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第四章 白魔導師の日々
黒猫とフロル~2
「あ、あれは森のウサギ!」
暗い洞窟の天井を見上げて、フロルは思わず驚きの声を漏らす。 ギルのことで落ち込んでいた時、そっと側に寄りそうようにやってきて、もふもふを堪能させてくれたあのウサギだ。
「・・・それにしても、綺麗だな」
ウサギが助けに来てくれたのだろうか?それとも、これも夢なのか。
真っ暗な洞窟の上には、灯籠のように、沢山のウサギが光の玉を抱えながら、ふわりふわりと浮いている。まるで夜空に浮かぶ蛍のような光は、とても綺麗だった。フロルの横にいる黒猫も、その光景を見て、あたふたと慌てた。
「あ、あれは、精霊じゃないか!」
どうして、たとえ、精神世界の中であったとしても、ここが魔界の入り口であることには変わらない。精霊が入ってこれるなんて、あり得ることではない。
慌てる魔物の横で、フロルは、宙に浮かぶウサギに大きく手を振った。
「うさぎさーん、こっちよ。こっちー」
明かりがあれば、出口へとつながる所まで行けるかもしれない。ウサギたちも、フロルを見つけて、にこにこと笑っているように見える。
「だ、だめだよ。ここから出す訳にはいかない」
こんなことをしていたら、きっとあの方が来る。まだ肉体はあちらの世界にあるが、精神世界の中でやっと手に入れた女神を、あの方が手放す訳がないのだ。
(く、くるっ、魔王様が絶対にお怒りになるはずだ)
黒猫は、とばっちりを食らう前に、そうそうに岩陰に隠れようとした。その瞬間だ。
薄暗い暗闇の間から、にゅっと男の手が伸びてきて、フロルの肩を自分に引き寄せた。
「あっ」
その瞬間、ふと気づけば、フロルは男の腕の中にいた。
「ふふ、まだ悪あがきをするのかい?私の女神よ」
男はクツクツと笑う。
「ああ、いい感じに、聖なる力が弱まってきたねぇ。この暗闇は、君の力をじっくりと奪っていくんだ」
「ちょっと、放して!」
フロルが男の腕を振り払おうとしたのだが、思ったように体が動かなくなっていることに気がついた。
男は、そんなフロルを見て、ますます嬉しそうに笑う。
「君がここにいる間にも、あの偽女神は聖剣の騎士とお近づきになっていることだろうね」
男の声は甘く暗い。心の根っこの深い部分に入り込んでくるような気がして、フロルは嫌悪感で顔をしかめた。
「知ってるかい?あの偽女神は男を誘惑する手腕に長けているんだ。あの手この手で、聖剣の騎士を自分のものにしようと、画策しているさ」
フロルの胸がずきんと痛む。
魔王は見透かしたように、目を細めて薄く笑う。
「私には見える。今、偽女神は、聖剣の騎士を自分の部屋に呼んだ。酒を一緒に飲むように勧めているが、あの男は堅物だな。酒を辞退している姿が見えるよ・・・・けれども、あの女は香を焚いている。あれは── 媚薬が入っているな。ふふ、なかなかあの女は狡猾なようだ。楽しいねぇ」
違う。ギル様は、そんなことに惑わされる人じゃない。
「ふうん。あの女は、聖剣の騎士を寝台に引きずり込んで、既成事実を作るつもりらしいな。楽しいねぇ。堕落、誘惑、そんなものが神殿の中にはびこるのは」
魔王が、さっと片手を振ると、暗い湖の水面がまるで鏡のように変わった。そこには、とある部屋の中が映し出される。そこには、何故か、アンヌとギルがいた。
その場所は、きっと神殿だろう。とすれば、その部屋はアンヌの神殿の中のアンヌの居室だろうか。魔王は、見透かすように鼻で笑う。
「そう。君たちが、女神と崇め奉っている女の居城だ」
そこに、何故だか、ギル様が所在なさげに部屋の入り口に立っている様子が見える。
壮麗な部屋のテーブルの上には、酒を注ぐためのグラスが二つ。氷が入った銀の容器の中には、冷えた酒が準備されている。
その表情から察するに、どうもギル様は困っているらしい。そんな彼に、アンヌが何か言おうと近寄っているのが見える。
アンヌの細い腕が、ギルに絡む。
そんな彼女に、彼はとても弱り切った表情を見せる。彼が踵をかえして、部屋の扉から出ようとすると、アンヌが顔色を変えて彼の背中にかけよって、彼を引き留める。
「えっ?」
フロルの顔から血の気が失せた。
どうして? どうして、ギル様があんな所で、アンヌと一緒にいるのか? 夜はもうかなり更けているはずだ。そんな時間に、男女が二人きりで同じ部屋にいる。
疑惑が疑惑を呼び、フロルの胸に初めて彼に対する不信感が浮かぶ。今まで、一度だって、彼を疑ったことなどなかったのに。
どんな時も、どんな状況でも、一番の信頼と愛情を彼に寄せたいたのに。
「そうだ。あの女は、今夜こそ、聖剣の騎士をわが物にせんと心を固く決めたようだぞ」
魔王の嘲るような声すら耳に入らず、フロルは、ひたすら目の前の湖面を食い入るように見つめている。
驚いたように、ギルが振り返ると、その胸の中に、アンヌが真っ直ぐに飛び込んでいく。彼の胸の中に、アンヌが飛び込んでいくのが見える。ギルは戸惑ったように、その手をアンヌの肩に置いた。
「やだ・・・・どうして? どうしてなの?」
フロルは青ざめて小刻みに震えている。その目には涙が浮かんでいる。
そんな姿を魔王は楽し気に眺めていた。
暗い洞窟の天井を見上げて、フロルは思わず驚きの声を漏らす。 ギルのことで落ち込んでいた時、そっと側に寄りそうようにやってきて、もふもふを堪能させてくれたあのウサギだ。
「・・・それにしても、綺麗だな」
ウサギが助けに来てくれたのだろうか?それとも、これも夢なのか。
真っ暗な洞窟の上には、灯籠のように、沢山のウサギが光の玉を抱えながら、ふわりふわりと浮いている。まるで夜空に浮かぶ蛍のような光は、とても綺麗だった。フロルの横にいる黒猫も、その光景を見て、あたふたと慌てた。
「あ、あれは、精霊じゃないか!」
どうして、たとえ、精神世界の中であったとしても、ここが魔界の入り口であることには変わらない。精霊が入ってこれるなんて、あり得ることではない。
慌てる魔物の横で、フロルは、宙に浮かぶウサギに大きく手を振った。
「うさぎさーん、こっちよ。こっちー」
明かりがあれば、出口へとつながる所まで行けるかもしれない。ウサギたちも、フロルを見つけて、にこにこと笑っているように見える。
「だ、だめだよ。ここから出す訳にはいかない」
こんなことをしていたら、きっとあの方が来る。まだ肉体はあちらの世界にあるが、精神世界の中でやっと手に入れた女神を、あの方が手放す訳がないのだ。
(く、くるっ、魔王様が絶対にお怒りになるはずだ)
黒猫は、とばっちりを食らう前に、そうそうに岩陰に隠れようとした。その瞬間だ。
薄暗い暗闇の間から、にゅっと男の手が伸びてきて、フロルの肩を自分に引き寄せた。
「あっ」
その瞬間、ふと気づけば、フロルは男の腕の中にいた。
「ふふ、まだ悪あがきをするのかい?私の女神よ」
男はクツクツと笑う。
「ああ、いい感じに、聖なる力が弱まってきたねぇ。この暗闇は、君の力をじっくりと奪っていくんだ」
「ちょっと、放して!」
フロルが男の腕を振り払おうとしたのだが、思ったように体が動かなくなっていることに気がついた。
男は、そんなフロルを見て、ますます嬉しそうに笑う。
「君がここにいる間にも、あの偽女神は聖剣の騎士とお近づきになっていることだろうね」
男の声は甘く暗い。心の根っこの深い部分に入り込んでくるような気がして、フロルは嫌悪感で顔をしかめた。
「知ってるかい?あの偽女神は男を誘惑する手腕に長けているんだ。あの手この手で、聖剣の騎士を自分のものにしようと、画策しているさ」
フロルの胸がずきんと痛む。
魔王は見透かしたように、目を細めて薄く笑う。
「私には見える。今、偽女神は、聖剣の騎士を自分の部屋に呼んだ。酒を一緒に飲むように勧めているが、あの男は堅物だな。酒を辞退している姿が見えるよ・・・・けれども、あの女は香を焚いている。あれは── 媚薬が入っているな。ふふ、なかなかあの女は狡猾なようだ。楽しいねぇ」
違う。ギル様は、そんなことに惑わされる人じゃない。
「ふうん。あの女は、聖剣の騎士を寝台に引きずり込んで、既成事実を作るつもりらしいな。楽しいねぇ。堕落、誘惑、そんなものが神殿の中にはびこるのは」
魔王が、さっと片手を振ると、暗い湖の水面がまるで鏡のように変わった。そこには、とある部屋の中が映し出される。そこには、何故か、アンヌとギルがいた。
その場所は、きっと神殿だろう。とすれば、その部屋はアンヌの神殿の中のアンヌの居室だろうか。魔王は、見透かすように鼻で笑う。
「そう。君たちが、女神と崇め奉っている女の居城だ」
そこに、何故だか、ギル様が所在なさげに部屋の入り口に立っている様子が見える。
壮麗な部屋のテーブルの上には、酒を注ぐためのグラスが二つ。氷が入った銀の容器の中には、冷えた酒が準備されている。
その表情から察するに、どうもギル様は困っているらしい。そんな彼に、アンヌが何か言おうと近寄っているのが見える。
アンヌの細い腕が、ギルに絡む。
そんな彼女に、彼はとても弱り切った表情を見せる。彼が踵をかえして、部屋の扉から出ようとすると、アンヌが顔色を変えて彼の背中にかけよって、彼を引き留める。
「えっ?」
フロルの顔から血の気が失せた。
どうして? どうして、ギル様があんな所で、アンヌと一緒にいるのか? 夜はもうかなり更けているはずだ。そんな時間に、男女が二人きりで同じ部屋にいる。
疑惑が疑惑を呼び、フロルの胸に初めて彼に対する不信感が浮かぶ。今まで、一度だって、彼を疑ったことなどなかったのに。
どんな時も、どんな状況でも、一番の信頼と愛情を彼に寄せたいたのに。
「そうだ。あの女は、今夜こそ、聖剣の騎士をわが物にせんと心を固く決めたようだぞ」
魔王の嘲るような声すら耳に入らず、フロルは、ひたすら目の前の湖面を食い入るように見つめている。
驚いたように、ギルが振り返ると、その胸の中に、アンヌが真っ直ぐに飛び込んでいく。彼の胸の中に、アンヌが飛び込んでいくのが見える。ギルは戸惑ったように、その手をアンヌの肩に置いた。
「やだ・・・・どうして? どうしてなの?」
フロルは青ざめて小刻みに震えている。その目には涙が浮かんでいる。
そんな姿を魔王は楽し気に眺めていた。
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