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第四章 白魔導師の日々
リルの機転
(えっと、この人誰だっけ?)
一度も見たことがないようなのに、なんとなく見覚えがあるような気がする。フロルは目の前にいる長身の男を見上げる。
「ふふ、フローリア、まだ、私が思い出せない?」
含み笑いを浮かべながら、男はどことなく熱のこもった視線で自分を見つめていることに気がつき、フロルは、なんだか嫌な気持ちがした。
ギル様以外の男に、こんな顔をされるいわれはない。
「えっと、どちら様でしったっけ?」
どちら様と言う言葉を強調して、初対面だとアピールしながら、フロルは男から遠ざかろうと、後ずさりをする。
そんなフロルを、男は逃す気はなかったようだ。ぐいと、フロルの手をとって自分のほうに引き寄せ、男の胸にあてた。
「ほら、わたしの鼓動は、こんなにも早く脈打っている。ああ、愛しい私のフローリア。永久にも近い時間を、一日千秋の思いで、待ち焦がれていたのだよ」
男はそういうと、フロルの手首を裏返して見せる。そこには、あの痣が存在を主張するかのように、浮き上がっていた。
「ああ、よく咲いたね。私の華が」
男が自分の手首をつかむ手をひときわ強くした瞬間、男の魔力がフロルの中へと流れ込んできたのがわかる。
それは、忌まわしく、陰鬱な力だったので、身の毛もよだつような嫌悪感をフロルは感じた。きっと、男を睨み付けながら、その手を振り払う。
「ちょっと、誰だか知らないけど、放せ」
男は、暗く歪んだ笑いを口元に浮かべながら、フロルの手をあっさりと放す。フロルは、男から距離を置いて、男に捕まれた手首を見ると、あの腕のあざが、どういう訳かくっきりと力強く浮かび上がっていた。
これが、男が『華』と呼んでいたものだろうか。そんなフロルに、男は見透かしたような笑みを浮かべた。
「ふふ、そうだ。その痣から私の魔力がお前の体に入り込む。それが終れば、お前は私のものだ」
訳わからん魔力など、気味が悪いだけだ。
「い、一体、お前は何者?!」
仏頂面を顔に全面に出したフロルは、低く唸るような声を振り絞る。いつもの明るい自分とは違う暗い側面を感じると、男はさらに嬉しそうな顔をする。
「そうだ。その黒い感情が強くなればなるほど、私に近くなるのだ。フローリア。くくく、あの男にまとわりつく女への嫉妬の心が、お前を私に近いものにとする。私の半身へと変わるのだ。我が女神よ。我が王国へようこそ」
男は胸に手を当て、貴公子のような丁寧な礼をフロルに向ける。どことなく、陰鬱な感じがドレイク様に似ているような気がするものの、この男はドレイクより、やや細身ですらりとした体形をしている。
「女神とか呼ばれたくなんだけどっ」
この男の名前を知らないが、知りたいとも思わなかった。早く、ギル様の所に帰りたくて、フロルはどこかに外につながる出口はないものか目で探る。出口がない訳ないのだ。
「ふふ、ここから逃げようとしても無駄だ。お前は今、深い眠りについている。お前の深層心理が、我が世界とつながったのだ」
「夢から覚めなきゃ無理ってこと?」
フロルは、鋭く相手を睨みつけながらも、じりじりと離れ、本能的に出来る限り距離を取ろうとしていた。
「まあ、そういうことだな。夢の中から自分の目を覚まさせることが出来ればな」
男はにやりと自信のある笑みを浮かべた。何世紀も待ってようやっと巡ってきた機会に男は歓喜している。そんな男をフロルは冷静に観察していた。
この男は、何百年と自分が現れるのを待っていたという。だとしたら、どんだけ、気の長いストーカーなのか。手首の痣がじんじんと痛むが、それを無視して、フロルは男に虚勢を張った。
「残念ね。誰だか知らないけど、私にはもう好きな人がいるんですからねっ」
鼻息荒くフロルが言い放つと、男は、皮肉交じりに片眉を上げる。
「・・・ふ、聖剣の騎士がここに助けにこれなどするものか」
むぅっと、フロルは悔しげに口をへの字に曲げ、腰に手をあてて、仁王立ちになる。この男になど屈してたまるものか。そんな気持ちが、なぜだかわからないが、ふつふつとこみ上げてくる。
「うだうだ言ってないで、私を元の場所に戻しなさい」
「おお、今回の女神様は、たいそう気が強そうだな」
ひゅうっとからかうように口笛を吹く男は、面白そうに笑った。
「私の世界から、簡単に逃れられるとでも思っているのか」
真っ赤な瞳孔が、見透かすようにフロルを見つめる。
陰鬱な暗い世界で、フロルは、負けるもんか、と、意気込みながら見知らぬ男と見知らぬ世界で対峙していた。
◇
その頃、竜舎で竜の見張り番をしていた男は、なんだか騒がしい物音が聞こえているのに気が付き、詰所から、竜舎へと歩いていた。
「なんだか、やけに竜舎が騒がしいが、どうしたんだろう」
竜騎士の元で、竜の世話をしている竜舎係の男二人は、何事かと、カンテラを掲げて、急ぎ足で向かっていた。竜舎近くなるにつれて、竜が「きゅう、きゅう」と鳴く声が聞こえた。竜舎係が聞き間違えのない鳴き声。
「あれは、リルの鳴き声じゃないか?」
そして、リルにつられて、他の竜たちも、ギャアギャアと鳴いている。その声は火竜のガビィのものだろう。
「他の竜も鳴いてるな。リルにつられて鳴いてるのかな」
「いずれにせよ、早く行ったほうがいい」
そうして、男たちは急ぎ足で竜舎に到着すると、その扉を大きく開け、竜たちに声をかけた。
「おい、お前たち、一体何を・・・」
竜舎係の男は、目の前のリルの状態を見て、一瞬、言葉を失った。
「どうして、こんな・・・」
男たちは、竜舎の入り口で、思いがけない光景を目撃して、そのまま立ちすくんでいた。
一度も見たことがないようなのに、なんとなく見覚えがあるような気がする。フロルは目の前にいる長身の男を見上げる。
「ふふ、フローリア、まだ、私が思い出せない?」
含み笑いを浮かべながら、男はどことなく熱のこもった視線で自分を見つめていることに気がつき、フロルは、なんだか嫌な気持ちがした。
ギル様以外の男に、こんな顔をされるいわれはない。
「えっと、どちら様でしったっけ?」
どちら様と言う言葉を強調して、初対面だとアピールしながら、フロルは男から遠ざかろうと、後ずさりをする。
そんなフロルを、男は逃す気はなかったようだ。ぐいと、フロルの手をとって自分のほうに引き寄せ、男の胸にあてた。
「ほら、わたしの鼓動は、こんなにも早く脈打っている。ああ、愛しい私のフローリア。永久にも近い時間を、一日千秋の思いで、待ち焦がれていたのだよ」
男はそういうと、フロルの手首を裏返して見せる。そこには、あの痣が存在を主張するかのように、浮き上がっていた。
「ああ、よく咲いたね。私の華が」
男が自分の手首をつかむ手をひときわ強くした瞬間、男の魔力がフロルの中へと流れ込んできたのがわかる。
それは、忌まわしく、陰鬱な力だったので、身の毛もよだつような嫌悪感をフロルは感じた。きっと、男を睨み付けながら、その手を振り払う。
「ちょっと、誰だか知らないけど、放せ」
男は、暗く歪んだ笑いを口元に浮かべながら、フロルの手をあっさりと放す。フロルは、男から距離を置いて、男に捕まれた手首を見ると、あの腕のあざが、どういう訳かくっきりと力強く浮かび上がっていた。
これが、男が『華』と呼んでいたものだろうか。そんなフロルに、男は見透かしたような笑みを浮かべた。
「ふふ、そうだ。その痣から私の魔力がお前の体に入り込む。それが終れば、お前は私のものだ」
訳わからん魔力など、気味が悪いだけだ。
「い、一体、お前は何者?!」
仏頂面を顔に全面に出したフロルは、低く唸るような声を振り絞る。いつもの明るい自分とは違う暗い側面を感じると、男はさらに嬉しそうな顔をする。
「そうだ。その黒い感情が強くなればなるほど、私に近くなるのだ。フローリア。くくく、あの男にまとわりつく女への嫉妬の心が、お前を私に近いものにとする。私の半身へと変わるのだ。我が女神よ。我が王国へようこそ」
男は胸に手を当て、貴公子のような丁寧な礼をフロルに向ける。どことなく、陰鬱な感じがドレイク様に似ているような気がするものの、この男はドレイクより、やや細身ですらりとした体形をしている。
「女神とか呼ばれたくなんだけどっ」
この男の名前を知らないが、知りたいとも思わなかった。早く、ギル様の所に帰りたくて、フロルはどこかに外につながる出口はないものか目で探る。出口がない訳ないのだ。
「ふふ、ここから逃げようとしても無駄だ。お前は今、深い眠りについている。お前の深層心理が、我が世界とつながったのだ」
「夢から覚めなきゃ無理ってこと?」
フロルは、鋭く相手を睨みつけながらも、じりじりと離れ、本能的に出来る限り距離を取ろうとしていた。
「まあ、そういうことだな。夢の中から自分の目を覚まさせることが出来ればな」
男はにやりと自信のある笑みを浮かべた。何世紀も待ってようやっと巡ってきた機会に男は歓喜している。そんな男をフロルは冷静に観察していた。
この男は、何百年と自分が現れるのを待っていたという。だとしたら、どんだけ、気の長いストーカーなのか。手首の痣がじんじんと痛むが、それを無視して、フロルは男に虚勢を張った。
「残念ね。誰だか知らないけど、私にはもう好きな人がいるんですからねっ」
鼻息荒くフロルが言い放つと、男は、皮肉交じりに片眉を上げる。
「・・・ふ、聖剣の騎士がここに助けにこれなどするものか」
むぅっと、フロルは悔しげに口をへの字に曲げ、腰に手をあてて、仁王立ちになる。この男になど屈してたまるものか。そんな気持ちが、なぜだかわからないが、ふつふつとこみ上げてくる。
「うだうだ言ってないで、私を元の場所に戻しなさい」
「おお、今回の女神様は、たいそう気が強そうだな」
ひゅうっとからかうように口笛を吹く男は、面白そうに笑った。
「私の世界から、簡単に逃れられるとでも思っているのか」
真っ赤な瞳孔が、見透かすようにフロルを見つめる。
陰鬱な暗い世界で、フロルは、負けるもんか、と、意気込みながら見知らぬ男と見知らぬ世界で対峙していた。
◇
その頃、竜舎で竜の見張り番をしていた男は、なんだか騒がしい物音が聞こえているのに気が付き、詰所から、竜舎へと歩いていた。
「なんだか、やけに竜舎が騒がしいが、どうしたんだろう」
竜騎士の元で、竜の世話をしている竜舎係の男二人は、何事かと、カンテラを掲げて、急ぎ足で向かっていた。竜舎近くなるにつれて、竜が「きゅう、きゅう」と鳴く声が聞こえた。竜舎係が聞き間違えのない鳴き声。
「あれは、リルの鳴き声じゃないか?」
そして、リルにつられて、他の竜たちも、ギャアギャアと鳴いている。その声は火竜のガビィのものだろう。
「他の竜も鳴いてるな。リルにつられて鳴いてるのかな」
「いずれにせよ、早く行ったほうがいい」
そうして、男たちは急ぎ足で竜舎に到着すると、その扉を大きく開け、竜たちに声をかけた。
「おい、お前たち、一体何を・・・」
竜舎係の男は、目の前のリルの状態を見て、一瞬、言葉を失った。
「どうして、こんな・・・」
男たちは、竜舎の入り口で、思いがけない光景を目撃して、そのまま立ちすくんでいた。
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