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後ろ姿に
しおりを挟む国王レオナルドが謁見の間へと移動するのに伴い、ウィルフレッドとレティシアも後に続く。ウィルフレッドは、レティシアの手を引いたまま離そうとしない。謁見の間に着くと、第一王子であるヴィンセント、第二王子アルバート、宰相、副騎士団長のアイオロスも揃っていた。王座の椅子の前に整列し今日出立をする三人も待機している。
「待たせたな」
国王がそう声をかけながら、王座の椅子へと深く腰をかける。三人は頭を垂れたままの体制で次の言葉を待った。
「三人とも面を上げよ」
三人は、静かに姿勢を正す。
「此度、三人には新たな任務についてもらうべく、本日北の辺境へと出立してもらう。それぞれに課せられたもの、期待されている事はある。だが、これは罰ではない」
そう言った国王の表情は朗らかだった。三人、特にレイバンとマクシミリオンは、いっその事罰だと言ってくれた方が気が楽だっただろうなどと考えていた。だが、罰ではないと言われる事で、許されているでもなく、次はないぞと言われているようで、逆にその言葉が重くのしかかってきた。
「そなた達はまだ若い。これからの未来に、何が起こるのか、どう変化をもたらしていくのかは己次第だ。期待しているぞ」
国王の言葉に三人は深々と頭を下げた。
「堅苦しい挨拶はこれでよかろう。遅くなっても危ない。早めに出発したがよかろうな」
国王は宰相へと目配せする。
「はい、そのように」
宰相が返事をすると、三人を辺境へと向かう馬車へと案内し始めた。その様子を見ていたレティシアが、隣に立っていたウィルフレッドの袖をクイクイッと引っ張る。その感触に、にやけてしまいそうになるウィルフレッドだったが、レティシアが望むことがわかってしまい複雑だ。
「ウィル、私達も行きましょう?」
「・・・本当に話をしておかないとダメか?」
「あら、じゃあ、私一人で北の辺境まで行ってもいいの?」
「それはダメだ」
「でしょう?」
「・・・はぁ・・・わかったよ。でも、俺から離れないでくれ」
ウィルフレッドは、レティシアの手をぎゅっと握りしめると、ゆっくりと歩き出した。まるで時間稼ぎでもしているような、ゆっくりとした歩みだ。これにはレティシアも苦笑いするしかなかった。少し離れた距離、前を歩く三人の姿。今、何を思って、何を期待して、何を覚悟しているのだろうか。王都から全てを持っていく事はできない。それは物に限らず、過ごした時間や思い出、そして大切な人や、友人。全てを置いて、必要最低限の荷物で。彼らはこれから道を切り開いていくのだろう。でも、きっと大丈夫よ。そうレティシアは三人の背中に声なき声をかけていた。
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