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休暇九日目②家令のハンス

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「ははは!だからそんなに不機嫌なのですか・・・クククッ」


ウィルフレッドとレティシアを前に大きな声を上げて笑う男。彼はこの公爵領の経営管理の代理を任されているハンスという男だ。アバンス公爵の古くからの知人である。


「いや、失礼した。まさか犬、猫にまで嫉妬なさるとは、ご子息も変わられましたなぁ」

「人はまだ遠慮もすれば言葉は通じる。たまに言葉の通じない奴もいるが、どうとでもなる・・・動物は言葉も通じないなら、身勝手に自由で遠慮もしない」

「確かにそうですが、それにまで嫉妬をしていては夫人に愛想を尽かされますぞ?」

「なっ!?・・・シ、シア?」

「私だってたまには動物を愛でたい時だってあるわよ?」

「・・・す、すまん・・・」

「クククッ・・・カハハッ!!いやぁ、久々に大笑いしましたぞ!」

「笑いすぎじゃないか?」

「惚れた弱みとはこの事ですなぁ。自信を持っておられたウィルフレッド様も夫人に愛想を尽かされるのは怖いと。何かの時のための切り札として覚えておかねばなりませんな」

「そんな切り札易々と使われては困るんだが」

「ここぞの時には有用でしょうな」


ハンスはニコニコとして二人を見ている。対しウィルフレッドはムスッとした表情である。隣で苦笑していたレティシアが口を開く。


「ハンス様はお義父様とは旧知の仲だと聞いておりますわ」

「はい、私は昔、学園時代に公爵様と知り合いになりまして。それからの付き合いでございます。騎士を目指していたんですが、見習い騎士の時に、とあるご子息を庇ったことで怪我を負ってしまいましてね。日常生活には問題ないのですが、剣を持つことはもう難しいと言われてしまいました。当時は荒れましたよ。先が真っ暗で何も見えなくなって、塞ぎ込みました。そんな時公爵様に声をかけていただいたんです。自身が公爵の地位を継ぐことになり、公爵領の管理をしていた家令がだいぶ歳を重ねていた事で、代替わりを考えているとの事でした。当時の家令の方に習いながら徐々に慣れていけばいいと助けると思ってやってもらえないだろうかと。塞ぎ込んでいるままでもどうしようもない事はわかっておりましたからね。その話に飛びついた次第ですよ」

「そうだったのですね。お義父様は最初から目をつけておいでだったかもしれませんわね。きっとバンス様のお人柄をお気に召しておいでだったのですわ」

「そう言って頂けると、全てが報われますな。まるで女神様のご信託のようだ」


ハンスは神々しいものを見るようにレティシアに見入っていた。




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