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休暇七日目②【エルサ×レティシア】それでも違う

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「そういう事だったのですね」


レティシアの目の前でエルサが盛大なため息をつく。朝食の場でイチャイチャするのを見せつけられ、二人もやってみるかなどと言われ、心が大いに乱されたエルサ。今は、木陰でエルサと二人、少し離れたところでウィルフレッドとソルディオが剣を交えているのを見ていた。


「大体、何故あの場にソルディオがいたのかと思っていたのです。食事に誘うほど仲を深めたのかと思いました」

「ウィルが牽制してるから、副騎士団長様とは何も話せてないわ」

「そうだったのですね・・・私は」


そう言いかけてエルサはウィルフレッドと剣を交えるソルディオに視線を向けた。


「・・・彼の気持ちに応えることはできませんわ」

「あら、どうしてです?辺境の婿に迎えるにはぴったりだと思ったのですけれど」

「確かに人としては十分すぎる程の人です。貴族の子息なのに辺境の騎士団に入り副騎士団長までのぼり詰めました。彼の努力は相当なモノです」

「その努力が実ったと?」

「えぇ、誰もが認める実力者ですわ」


そう答えるエルサの横顔を見て、レティシアは思案した。


「エルサ様、彼の努力のゴールはそこではないのかもしれませんわ」

「どういう事ですか?」

「上を目指したのは、他の誰でもなく、隣に立ちたい人がいるからなのではないでしょうか?」

「隣に立ちたい・・・人」


エルサはじっとソルディオを見つめる。


「それでも違うんです」


エルサの口から出てきたのは、考えてみるなどの曖昧なものではなく、しっかりとした否定だった。それはソルディオの失恋を意味するもので。


「エルサ様、何が違うのですか?」

「・・・彼に不足はありません。レティシア様が言う通り、彼ならのちに辺境伯も務まるでしょう。ですが・・・それでもやっぱり違うんです」


エルサの表情が少しずつ暗くなり、次第に俯いていく。


「辺境伯家の娘・・・それが足枷になっているのですね。私だって同じ考えでしたよ?ウィルと出会うまでは」

「そうなのですか?」


エルサが弾かれたように顔を上げレティシアを見つめる。まるで続きが聴きたいと急かしているかのように。


「私には姉がいるでしょう?姉は辺境の殺風景な所をあまり好きではないのです。輿入れして華やかな王都の街に行きたかったようなんです。それを知っていた私は、婿をとって辺境を継ぐのは私と思ってました。だから、男女の出会いには興味がなかったし、興味を持っても無駄だと自分に言い聞かせておりました。でもウィルに出会って変わったんです」

「辺境を継がねばならない事ですか?」

「いいえ、それは結果に過ぎません。ウィルは公爵家の嫡男であるにもかかわらず、辺境に婿入りすると言ったんです。でも待ったをかけられて、姉の元に第二王子殿下が来る事になりましたのよ。でもそれは結果。ウィルは私がずっと無視し続けても、愛を請うてきました。そして言い続けてきたんです」


レティシアが一息つくと、シンと静まり返った。


「そのままの君が好きと」

「そのままの・・・君が好き」

「エルサ様は、ご自身の生い立ち、考え、今後の事、全てを受け入れて対等な立場でいてくれる方を望んでいるのでしょう?」

「えぇ・・・」

「きっと現れますわ。私とウィルのように」


にこりと笑うレティシアの瞳は優しさで溢れていた。恋や愛に興味はあっても辺境を継がねばならないという気持ちが足枷になる。いつかの自分を見ているようだった。ソルディオに対しては可哀想だけれど、結婚は長い付き合いになるもの。例え政略結婚だとしても幸せになって欲しいと思うとレティシアは思っていた。納得のいく相手と。私のようにと。





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