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第一部 最終章
その者の正体は?
◇
「それで、フロルの部屋でなんらかの魔術干渉があったと」
翌日、ライルの執務室で、ギルとフロル、そして、ライルの三人で話し合いをしていた。ギルがライルに相談したいと、話を持ち掛けたのである。
「ああ、俺が見る限り、フロルの部屋の空間がとてつもなく歪んでいた。その向こうに何か見えたような気がするんだが・・・」
「で、肝心のフロルは、全く覚えていないのかい?何があったのかさ」
ライルが不思議そうに言えば、フロルも小首をかしげる。
「そうなんです。ライル様、なんだか酷い悪夢を見ていたような気がするんですけど、なんだかさっぱり訳がわからなくて」
「君の寝室を調べさせてみたが、魔力の残差は全く検出できなかった」
けれども、と、ライルも首をかしげて納得がいかない顔をする。
「リルがあれだけのスピードで窓から突っ込んでいったんだ。竜騎士曰く、竜がそんなことをする時は、自分の主がかなり危険な目にあっている時に限られるんだと言っていた。それに、リルは宿舎の窓を粉々に粉砕して、寝室に突っ込んでいたんだ。そんな大きな音がしたのなら、周囲の人間は必ず目が覚めるはずだよね」
けれども、リルが窓を壊した音を聞いた人間は一人もいなかった。全員がぐっすりと眠り込んでいたのである。
「俺もフロルの名前をかなり大声で叫んだが、誰も目覚めていない」
「不思議なこともあるもんだねぇ」
ライルは猫のように目を細めて、不機嫌な声を出す。自分が管轄する王宮内で、不自然な出来事が起きている。それも、嫌らしいことに、魔力干渉と来た。それなのに、何一つ、魔力の残差すら拾えないのだ。
そんなライルの顔を、フロルは初めてみたような気がした。ライルは辛辣な所があって、しょっちゅう、人を皮肉ったり、茶化したりするが、こんな渋い顔はみたことがない。
「とにかく、だ」
ライルは、初めてフロルの上司らしい顔を見せる。
「その魔術干渉がなんであれ、リルの行動をみれば、そいつの目的はフロルに違いない」
「やはり、黒幕がいると思うか?ライル」
「ああ、100%そう思うね。あの偽女神は、ギル、お前のことが好きなんだろう?」
ライルはアンヌのことを、女神としては絶対に認めてないという。女神どころか、魔力のかけらさえ持ってない女をどう崇めればいいんだと、魔道士達はアンヌに冷たい。ましてや、フロルに対する彼女のやり口を目の前で見ているのだ。
一連の事象は、もしかしたら、大神官の差し金かもしれないと、ライルは言う。あの偽女神なら、汚い手をつかいかねないと、ライルはいう。
「当分の間は、フロルはあの宿舎へは戻せないな」
今朝、フロルに求婚しようと思っていたのだが、時期を逃してしまったな、と、ギルは思う。しかし、それより、フロルの身の安全を優先させるべきだと、判断した。
「・・・しばらく、魔導師塔に寝泊まりするかい?フロル」
「いいんですか?魔導士塔に滞在できるのは、上級魔導師だけじゃないんですか?」
「まあ、基本はそうだが、たまには例外もあっていいんじゃないかと思うね」
そうして、フロルはしばらくは、魔導士塔へ居室を移すこととなった。
その後、三人は、その魔術干渉についてしばらく話をしていたのだが、フロルがふと、思い出したように声をあげた
「あ、明後日は確か・・・」
「なんだ、フロル。どうした?」
「弟のウィルが王宮に治療にやってくる日でした」
「ああ、弟さんか。治療は上手く進んでるんだっけ?」
ライルの問いに、フロルは嬉しそうに笑う。
「ええ、順調なんですよ! あと少しで声が出せそうだって、この前、宮廷医が言ってました」
「そうか。よかったな。・・・お前のご両親も王宮に来るのか?」
「ええ、そうですよ。ギル様」
「そうしたら・・・だな。少し、お前と一緒に夕食でも一緒に行くか」
フロルと真剣に結婚を考えていることを、フロルの両親にも話しておこうとギルは思う。身分の差を考えれば、そういうことは必要ないかもしれないが、やはり、きちんとした手順は踏んでおきたい。
そんなギルの考えもフロルは知らず、控え目な調子で口を開いた。
「・・・あのギル様、そんなお貴族様が平民とご飯だなんて、無理に気を使わなくても」
「いや、いいんだ。フロル。俺にとっても、君のご家族と少し話をしておきたいから。店は俺が押さえておくから、お前は気にするな。弟さんの様子も把握しておきたいしな」
「はい。じゃあ…お願いします」
フロルはおずおずと返事をする。その傍らでは、ライルは二人の会話を聞いていたが、全くの上の空だった。
魔力の残差が何一つ残っていないなんて、明らかにおかしいのだ。それができるのは、よほど力のないものか、逆に、よほどの魔力の遣い手の二択しかない。
魔力がないものが、空間や時空を捻じ曲げるなど到底不可能だ。
今、フロルに忍び寄っているものの得体が知れず、ライルの胸に嫌な予感が走る。
その者は尋常ではない魔力の持ち主かもしれない。だとしたら、それは誰なのだろう。この国で一番の能力者である自分を遥かにしのぐような存在だったら?
楽しそうに話している二人の傍で、ライルはひっそりと眉をひそめて、その正体に思いをはせた。
◇
「それで、フロルの部屋でなんらかの魔術干渉があったと」
翌日、ライルの執務室で、ギルとフロル、そして、ライルの三人で話し合いをしていた。ギルがライルに相談したいと、話を持ち掛けたのである。
「ああ、俺が見る限り、フロルの部屋の空間がとてつもなく歪んでいた。その向こうに何か見えたような気がするんだが・・・」
「で、肝心のフロルは、全く覚えていないのかい?何があったのかさ」
ライルが不思議そうに言えば、フロルも小首をかしげる。
「そうなんです。ライル様、なんだか酷い悪夢を見ていたような気がするんですけど、なんだかさっぱり訳がわからなくて」
「君の寝室を調べさせてみたが、魔力の残差は全く検出できなかった」
けれども、と、ライルも首をかしげて納得がいかない顔をする。
「リルがあれだけのスピードで窓から突っ込んでいったんだ。竜騎士曰く、竜がそんなことをする時は、自分の主がかなり危険な目にあっている時に限られるんだと言っていた。それに、リルは宿舎の窓を粉々に粉砕して、寝室に突っ込んでいたんだ。そんな大きな音がしたのなら、周囲の人間は必ず目が覚めるはずだよね」
けれども、リルが窓を壊した音を聞いた人間は一人もいなかった。全員がぐっすりと眠り込んでいたのである。
「俺もフロルの名前をかなり大声で叫んだが、誰も目覚めていない」
「不思議なこともあるもんだねぇ」
ライルは猫のように目を細めて、不機嫌な声を出す。自分が管轄する王宮内で、不自然な出来事が起きている。それも、嫌らしいことに、魔力干渉と来た。それなのに、何一つ、魔力の残差すら拾えないのだ。
そんなライルの顔を、フロルは初めてみたような気がした。ライルは辛辣な所があって、しょっちゅう、人を皮肉ったり、茶化したりするが、こんな渋い顔はみたことがない。
「とにかく、だ」
ライルは、初めてフロルの上司らしい顔を見せる。
「その魔術干渉がなんであれ、リルの行動をみれば、そいつの目的はフロルに違いない」
「やはり、黒幕がいると思うか?ライル」
「ああ、100%そう思うね。あの偽女神は、ギル、お前のことが好きなんだろう?」
ライルはアンヌのことを、女神としては絶対に認めてないという。女神どころか、魔力のかけらさえ持ってない女をどう崇めればいいんだと、魔道士達はアンヌに冷たい。ましてや、フロルに対する彼女のやり口を目の前で見ているのだ。
一連の事象は、もしかしたら、大神官の差し金かもしれないと、ライルは言う。あの偽女神なら、汚い手をつかいかねないと、ライルはいう。
「当分の間は、フロルはあの宿舎へは戻せないな」
今朝、フロルに求婚しようと思っていたのだが、時期を逃してしまったな、と、ギルは思う。しかし、それより、フロルの身の安全を優先させるべきだと、判断した。
「・・・しばらく、魔導師塔に寝泊まりするかい?フロル」
「いいんですか?魔導士塔に滞在できるのは、上級魔導師だけじゃないんですか?」
「まあ、基本はそうだが、たまには例外もあっていいんじゃないかと思うね」
そうして、フロルはしばらくは、魔導士塔へ居室を移すこととなった。
その後、三人は、その魔術干渉についてしばらく話をしていたのだが、フロルがふと、思い出したように声をあげた
「あ、明後日は確か・・・」
「なんだ、フロル。どうした?」
「弟のウィルが王宮に治療にやってくる日でした」
「ああ、弟さんか。治療は上手く進んでるんだっけ?」
ライルの問いに、フロルは嬉しそうに笑う。
「ええ、順調なんですよ! あと少しで声が出せそうだって、この前、宮廷医が言ってました」
「そうか。よかったな。・・・お前のご両親も王宮に来るのか?」
「ええ、そうですよ。ギル様」
「そうしたら・・・だな。少し、お前と一緒に夕食でも一緒に行くか」
フロルと真剣に結婚を考えていることを、フロルの両親にも話しておこうとギルは思う。身分の差を考えれば、そういうことは必要ないかもしれないが、やはり、きちんとした手順は踏んでおきたい。
そんなギルの考えもフロルは知らず、控え目な調子で口を開いた。
「・・・あのギル様、そんなお貴族様が平民とご飯だなんて、無理に気を使わなくても」
「いや、いいんだ。フロル。俺にとっても、君のご家族と少し話をしておきたいから。店は俺が押さえておくから、お前は気にするな。弟さんの様子も把握しておきたいしな」
「はい。じゃあ…お願いします」
フロルはおずおずと返事をする。その傍らでは、ライルは二人の会話を聞いていたが、全くの上の空だった。
魔力の残差が何一つ残っていないなんて、明らかにおかしいのだ。それができるのは、よほど力のないものか、逆に、よほどの魔力の遣い手の二択しかない。
魔力がないものが、空間や時空を捻じ曲げるなど到底不可能だ。
今、フロルに忍び寄っているものの得体が知れず、ライルの胸に嫌な予感が走る。
その者は尋常ではない魔力の持ち主かもしれない。だとしたら、それは誰なのだろう。この国で一番の能力者である自分を遥かにしのぐような存在だったら?
楽しそうに話している二人の傍で、ライルはひっそりと眉をひそめて、その正体に思いをはせた。
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