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第二部 フロルの神殿生活
出会い
かさり、とジェイドは落ち葉を踏みしめながら、森の小道を歩く。新鮮な空気を胸いっぱいに吸いこみ、遠くの景色を眺めていた。
秋も深まり、木々はすっかり葉を散らかして、小道には赤や黄色の落ち葉が広がっている。そして、その森の向こうには、うっすらと雪化粧した山々があった。
一歩踏み出すごとに、落ち葉がかさりと音を立てる。静かで気持ちのよい場所だ。
そろそろ、馬車に帰らなくては。
そう思って来た道を引き返したはずなのに、どこでどう道に迷ったのか。
「おかしいな。こっちでいいと思ったんだがな」
一人呟き、少し歩いてみたが、どこも同じに見えて、一向に森から出れる気配がない。
「いや、まさか。私に限って道に迷うなんてありえないのだが」
自分が信じられなくて、ジェイドはまた少し道を歩むが、逆に森の深い所にまで来てしまったようだ。先ほどの老人が、あれほど道に迷わないようにと忠告してくれたことを思い出す。
あたりを見回しても、人っ子一人見当たらない。早く出発しないと、森の途中で立ち往生することになる。森の中には魔獣が出る。森の中で夜を迎えることは絶対に避けなければならないのだ。
それなのに、森から出る道がわからない。
ジェイドは、困り果てて、思わず空を見上げた。
その時、彼の目に空の上に何かが動くのがうつる。よくよく目を凝らしてみると、それは、どうも竜のようだ。
竜騎士だろうか?
その竜は青い鱗をしており、珍しい氷竜と言う種類だと思い出した。
竜騎士が乗っている竜とは少し違うような気がしたものの、もしかしたら、こちらに気が付いてくれるかもしれない。一瞬、大声を出すのをためらったが、今は、誰かの助けが必要なのだ。
ジェイドは、空を飛んでいる竜に向かって、大声を張り上げた。
「おーい、すまないが、助けてくれ」
その瞬間、竜がちらりと地表に視線を向けたのが見えた。こっちの声が届いているのだろう。そう判断した男は、もっと大きな声を出して、竜を呼んだ。
「こっちだ。こっち」
竜の上に誰かが乗っているのが、ちらりと見える。その人物が竜に何かを命令したのだろう。
竜は空の上で大きく旋回を始めた。きっと、自分を見つけようとしてくれているのだ。
ジェイドはほっとしながら、少し視界が開けた場所に移動して、地上から大きく手を振る。
竜は上空を数回、旋回したが、ついに、自分を見つけたようだ。そのまま、地表へと竜が舞い降りてきた。
着陸しながら、竜の羽ばたきで起こる強い風と砂ぼこりを避けるように、ジェイドは腕で顔を覆う。そして、竜からひらりと飛び降りてきた人物が目に入った瞬間、ジェイドは、わが目を疑った。
ジェイドの目に入ったのは、いかつい竜騎士ではなく、まだうら若い乙女だったからだ。
ほっそりとした顔に、新緑を思わせるような緑色の瞳。腰に届きそうな長い髪を後ろで一つに三つ編みにしていた。
その姿を見た時、ジェイドは、彼女が森の妖精なのかと思ったくらいだ。
「あの・・・どうかなされましたか?」
うっかり、その娘に見惚れてしまったが、男ははっと我に返る。
「ああ、その、恥ずかしい話なんだが、うっかり道に迷ってしまって・・・」
よく見るとその娘は、白魔導師の制服を着ていた。自分が今、向かっているカルナード王国のものだと、ジェイドはすぐに気が付いた。
そんな男に、目の前の娘は、ああ、と納得したように頷く。
「この森、よく迷いやすいんですよね。どういう訳か」
「それで、出口を教えてもらえると嬉しいんだが・・・」
自分は大神殿の副大神官なのに、今の状態が少し恥ずかしくて、ジェイドはためらいがちに口を開く。
「ああ、ここから迷わずに戻るのは少し難しいかもしれませんね」
その娘は、ふうむ・・・と腕を組みながら考えていると、その後ろの竜が鼻先で、ちょんっと娘のお尻をつついた。
「ああ、もう、リルっ。今、考え事してるんだが、邪魔しない・・・で」
娘はそう言った所で、ぽんっと手をうった。
「あ、そうか。リルで送ってさしあげます」
「リルとは、この竜のことか?」
「ええ、そうですよ。最近、人を乗せることも覚えたので、大丈夫だと思います」
ジェイドはもちろん今まで竜に乗ったことはない。ジェイドの国では、竜は女神の遣いであり、神聖な生き物だからだ。神官でありながら、竜に乗るのはどうかとも思ったが、きっと女神様の「はからい」なのだと考えることにした。
「そうか。すまないがお願いしてもいいだろうか」
「もちろんですとも」
ニコニコと笑う娘が竜に乗って手招きする。ジェイドが乗りやすいように、竜も背を低くしてくれた。
それを見て、娘は少し目を丸くした。
「リルは、こんな風に人に親切になるのは珍しいんですよ」
「そうなのか?」
「ええ、私には懐いているんですけど」
と、娘が言うには、リルという竜が懐いているのは、魔道師長と、数人の騎士のみ、後は飼育係の少年くらいだという。
「後は、エスペランサかな・・・」
エスペランサと言う人物が誰か知らなかったが、よほど竜の扱いにたけた人物なのだろうと、ジェイドは推測した。
「じゃあ、飛びますから、しっかりつかまっていてくださいね」
「きゅう!」
竜は一声鳴くと、ぐんぐんと大空に向かって登っていく。広い空を自由に飛ぶ竜の上から、ジェイドは周囲の光景に目を見開く。
足元には森が広がり、どこまでも続く先にある地平線。見たこともない光景が、そこには広がっていた。
竜に乗るということは、こういうことなのかとジェイドはひたすら感心した。
そして、数分後、すぐにジェイドは自分の馬車を止めてある所に到着した。
「助かったよ。どうもありがとう」
礼を言うジェイドに、娘は首を横にふる。
「いいんです。気にしないでください」
そして、娘はちらりと太陽に目をむけた。
「早く帰らないと日が暮れます。この森は夜になると危ないんですよ」
私も魔獣に襲われそうになったんですよ、と娘は笑いながら言う。
「そうか」
言葉を短く返しながら、ジェイドは旅程について考えていた。思わぬ所で道に迷い、余計な時間をくってしまった。これから出発しても、森の途中で夜をむかえそうだ。
そんなジェイドの考えを読み取ったのだろうか。その娘は、また助け船を出してくれた。
「カルナードに向かっているんですか?」
「ああ、そうだ。だが、このままだと途中で夜を迎えそうだと思っているんだが、わかってしまったか?」
ちょっと冗談めかしていうと、思いがけない言葉が返ってきた。
「この街道を真っ直ぐ行って、森を抜けた所に、ダーマ亭という宿屋があります。多分、今頃なら部屋は開いている思うので、そこで夜を過ごすのが一番いいと思いますよ」
「大丈夫だろうか。予約がいっぱいになってないか?」
「多分、大丈夫だと思います。もし予約でいっぱいだったら、フロルの紹介で、と言ってくれれば泊まれると思いますよ」
「そうか。ありがとう」
おそらく、その娘は宿屋の関係者だろうか。いずれにせよ、森の中で道に迷い、泊まる所がなくて路頭に迷う所でも助けてくれたのだ。
二重に恩を感じて、ジェイドは娘に言う。
「お嬢さん、いや、白魔導師どのと言うべきかな。いずれにせよ、この恩は忘れない。ありがとう」
娘は軽く首を横にふった。
「いいんですよ。困った時はお互い様です」
そういうと娘はひらりと竜に飛び乗り、さっと空へと昇っていった。
ジェイドはその後ろ姿を見送ってから、そうそうに自分の馬車に戻る。
「旦那様、お戻りが遅いのでどうしたのか心配していましただ」
御者が駆け寄ってきたので、ジェイドは愛想よく口を開く。
「いや、少し道に迷っただけだ」
「それで、あの竜に送ってもらったと?いや、竜騎士なのに親切ですね」
御者曰く、竜騎士はプライドが高く、冷たいのだそうだ。あんな風に人を助けるのは珍しいという。
竜に乗っていたのは白魔導師の女性だったんだが、と、ジェイドは思ったが、あえて口をつぐんでいた。
「さあ、遅くなったな。森の途中で一泊することにしたよ。この街道を進むと、ダーマ亭という宿屋があるらしい」
「ああ、あそこですね」
「知っているのか?」
「ええ、カルナードの騎士達がよく泊まっている場所です。旦那様」
「そうか」
御者の泊まる部屋もあるだろうか。それも彼女に聞いておけばよかったなと、ジェイドは、思う。
そして、その夜、ジェイドと御者の二人とも無事にダーマ亭に泊まることが出来たのである。
◇
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そろそろ、馬車に帰らなくては。
そう思って来た道を引き返したはずなのに、どこでどう道に迷ったのか。
「おかしいな。こっちでいいと思ったんだがな」
一人呟き、少し歩いてみたが、どこも同じに見えて、一向に森から出れる気配がない。
「いや、まさか。私に限って道に迷うなんてありえないのだが」
自分が信じられなくて、ジェイドはまた少し道を歩むが、逆に森の深い所にまで来てしまったようだ。先ほどの老人が、あれほど道に迷わないようにと忠告してくれたことを思い出す。
あたりを見回しても、人っ子一人見当たらない。早く出発しないと、森の途中で立ち往生することになる。森の中には魔獣が出る。森の中で夜を迎えることは絶対に避けなければならないのだ。
それなのに、森から出る道がわからない。
ジェイドは、困り果てて、思わず空を見上げた。
その時、彼の目に空の上に何かが動くのがうつる。よくよく目を凝らしてみると、それは、どうも竜のようだ。
竜騎士だろうか?
その竜は青い鱗をしており、珍しい氷竜と言う種類だと思い出した。
竜騎士が乗っている竜とは少し違うような気がしたものの、もしかしたら、こちらに気が付いてくれるかもしれない。一瞬、大声を出すのをためらったが、今は、誰かの助けが必要なのだ。
ジェイドは、空を飛んでいる竜に向かって、大声を張り上げた。
「おーい、すまないが、助けてくれ」
その瞬間、竜がちらりと地表に視線を向けたのが見えた。こっちの声が届いているのだろう。そう判断した男は、もっと大きな声を出して、竜を呼んだ。
「こっちだ。こっち」
竜の上に誰かが乗っているのが、ちらりと見える。その人物が竜に何かを命令したのだろう。
竜は空の上で大きく旋回を始めた。きっと、自分を見つけようとしてくれているのだ。
ジェイドはほっとしながら、少し視界が開けた場所に移動して、地上から大きく手を振る。
竜は上空を数回、旋回したが、ついに、自分を見つけたようだ。そのまま、地表へと竜が舞い降りてきた。
着陸しながら、竜の羽ばたきで起こる強い風と砂ぼこりを避けるように、ジェイドは腕で顔を覆う。そして、竜からひらりと飛び降りてきた人物が目に入った瞬間、ジェイドは、わが目を疑った。
ジェイドの目に入ったのは、いかつい竜騎士ではなく、まだうら若い乙女だったからだ。
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「ああ、その、恥ずかしい話なんだが、うっかり道に迷ってしまって・・・」
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そんな男に、目の前の娘は、ああ、と納得したように頷く。
「この森、よく迷いやすいんですよね。どういう訳か」
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自分は大神殿の副大神官なのに、今の状態が少し恥ずかしくて、ジェイドはためらいがちに口を開く。
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その娘は、ふうむ・・・と腕を組みながら考えていると、その後ろの竜が鼻先で、ちょんっと娘のお尻をつついた。
「ああ、もう、リルっ。今、考え事してるんだが、邪魔しない・・・で」
娘はそう言った所で、ぽんっと手をうった。
「あ、そうか。リルで送ってさしあげます」
「リルとは、この竜のことか?」
「ええ、そうですよ。最近、人を乗せることも覚えたので、大丈夫だと思います」
ジェイドはもちろん今まで竜に乗ったことはない。ジェイドの国では、竜は女神の遣いであり、神聖な生き物だからだ。神官でありながら、竜に乗るのはどうかとも思ったが、きっと女神様の「はからい」なのだと考えることにした。
「そうか。すまないがお願いしてもいいだろうか」
「もちろんですとも」
ニコニコと笑う娘が竜に乗って手招きする。ジェイドが乗りやすいように、竜も背を低くしてくれた。
それを見て、娘は少し目を丸くした。
「リルは、こんな風に人に親切になるのは珍しいんですよ」
「そうなのか?」
「ええ、私には懐いているんですけど」
と、娘が言うには、リルという竜が懐いているのは、魔道師長と、数人の騎士のみ、後は飼育係の少年くらいだという。
「後は、エスペランサかな・・・」
エスペランサと言う人物が誰か知らなかったが、よほど竜の扱いにたけた人物なのだろうと、ジェイドは推測した。
「じゃあ、飛びますから、しっかりつかまっていてくださいね」
「きゅう!」
竜は一声鳴くと、ぐんぐんと大空に向かって登っていく。広い空を自由に飛ぶ竜の上から、ジェイドは周囲の光景に目を見開く。
足元には森が広がり、どこまでも続く先にある地平線。見たこともない光景が、そこには広がっていた。
竜に乗るということは、こういうことなのかとジェイドはひたすら感心した。
そして、数分後、すぐにジェイドは自分の馬車を止めてある所に到着した。
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「いいんです。気にしないでください」
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「早く帰らないと日が暮れます。この森は夜になると危ないんですよ」
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「さあ、遅くなったな。森の途中で一泊することにしたよ。この街道を進むと、ダーマ亭という宿屋があるらしい」
「ああ、あそこですね」
「知っているのか?」
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「そうか」
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