文字サイズ
小
中
大
特大
99 / 127
第二部 フロルの神殿生活
出会い
かさり、とジェイドは落ち葉を踏みしめながら、森の小道を歩く。新鮮な空気を胸いっぱいに吸いこみ、遠くの景色を眺めていた。
秋も深まり、木々はすっかり葉を散らかして、小道には赤や黄色の落ち葉が広がっている。そして、その森の向こうには、うっすらと雪化粧した山々があった。
一歩踏み出すごとに、落ち葉がかさりと音を立てる。静かで気持ちのよい場所だ。
そろそろ、馬車に帰らなくては。
そう思って来た道を引き返したはずなのに、どこでどう道に迷ったのか。
「おかしいな。こっちでいいと思ったんだがな」
一人呟き、少し歩いてみたが、どこも同じに見えて、一向に森から出れる気配がない。
「いや、まさか。私に限って道に迷うなんてありえないのだが」
自分が信じられなくて、ジェイドはまた少し道を歩むが、逆に森の深い所にまで来てしまったようだ。先ほどの老人が、あれほど道に迷わないようにと忠告してくれたことを思い出す。
あたりを見回しても、人っ子一人見当たらない。早く出発しないと、森の途中で立ち往生することになる。森の中には魔獣が出る。森の中で夜を迎えることは絶対に避けなければならないのだ。
それなのに、森から出る道がわからない。
ジェイドは、困り果てて、思わず空を見上げた。
その時、彼の目に空の上に何かが動くのがうつる。よくよく目を凝らしてみると、それは、どうも竜のようだ。
竜騎士だろうか?
その竜は青い鱗をしており、珍しい氷竜と言う種類だと思い出した。
竜騎士が乗っている竜とは少し違うような気がしたものの、もしかしたら、こちらに気が付いてくれるかもしれない。一瞬、大声を出すのをためらったが、今は、誰かの助けが必要なのだ。
ジェイドは、空を飛んでいる竜に向かって、大声を張り上げた。
「おーい、すまないが、助けてくれ」
その瞬間、竜がちらりと地表に視線を向けたのが見えた。こっちの声が届いているのだろう。そう判断した男は、もっと大きな声を出して、竜を呼んだ。
「こっちだ。こっち」
竜の上に誰かが乗っているのが、ちらりと見える。その人物が竜に何かを命令したのだろう。
竜は空の上で大きく旋回を始めた。きっと、自分を見つけようとしてくれているのだ。
ジェイドはほっとしながら、少し視界が開けた場所に移動して、地上から大きく手を振る。
竜は上空を数回、旋回したが、ついに、自分を見つけたようだ。そのまま、地表へと竜が舞い降りてきた。
着陸しながら、竜の羽ばたきで起こる強い風と砂ぼこりを避けるように、ジェイドは腕で顔を覆う。そして、竜からひらりと飛び降りてきた人物が目に入った瞬間、ジェイドは、わが目を疑った。
ジェイドの目に入ったのは、いかつい竜騎士ではなく、まだうら若い乙女だったからだ。
ほっそりとした顔に、新緑を思わせるような緑色の瞳。腰に届きそうな長い髪を後ろで一つに三つ編みにしていた。
その姿を見た時、ジェイドは、彼女が森の妖精なのかと思ったくらいだ。
「あの・・・どうかなされましたか?」
うっかり、その娘に見惚れてしまったが、男ははっと我に返る。
「ああ、その、恥ずかしい話なんだが、うっかり道に迷ってしまって・・・」
よく見るとその娘は、白魔導師の制服を着ていた。自分が今、向かっているカルナード王国のものだと、ジェイドはすぐに気が付いた。
そんな男に、目の前の娘は、ああ、と納得したように頷く。
「この森、よく迷いやすいんですよね。どういう訳か」
「それで、出口を教えてもらえると嬉しいんだが・・・」
自分は大神殿の副大神官なのに、今の状態が少し恥ずかしくて、ジェイドはためらいがちに口を開く。
「ああ、ここから迷わずに戻るのは少し難しいかもしれませんね」
その娘は、ふうむ・・・と腕を組みながら考えていると、その後ろの竜が鼻先で、ちょんっと娘のお尻をつついた。
「ああ、もう、リルっ。今、考え事してるんだが、邪魔しない・・・で」
娘はそう言った所で、ぽんっと手をうった。
「あ、そうか。リルで送ってさしあげます」
「リルとは、この竜のことか?」
「ええ、そうですよ。最近、人を乗せることも覚えたので、大丈夫だと思います」
ジェイドはもちろん今まで竜に乗ったことはない。ジェイドの国では、竜は女神の遣いであり、神聖な生き物だからだ。神官でありながら、竜に乗るのはどうかとも思ったが、きっと女神様の「はからい」なのだと考えることにした。
「そうか。すまないがお願いしてもいいだろうか」
「もちろんですとも」
ニコニコと笑う娘が竜に乗って手招きする。ジェイドが乗りやすいように、竜も背を低くしてくれた。
それを見て、娘は少し目を丸くした。
「リルは、こんな風に人に親切になるのは珍しいんですよ」
「そうなのか?」
「ええ、私には懐いているんですけど」
と、娘が言うには、リルという竜が懐いているのは、魔道師長と、数人の騎士のみ、後は飼育係の少年くらいだという。
「後は、エスペランサかな・・・」
エスペランサと言う人物が誰か知らなかったが、よほど竜の扱いにたけた人物なのだろうと、ジェイドは推測した。
「じゃあ、飛びますから、しっかりつかまっていてくださいね」
「きゅう!」
竜は一声鳴くと、ぐんぐんと大空に向かって登っていく。広い空を自由に飛ぶ竜の上から、ジェイドは周囲の光景に目を見開く。
足元には森が広がり、どこまでも続く先にある地平線。見たこともない光景が、そこには広がっていた。
竜に乗るということは、こういうことなのかとジェイドはひたすら感心した。
そして、数分後、すぐにジェイドは自分の馬車を止めてある所に到着した。
「助かったよ。どうもありがとう」
礼を言うジェイドに、娘は首を横にふる。
「いいんです。気にしないでください」
そして、娘はちらりと太陽に目をむけた。
「早く帰らないと日が暮れます。この森は夜になると危ないんですよ」
私も魔獣に襲われそうになったんですよ、と娘は笑いながら言う。
「そうか」
言葉を短く返しながら、ジェイドは旅程について考えていた。思わぬ所で道に迷い、余計な時間をくってしまった。これから出発しても、森の途中で夜をむかえそうだ。
そんなジェイドの考えを読み取ったのだろうか。その娘は、また助け船を出してくれた。
「カルナードに向かっているんですか?」
「ああ、そうだ。だが、このままだと途中で夜を迎えそうだと思っているんだが、わかってしまったか?」
ちょっと冗談めかしていうと、思いがけない言葉が返ってきた。
「この街道を真っ直ぐ行って、森を抜けた所に、ダーマ亭という宿屋があります。多分、今頃なら部屋は開いている思うので、そこで夜を過ごすのが一番いいと思いますよ」
「大丈夫だろうか。予約がいっぱいになってないか?」
「多分、大丈夫だと思います。もし予約でいっぱいだったら、フロルの紹介で、と言ってくれれば泊まれると思いますよ」
「そうか。ありがとう」
おそらく、その娘は宿屋の関係者だろうか。いずれにせよ、森の中で道に迷い、泊まる所がなくて路頭に迷う所でも助けてくれたのだ。
二重に恩を感じて、ジェイドは娘に言う。
「お嬢さん、いや、白魔導師どのと言うべきかな。いずれにせよ、この恩は忘れない。ありがとう」
娘は軽く首を横にふった。
「いいんですよ。困った時はお互い様です」
そういうと娘はひらりと竜に飛び乗り、さっと空へと昇っていった。
ジェイドはその後ろ姿を見送ってから、そうそうに自分の馬車に戻る。
「旦那様、お戻りが遅いのでどうしたのか心配していましただ」
御者が駆け寄ってきたので、ジェイドは愛想よく口を開く。
「いや、少し道に迷っただけだ」
「それで、あの竜に送ってもらったと?いや、竜騎士なのに親切ですね」
御者曰く、竜騎士はプライドが高く、冷たいのだそうだ。あんな風に人を助けるのは珍しいという。
竜に乗っていたのは白魔導師の女性だったんだが、と、ジェイドは思ったが、あえて口をつぐんでいた。
「さあ、遅くなったな。森の途中で一泊することにしたよ。この街道を進むと、ダーマ亭という宿屋があるらしい」
「ああ、あそこですね」
「知っているのか?」
「ええ、カルナードの騎士達がよく泊まっている場所です。旦那様」
「そうか」
御者の泊まる部屋もあるだろうか。それも彼女に聞いておけばよかったなと、ジェイドは、思う。
そして、その夜、ジェイドと御者の二人とも無事にダーマ亭に泊まることが出来たのである。
◇
野良竜、好評発売中です!
秋も深まり、木々はすっかり葉を散らかして、小道には赤や黄色の落ち葉が広がっている。そして、その森の向こうには、うっすらと雪化粧した山々があった。
一歩踏み出すごとに、落ち葉がかさりと音を立てる。静かで気持ちのよい場所だ。
そろそろ、馬車に帰らなくては。
そう思って来た道を引き返したはずなのに、どこでどう道に迷ったのか。
「おかしいな。こっちでいいと思ったんだがな」
一人呟き、少し歩いてみたが、どこも同じに見えて、一向に森から出れる気配がない。
「いや、まさか。私に限って道に迷うなんてありえないのだが」
自分が信じられなくて、ジェイドはまた少し道を歩むが、逆に森の深い所にまで来てしまったようだ。先ほどの老人が、あれほど道に迷わないようにと忠告してくれたことを思い出す。
あたりを見回しても、人っ子一人見当たらない。早く出発しないと、森の途中で立ち往生することになる。森の中には魔獣が出る。森の中で夜を迎えることは絶対に避けなければならないのだ。
それなのに、森から出る道がわからない。
ジェイドは、困り果てて、思わず空を見上げた。
その時、彼の目に空の上に何かが動くのがうつる。よくよく目を凝らしてみると、それは、どうも竜のようだ。
竜騎士だろうか?
その竜は青い鱗をしており、珍しい氷竜と言う種類だと思い出した。
竜騎士が乗っている竜とは少し違うような気がしたものの、もしかしたら、こちらに気が付いてくれるかもしれない。一瞬、大声を出すのをためらったが、今は、誰かの助けが必要なのだ。
ジェイドは、空を飛んでいる竜に向かって、大声を張り上げた。
「おーい、すまないが、助けてくれ」
その瞬間、竜がちらりと地表に視線を向けたのが見えた。こっちの声が届いているのだろう。そう判断した男は、もっと大きな声を出して、竜を呼んだ。
「こっちだ。こっち」
竜の上に誰かが乗っているのが、ちらりと見える。その人物が竜に何かを命令したのだろう。
竜は空の上で大きく旋回を始めた。きっと、自分を見つけようとしてくれているのだ。
ジェイドはほっとしながら、少し視界が開けた場所に移動して、地上から大きく手を振る。
竜は上空を数回、旋回したが、ついに、自分を見つけたようだ。そのまま、地表へと竜が舞い降りてきた。
着陸しながら、竜の羽ばたきで起こる強い風と砂ぼこりを避けるように、ジェイドは腕で顔を覆う。そして、竜からひらりと飛び降りてきた人物が目に入った瞬間、ジェイドは、わが目を疑った。
ジェイドの目に入ったのは、いかつい竜騎士ではなく、まだうら若い乙女だったからだ。
ほっそりとした顔に、新緑を思わせるような緑色の瞳。腰に届きそうな長い髪を後ろで一つに三つ編みにしていた。
その姿を見た時、ジェイドは、彼女が森の妖精なのかと思ったくらいだ。
「あの・・・どうかなされましたか?」
うっかり、その娘に見惚れてしまったが、男ははっと我に返る。
「ああ、その、恥ずかしい話なんだが、うっかり道に迷ってしまって・・・」
よく見るとその娘は、白魔導師の制服を着ていた。自分が今、向かっているカルナード王国のものだと、ジェイドはすぐに気が付いた。
そんな男に、目の前の娘は、ああ、と納得したように頷く。
「この森、よく迷いやすいんですよね。どういう訳か」
「それで、出口を教えてもらえると嬉しいんだが・・・」
自分は大神殿の副大神官なのに、今の状態が少し恥ずかしくて、ジェイドはためらいがちに口を開く。
「ああ、ここから迷わずに戻るのは少し難しいかもしれませんね」
その娘は、ふうむ・・・と腕を組みながら考えていると、その後ろの竜が鼻先で、ちょんっと娘のお尻をつついた。
「ああ、もう、リルっ。今、考え事してるんだが、邪魔しない・・・で」
娘はそう言った所で、ぽんっと手をうった。
「あ、そうか。リルで送ってさしあげます」
「リルとは、この竜のことか?」
「ええ、そうですよ。最近、人を乗せることも覚えたので、大丈夫だと思います」
ジェイドはもちろん今まで竜に乗ったことはない。ジェイドの国では、竜は女神の遣いであり、神聖な生き物だからだ。神官でありながら、竜に乗るのはどうかとも思ったが、きっと女神様の「はからい」なのだと考えることにした。
「そうか。すまないがお願いしてもいいだろうか」
「もちろんですとも」
ニコニコと笑う娘が竜に乗って手招きする。ジェイドが乗りやすいように、竜も背を低くしてくれた。
それを見て、娘は少し目を丸くした。
「リルは、こんな風に人に親切になるのは珍しいんですよ」
「そうなのか?」
「ええ、私には懐いているんですけど」
と、娘が言うには、リルという竜が懐いているのは、魔道師長と、数人の騎士のみ、後は飼育係の少年くらいだという。
「後は、エスペランサかな・・・」
エスペランサと言う人物が誰か知らなかったが、よほど竜の扱いにたけた人物なのだろうと、ジェイドは推測した。
「じゃあ、飛びますから、しっかりつかまっていてくださいね」
「きゅう!」
竜は一声鳴くと、ぐんぐんと大空に向かって登っていく。広い空を自由に飛ぶ竜の上から、ジェイドは周囲の光景に目を見開く。
足元には森が広がり、どこまでも続く先にある地平線。見たこともない光景が、そこには広がっていた。
竜に乗るということは、こういうことなのかとジェイドはひたすら感心した。
そして、数分後、すぐにジェイドは自分の馬車を止めてある所に到着した。
「助かったよ。どうもありがとう」
礼を言うジェイドに、娘は首を横にふる。
「いいんです。気にしないでください」
そして、娘はちらりと太陽に目をむけた。
「早く帰らないと日が暮れます。この森は夜になると危ないんですよ」
私も魔獣に襲われそうになったんですよ、と娘は笑いながら言う。
「そうか」
言葉を短く返しながら、ジェイドは旅程について考えていた。思わぬ所で道に迷い、余計な時間をくってしまった。これから出発しても、森の途中で夜をむかえそうだ。
そんなジェイドの考えを読み取ったのだろうか。その娘は、また助け船を出してくれた。
「カルナードに向かっているんですか?」
「ああ、そうだ。だが、このままだと途中で夜を迎えそうだと思っているんだが、わかってしまったか?」
ちょっと冗談めかしていうと、思いがけない言葉が返ってきた。
「この街道を真っ直ぐ行って、森を抜けた所に、ダーマ亭という宿屋があります。多分、今頃なら部屋は開いている思うので、そこで夜を過ごすのが一番いいと思いますよ」
「大丈夫だろうか。予約がいっぱいになってないか?」
「多分、大丈夫だと思います。もし予約でいっぱいだったら、フロルの紹介で、と言ってくれれば泊まれると思いますよ」
「そうか。ありがとう」
おそらく、その娘は宿屋の関係者だろうか。いずれにせよ、森の中で道に迷い、泊まる所がなくて路頭に迷う所でも助けてくれたのだ。
二重に恩を感じて、ジェイドは娘に言う。
「お嬢さん、いや、白魔導師どのと言うべきかな。いずれにせよ、この恩は忘れない。ありがとう」
娘は軽く首を横にふった。
「いいんですよ。困った時はお互い様です」
そういうと娘はひらりと竜に飛び乗り、さっと空へと昇っていった。
ジェイドはその後ろ姿を見送ってから、そうそうに自分の馬車に戻る。
「旦那様、お戻りが遅いのでどうしたのか心配していましただ」
御者が駆け寄ってきたので、ジェイドは愛想よく口を開く。
「いや、少し道に迷っただけだ」
「それで、あの竜に送ってもらったと?いや、竜騎士なのに親切ですね」
御者曰く、竜騎士はプライドが高く、冷たいのだそうだ。あんな風に人を助けるのは珍しいという。
竜に乗っていたのは白魔導師の女性だったんだが、と、ジェイドは思ったが、あえて口をつぐんでいた。
「さあ、遅くなったな。森の途中で一泊することにしたよ。この街道を進むと、ダーマ亭という宿屋があるらしい」
「ああ、あそこですね」
「知っているのか?」
「ええ、カルナードの騎士達がよく泊まっている場所です。旦那様」
「そうか」
御者の泊まる部屋もあるだろうか。それも彼女に聞いておけばよかったなと、ジェイドは、思う。
そして、その夜、ジェイドと御者の二人とも無事にダーマ亭に泊まることが出来たのである。
◇
野良竜、好評発売中です!
感想 959
あなたにおすすめの小説
一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。
ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。
遠い存在になったはずの彼。
けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。
冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。
初夜のあとに愛する人がいると言われたので祝福で身体の時間を一日戻しました
夫婦となって初めて迎えた夜、セレンティアは夫リオールから「俺には、愛する人がいる」と告げられる。
彼が初夜を済ませた理由は、三年後に白い結婚として婚姻無効を申し立てられないようにするためだった。
けれどリオールは知らなかった。セレンティアの祝福《一日回帰》が、自分自身の身体にも使えることを。
セレンティアは自分の身体の時間を一日前へ戻し、三年間、侯爵家の妻として務めを果たすことを決める。
夫に愛されるためではない。三年後、白い結婚としてこの家を出ていくために。
【完結】私の出産日に初恋の人を選んだ夫、あなたを彼女に返品します
「子供っぽい嫉妬はやめろ」私が命懸けで出産した日、夫のヴィンセント侯爵は初恋の人の所へ行ってしまった。理由を説明して欲しいと言うと、子供っぽい嫉妬をやめろと厳しい声で言われてしまう。しかも初恋の相手がいきなりやってきて「侯爵様は昔から私を命懸けで助けてくれるんです」と悪びれもせずに言い放った。妻よりも初恋相手を優先する夫は必要ないので私は夫を初恋相手へ返品した。すると生まれてから一度も人に頭を下げたことのないヴィンセントが、ボロボロになって私に頭を下げてきて⋯⋯。
病弱な旦那さまの身代わりに嫁ぎましたが、治してしまいましたわ
「余命ひと月」と噂される公爵ジョフロワの「縁起直し」として、伯爵家の三女ロザリーは、実家から厄介払いのように嫁がされる。姉たちは「三女は薬草園育ちの田舎者。ちょうどいいわ」と笑う。
ロザリーは言い返さない。ただ、公爵の屋敷に入って三日で、気づく。公爵の病は、毒ではなく、屋敷じゅうに焚かれている「香」だと。
「余命ひと月? では、ひと月、お世話させていただきますわ」
香を止め、窓を開け、薬草園育ちの手で、朝の粥を煮る。公爵は、ひと月で、目を覚ます。「あなたが来て、初めて朝の匂いがした」。
実家は「病弱な三女を、縁起直しに嫁がせた」と嘘の届けを出していた。回復した公爵の妻となった娘を、慌てて取り戻そうとするが、公爵がその届けを王の使者に見せるだけで、実家は自分の嘘で面目を失う。
香を焚いていた執事は「公爵を早く逝かせて、跡目を」と白状し、公爵は追放ではなく、辺境の薬草園で働かせる。
疎まれた長所が、正しく愛される場所で花開く。縁起直しの嫁入り×薬草×自己肯定の令嬢ファンタジー、全8話。
飛べないと捨てられたので、竜ごと出て行きます
「お前は竜に乗れもしない、ただの妻だろう」
竜騎士団長の夫はそう言って、飛べる従騎士の娘を選びましたわ。
ええ、わたくしは飛べません。十二年、地上におりました。
夜明け前に三十一頭の寝息を数え、歯を磨き、爪の砂を取り、冬に毛布を掛け、契約を編んで。——この国でただひとりの「調律者」として。
竜は、人を乗せない生き物ですのよ。竜自身が「乗せてもいい」と決めない限り。そして竜が誰の言葉で頷いてきたか、あの方は十二年、一度もお考えにならなかった。
離縁されて、わたくしは竜舎を出ました。
三日後から、竜は一頭も飛ばなくなりましたの。
怒っているのではありませんのよ。竜は報復をしませんもの。ただ——寂しいのです。
そして来月は、三年に一度の、契約更新日ですわ。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
推しの旦那様に心の声が筒抜けでした!?〜バレた瞬間、毎回キスで黙らされます〜
推しに似ているという理由で政略結婚した相手は、冷酷と噂の公爵様。
――のはずが。
(無理、顔が良すぎるんだけど!?尊い!!)
心の声が、なぜか全部本人に聞こえていた。
必死に取り繕うも時すでに遅し。
暴走する脳内実況を止めるたび、旦那様はなぜか――キスしてくる。
「黙らせるのにちょうどいい」
いや全然よくないです!!むしろ悪化してます!!
無表情公爵様 × 心の声だだ漏れ令嬢
甘くて騒がしい新婚生活、開幕。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。