そうであれば、フロル、リルに乗れ。出発するぞ」

 「きゅん!」

リルが待ってましたとばかりに鳴き声を上げる。統制の取れた一団は、あっと言う間に空へと舞い上がった。竜騎士達は自分の竜と共に、一団になって王城に向った。リルもその群れに混じって、再びフロルを乗せて、嬉しそうに飛んでいた。



その頃 ── リード家の中では、ものすごく微妙な空気が流れていた。ギルの両親とギル本人、そして、リアがテーブルを囲んでいる。

「・・・あの、フローリア様、どうぞお召し上がりになって」

ギルの母であるイレーヌが勧めると、リアはお茶を静かに口にする。その後では、神官達が立っていた。

「その神官様方もお茶はいかがですか?」

「いいえ。我々は職務中ですし、女神様と同席するなど恐れおおいことでございます」

そうですか、とイレーヌはげっそりした表情を表に出さずに、神官のしたいようにさせておこうと決めた。

「我々もすぐに戻らねばなりません」

神官周りの警護は神官近衛の仕事だ。当然、神官近衛たちもギルの家にやってきている訳で。

「そうだな。俺も王宮に戻らないと」

殿下と直談判しなければ、と、ギルも言う。目の前のレルマ子爵令嬢に言いたいこともあるが、全ては神官達がお膳立てしたのだろう。彼女は上の命令に従っているだけだとはわかっていたが、彼女の取り澄ました様子がどうにも苦手だ。ギルは出来るだけ彼女と目を合わせないようにしていた。

── 俺が好きなのはフロルだ。

口にこそ出さなかったが、ギルはずっとフロルことを心配していた。

リルは、リアを嫌がり、鎖をぶっ壊してさっさとフロルを追いかけていった。きっと今頃、ドレイクたちと合流して、王城に戻っているのに違いない。竜騎士と一緒なのだからフロルの安全は担保されている。

可愛い俺のフロル ──

収穫祭で酔っ払って、拗ねたフロルはことのほか可愛かったなとギルは思い出す。酔うと口が軽くなり、べらべらと喋りだすとか、くるくると、めまぐるしく動く表情。気取りのない言葉遣い。

そんな様子のフロルが面白くて、いじらしくて。ギルは思わず口の端をあげ、そっと微笑んだ。

特に、あの青い妖精のドレスを着たフロルは ・・・・

「もう、茶器をお下げしても、よろしいでしょうか?」

ぼんやりとフロルのことを想っていたギルは、執事の声ではっと我に返る。皆、お茶は終えたようだった。

「ああ、すまない。ちょっと考え事を・・・」

「これから、どういう日程になってるの?」

リアが神官に聞くと、すらすらとこれからの予定を伝える。

「・・・これから出発し、夜半にダーハンの町に到着します。その夜はダーハンに泊まり・・・・」

ギルも否応なく、リアと行動を共にすることになっているようだった。

殿下の命令だから仕方がないとは言え、帰路はこのレルマ子爵令嬢と一緒だと思うと、あまり気が進まない。けれども、仕事は仕事だ。出来るだけ早く王宮に帰り、このバカな茶番劇を終わらせようと心に決める。

そして、ギルもすぐに旅立ちの準備を始めた。


次話、「ギルの対応」から二話分は刊行後、公開予定です。
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