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第四章 白魔導師の日々
リルの機転~2
竜舎の中で、リルがくわっと目を見開き、仁王立ちに立ち尽くしている。青い目の中にある瞳孔がぎりりと光り、暗く陰鬱な怒りを湛えている。リルは怒っていたのだ。
「おい!なんで、こんな時に竜が怒る?」
「さあ、俺だって見当がつかねぇよ」
リルの怒りにつられて、他の竜達も殺気だっている。鱗の端まで、何かを警戒しているようで、神経を研ぎ澄ませて、耳をそばだてている。
「おい、俺、ドレイク様を呼んでくる。お前は、出口で待っていてくれ」
一人の男を残したまま、その相方は竜騎士の宿舎へと走る。こんな異常事態を収められるのは、竜の主である竜騎士だけだからだ。
次の瞬間、リルは低いうなり声を上げて、ぎろりと宙を睨んだ。
「あ、おいっ。何するんだ」
リルの全身から青く光る闘気がオーラのように発せられたかと思ったら、鎖が一瞬で凍り付き、パラパラと砕け散る。
鉄の鎖を凍らせて砕き、竜舎係が制するのを無視して、リルは、大きな羽をにゅうっと広げた。
「おい、どこへ行く?!」
リルが大きく羽ばたき、飛び去っていくのを、竜係は指をくわえて眺めているしかない。
リルはフロルの宿舎へと向かって飛んでいる。
その頃、エスペランサが寝ている馬屋のわらの中で、あの精霊うさぎも、すやすやと眠っていたのだが、同じように異変を感じていた。
(む?なんかへん・・・)
精霊うさぎも目を覚まして、ぴんっと耳をそばだてている。この気配はなんだか見覚えがある。
(あ・・・この気配は、まおう・・・)
精霊うさぎも珍しく、くわっと目を見開きながら、びくっと飛び起きた。藁が周囲に飛び散り、そんなウサギに気がつき、エスペランサも何事かと、ウサギに鼻を寄せる。
(たいへんだ・・・まおうが、めがみさまに、ちかづいてる)
うさぎも、あたふたと馬屋の外へと走り出て、一目散に、フロルの宿舎へと向かった。
◇
その頃、フロルは、見たこともない夢の中で、見たこともないような怪しげな男と真っ向から対決していた。初めて見た相手なのに、どこか見覚えがあるような気がするのはなぜだ。
「そもそも、私をここに呼び寄せる意味がわからないんだけど」
ふんっと、フロルは口をへの字に曲げる。なんだか、よくわからないが、上から目線の偉そうな物言いが気に食わない。それに、美しい容姿の裏側に、何かとても忌々しいものを感じるのだ。
その見えない気のようなものが、フロルを苛つかせる。
男は美しい顔の上に、この上なく甘美な表情を浮かべ、艶のある声で囁く。
「私たちは昔からの知り合いだよ。フローリア。まだ、君が何も思い出していないだけで」
仮に、知り合いだったとしても、きっとロクな関係じゃないはずだ。なんとなく、フロルはイライラして、つい声を荒げてしまった。
「わたしによるな! 」
きっと、男を睨みつけると、男はふふと笑顔を見せる。
「恥ずかしがらなくてもいいよ。フローリア。私の美貌に、苛つくほど魅せられても、それは私の罪だ」
(はあ?なんっつった?このナル男)
フロルは一瞬、呆れてぽかーんと口を開けてしまった。
(こういうナルシスト的な所が昔からキモイから嫌いだったんだ)
そう、思った瞬間、フロルははて?と思う。昔・・・? 初めて会った男に昔から、と言うのは変だが、さっと意識を目の前に男に向ける。なにはともあれ、ここから出て、自分がいた宿舎に戻りたい。
「私を元の場所に返しなさい」
仏頂面を全面に押し出して、フロルが言うと、男は余裕のある表情でふふと笑う。
自分が作ったこの意識空間から、覚醒前の女神が絶対に出れるはずがないのだ。散々、出口を探し回って、疲れ果てて自分に泣きつくのを、この男は待っていた。未だに、精霊たちが彼女を護るために張った守護印が女神を護っている。
あれがある限り、魔王はおいそれと彼女に手出しをすることが出来ないのだ。
魔界に近い、魔王の精神世界の中にいるだけで、女神は力を使い果たす。出口を探し回れば、余計に体力を使いはたすだろう。そうすれば、あの守護印も効力を失うはずだ
ああ、私のフローリア、私の女神。いつになったら、私のものになってくれるのだ。
魔王の氷のような端整な顔に、甘い笑みがうかぶ。
「この城のどこかに出口がある。自分でそれを見つけてみるがいい」
フロルは自分を取り囲むように、そびえたっている王城を眺めた。フロルがいる場所は、王城の中庭のような所だ。周囲には同じように暗い石が積み上げられた壁が立ち、その奥には、高い搭のある建物が重なるように立ち並んでいる。
さあ、と男はフロルを促す。
売られた喧嘩、買うべし!
フロルは、身をひるがえして、城の中へと駆け込んだ。魔王は、腕組みをしながら、その後ろ姿を見送っていると、魔王の陰から、黒い生き物が現れる。
猫の形をしているが、それも魔獣の一種だった。
「陛下、よろしいのですか?女神を城の中をうろうろさせて」
魔王は、含み笑いを浮かべる。
「ああ。構わんさ。覚醒前の女神など、赤子の手をひねるのも同然。疲れ果て、私が何者かわからないままに、助けを求めてくるだろうだ」
その時が、チャンスだ。と魔王は笑う。
黒猫は、丁寧に四つ足で、地面にひれ伏しながら礼をとる。
「御意。では、私は、女神から目を離さなさいようにいたします」
魔王は、無言でいたが、黒猫はそのまま姿を消し、城の中で出口を求めてさ迷っている女神の元へと向かった。
「おい!なんで、こんな時に竜が怒る?」
「さあ、俺だって見当がつかねぇよ」
リルの怒りにつられて、他の竜達も殺気だっている。鱗の端まで、何かを警戒しているようで、神経を研ぎ澄ませて、耳をそばだてている。
「おい、俺、ドレイク様を呼んでくる。お前は、出口で待っていてくれ」
一人の男を残したまま、その相方は竜騎士の宿舎へと走る。こんな異常事態を収められるのは、竜の主である竜騎士だけだからだ。
次の瞬間、リルは低いうなり声を上げて、ぎろりと宙を睨んだ。
「あ、おいっ。何するんだ」
リルの全身から青く光る闘気がオーラのように発せられたかと思ったら、鎖が一瞬で凍り付き、パラパラと砕け散る。
鉄の鎖を凍らせて砕き、竜舎係が制するのを無視して、リルは、大きな羽をにゅうっと広げた。
「おい、どこへ行く?!」
リルが大きく羽ばたき、飛び去っていくのを、竜係は指をくわえて眺めているしかない。
リルはフロルの宿舎へと向かって飛んでいる。
その頃、エスペランサが寝ている馬屋のわらの中で、あの精霊うさぎも、すやすやと眠っていたのだが、同じように異変を感じていた。
(む?なんかへん・・・)
精霊うさぎも目を覚まして、ぴんっと耳をそばだてている。この気配はなんだか見覚えがある。
(あ・・・この気配は、まおう・・・)
精霊うさぎも珍しく、くわっと目を見開きながら、びくっと飛び起きた。藁が周囲に飛び散り、そんなウサギに気がつき、エスペランサも何事かと、ウサギに鼻を寄せる。
(たいへんだ・・・まおうが、めがみさまに、ちかづいてる)
うさぎも、あたふたと馬屋の外へと走り出て、一目散に、フロルの宿舎へと向かった。
◇
その頃、フロルは、見たこともない夢の中で、見たこともないような怪しげな男と真っ向から対決していた。初めて見た相手なのに、どこか見覚えがあるような気がするのはなぜだ。
「そもそも、私をここに呼び寄せる意味がわからないんだけど」
ふんっと、フロルは口をへの字に曲げる。なんだか、よくわからないが、上から目線の偉そうな物言いが気に食わない。それに、美しい容姿の裏側に、何かとても忌々しいものを感じるのだ。
その見えない気のようなものが、フロルを苛つかせる。
男は美しい顔の上に、この上なく甘美な表情を浮かべ、艶のある声で囁く。
「私たちは昔からの知り合いだよ。フローリア。まだ、君が何も思い出していないだけで」
仮に、知り合いだったとしても、きっとロクな関係じゃないはずだ。なんとなく、フロルはイライラして、つい声を荒げてしまった。
「わたしによるな! 」
きっと、男を睨みつけると、男はふふと笑顔を見せる。
「恥ずかしがらなくてもいいよ。フローリア。私の美貌に、苛つくほど魅せられても、それは私の罪だ」
(はあ?なんっつった?このナル男)
フロルは一瞬、呆れてぽかーんと口を開けてしまった。
(こういうナルシスト的な所が昔からキモイから嫌いだったんだ)
そう、思った瞬間、フロルははて?と思う。昔・・・? 初めて会った男に昔から、と言うのは変だが、さっと意識を目の前に男に向ける。なにはともあれ、ここから出て、自分がいた宿舎に戻りたい。
「私を元の場所に返しなさい」
仏頂面を全面に押し出して、フロルが言うと、男は余裕のある表情でふふと笑う。
自分が作ったこの意識空間から、覚醒前の女神が絶対に出れるはずがないのだ。散々、出口を探し回って、疲れ果てて自分に泣きつくのを、この男は待っていた。未だに、精霊たちが彼女を護るために張った守護印が女神を護っている。
あれがある限り、魔王はおいそれと彼女に手出しをすることが出来ないのだ。
魔界に近い、魔王の精神世界の中にいるだけで、女神は力を使い果たす。出口を探し回れば、余計に体力を使いはたすだろう。そうすれば、あの守護印も効力を失うはずだ
ああ、私のフローリア、私の女神。いつになったら、私のものになってくれるのだ。
魔王の氷のような端整な顔に、甘い笑みがうかぶ。
「この城のどこかに出口がある。自分でそれを見つけてみるがいい」
フロルは自分を取り囲むように、そびえたっている王城を眺めた。フロルがいる場所は、王城の中庭のような所だ。周囲には同じように暗い石が積み上げられた壁が立ち、その奥には、高い搭のある建物が重なるように立ち並んでいる。
さあ、と男はフロルを促す。
売られた喧嘩、買うべし!
フロルは、身をひるがえして、城の中へと駆け込んだ。魔王は、腕組みをしながら、その後ろ姿を見送っていると、魔王の陰から、黒い生き物が現れる。
猫の形をしているが、それも魔獣の一種だった。
「陛下、よろしいのですか?女神を城の中をうろうろさせて」
魔王は、含み笑いを浮かべる。
「ああ。構わんさ。覚醒前の女神など、赤子の手をひねるのも同然。疲れ果て、私が何者かわからないままに、助けを求めてくるだろうだ」
その時が、チャンスだ。と魔王は笑う。
黒猫は、丁寧に四つ足で、地面にひれ伏しながら礼をとる。
「御意。では、私は、女神から目を離さなさいようにいたします」
魔王は、無言でいたが、黒猫はそのまま姿を消し、城の中で出口を求めてさ迷っている女神の元へと向かった。
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