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第二部 フロルの神殿生活

リルが子供になった?!~3

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「珍しいこともあるもんだねぇ」

ダーマ亭の一角。ドレイクがリルの姿を確認して、王宮に戻ってほどなく、ダーマ亭は再び来客を迎えることになった。

「……別にわざわざお越しいただかなくてもよろしかったのでは?」

無茶苦茶、機嫌の悪いライルがむっつりして嫌味半分な調子で口を開く。もちろん、その相手は、頼まれもしていないのにわざわざダーマ亭まで出向いてきた予期せぬ来客に対してである。

「ドレイク殿から、神の力らしきものによって竜が子供になったと聞いてね」

神事であれば、大神官であるこの私が確認しない訳にもいかないだろう、ともっともらしいことを言う姿とは裏腹に、ここに来たかったのだと言わんばかりに目をキラキラさせているのは、大神官ジェイド・パーセル卿である。

ジェイド曰く、その話を聞いて、いてもたってもいられずに、竜騎士に頼み込んでこちらに連れてきてもらったのだと言う。

「……ドレイクはお喋りな奴じゃなかったと思ったんだけどな」

余計なことを、とライルは忌々し気に言う。

ジェイドはにやっと笑って、ライルを見つめる。

「ドレイク卿を責めないでもらいたいな。ノワール魔道師長殿。ドレイクが書いた報告書を殿下が見せてくれたんだ。神殿の催事に係わりがあるかもしれないってね」

それで、詳細を聞くために、わざわざドレイクに会ったとジェイドは言う。

「あのくそ殿下め。余計なことを」

ライルの切れ長のきれいな目が忌々し気に細められる。そんな二人の間を取り繕うように、フロルは少し慌てぎみに間に入った。

「パーセル様、とりあえず、お茶でも……」

フロルが差し出した茶碗を、ジェイドは優雅な仕草で受け取った。彼の体に流れる高貴な血は、所作まで洗練されたものにしてしまうのだ。

「女神さ、いや、フロル。ありがとう」

ジェイドは思わず女神様と呼びかけた途中で気づき、さりげない様子で、フロルと言い直した。
女神試験には無事不合格となったが、フロルとジェイドの関係は良好だった。

「それで、リルは今どこに?」

「あの、弟のウィルと一緒に外で追いかけっこして遊んでます」

「そうかい」

窓から外をちらりと眺めたジェイドは、不思議そうな顔をする。

ジェイドが眺めた庭には、楽しそうに遊んでいる男の子が二人。小さいほうの子がリルだろう。
そして、庭にもう一人の騎士らしき人物を見つけ、不思議そうな顔をする。

「ほら、あそこにもう一人、若者がいるけど、彼は誰?」

ギルが穏やかに助け船を出した。

「ああ、あれは見習い騎士の若手だ。都合があってこれから途中まで一緒に道のりを同行する予定です」

ギルが感じよく説明してやると、ジェイドは納得したようにうなずく。

「まあ、一応、子守って感じだね」

「それで、パーセル殿はこれからどうされるおつもりで?」

ギルがさりげなく大神官の今後の予定をチェックする。本当は、フロルとの休暇を邪魔されるのではないかと、少し心配していたのだ。フロルとギルは、あと一日、二日、ダーマ亭に滞在してから、ギルの故郷に婚約の報告もかねて帰るつもりだったのだ。

「リルがどうして子供になったのか調査するようにと殿下から言付かってきた」

ちっ、神力の残渣あるって言わなきゃよかった。

ライルがそっと静かに舌打ちしながら、微かに呟いたのをフロルは聞き漏らすことはなかった。
他の人には聞こえていなかったので、フロルはほっとしつつ、おそるおそる、ジェイドに問う。

「……ということは、もしかして……」

彼に尋ねなきゃよかったと、フロルは少し後悔する。リルの原因を探るということは、つまり……

「そう。君たちの休暇に申し訳ないけど、同行させてもらうことに決まったよ」

やっぱりな、と言わんばかりに、ギルが額に手をあて、天を仰ぎみる。

「あの殿下が考え付くことはやっぱり……」

ため息まじりにがっくりと肩を落とすギルは、落胆の色を隠せないほど落ち込んでいた。

「俺たちは休暇なんだぞ」

そう呟くギルの傍らでは、フロルもぴくぴくと顔を引きつらせていた。あの殿下の頭の中には、遠慮するとか、配慮するって言葉はないのか。

せっかくの婚約旅行なのに。

まじか!と顔を青くするフロルの傍らで、ライルはさらっと素知らぬ顔をする。

「じゃあ、君たちは道中楽しんできてくれたまえ。私はそうそうに魔導士塔に帰ることにするよ」

神官が大嫌いなライルはあっさりとしたものだ。リルが子供になるという珍現象を前にして、あの好奇心のみで動くライルにしてはものすごく珍しいことなのだ。

「ライル様、もうお帰りになると?」

この魔術オタクがあまりにもあっさりしているので、フロルが怪訝そうな顔をすると、ライルは嫌そうな顔でジェイドを眺めていた。

もとからライルは神官が大嫌いであるが、バルジール元大神官を前にしてもこれほど嫌そうな顔はしていなかった。正直な所、あの嫌味なバルジールとは天と地ほどの違いがある好青年である。

それでも、ライルはジェイドのほうが、バルジールより苦手らしい。

「ああ、そうだ。それでノワール魔道師長、殿下から貴方に言づけが」

ジェイドがそういうと、ライルはぎくりとした顔で彼を見返した。

「……まさか、この件について、まさか、この私にも調査に加われとか言うんじゃないだろうね?」

「ふふ、あの殿下の言うことだ。よくご存じではないかな? ノワール殿」

その言葉を肯定するかのように、ジェイドは目を輝かせながら、ライルを見つめた。



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