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父と娘、必ず帰るから

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深夜に鳴った通信機。王都の近衛騎士からの情報で、マグノリア国の北の辺境領に隣接する国、ソハナスからの侵攻軍ありとの情報が入った。


北の辺境領の騎士を総動員させるため、クレイドルは騎士団の詰所へと向かっていた。屋敷を出ようとした時、追いかけてくる足音が聞こえた。


「お父様!」

「・・・あぁ、エルサか・・・」


クレイドルは振り向きもせず、武装の準備をしながら、一人娘のエルサに声をかける。


「・・・何事ですか」

「隣国から侵攻軍が向かってきているそうだ。王都や西の辺境から援軍を寄越してくれるそうだが、一刻を争う」

「お父様は前線に?」

「あぁ、そのつもりだ」

「では、私も!」

「いや、それは認めん」

「どうしてですか!このような時の為に日々鍛錬をしているのですよ!今戦わずして、いつ発揮すると言うのです!」

「エルサ・・・お前はナタリアとの大事な宝だ。頼む・・・命をかけるなんて真似してくれるな」

「・・・私では頼りないですか?お力になれませんか・・・」

「エルサ・・・」


クレイドルはゆっくりと振り向くと、エルサの瞳をじっと見つめる。


「お前はエメラルドのような綺麗な瞳をナタリアから継いだ。その瞳を見ると、いつでもナタリアを思い出す。お前は俺達夫婦の自慢の娘で、大事な宝なんだ」

「それは承知しています。お母様の事はあまり覚えていませんが、お父様はいつもお母様の事をお話になります。とても優しくて素敵な方だったと。お父様が、そのお母様の分まで、私を可愛がって愛してくれているのは百も承知の上・・・お父様、私にできる事はありませんか?」


クレイドルは、ゆっくりとエルサに歩み寄ると、背中に手をまわし、しっかりと抱きしめた。


「待っていてくれ。俺が無事にここに帰り、お前との楽しい毎日をまた過ごせるように、お前がここで待っていると思えるように、ここにいてくれ」

「・・・わかりましたわ・・・」

「ありがとう・・・エルサ」


クレイドルがエルサから離れると、真剣な瞳が自身を捉えていた。


「エルサ、王都の騎士団より預かっていた通信機のおかげで、後手にまわる事なく立ち回りができるのはとても幸運だと思う。だが、その情報はいかにして近衛騎士団が手に入れたのか・・・少し疑問にも思っている。この地に隣接するソハナスの事は、我々が一番に情報を得るはずなんだ。だが、今回は王都からの通信でこの事を知った。しかも、国境の砦からの伝令などではなくてだ。という事は、ソハナスの動きを察知した。もしくは動くことを知っていたという人間がいた事になる・・・エルサ・・・正義感の強いお前なら・・・許すことはできまいな・・・」

「・・・もし、企てた人間がいるとするならば・・・無駄な争いを起こしたとして静粛したくなりますね」

「そう言うと思ったよ。エルサ、とにかく待っていてくれ。俺は必ずここに帰ってくる」


そ言うと、クレイドルは踵を返し歩いていった。エルサは、その背中をじっと見つめていた。






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次回

本当に、軍の侵攻だけですむと思うか?





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