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二人だけの時間の産物
しおりを挟む王城での事も済み、公爵家の屋敷に帰ってきた二人。夕食も湯あみも済ませ、レティシアは寝台でくつろいでいるうちにうとうとし始めていた。誰かが部屋に入ってくる音がする。ノックもなしに、伺いもなしに入ってくるのはウィルフレッドだけだろう。レティシアは重たくなりかけた瞼をうっすら開ける。視界にはぼんやりと人影が見える。
「どうしたの、ウィル?」
「ん?シアは寝顔も可愛いなと思ってな」
部屋に入ってきたウィルフレッドは寝台に乗り上げ、レティシアに覆いかぶさるようにして見下ろしていた。そのまま横になるのかと思いきや、ウィルフレッドはずいっと下の方へ下がる。何をするのだろうと様子を伺っていると・・・ウィルフレッドはレティシアの胸に顔を埋めて甘え出した。
「くすぐったいわ」
「ふふっ、すまん」
レティシアは気だるい身体を動かし、ウィルフレッドの髪を梳くように撫でる。はじめは擦り寄っていたウィルフレッドも、レティシアの手のあたたかさと感触を味わおうと頭を動かすのはやめた。すりすり・・・レティシアはゆっくりとウィルフレッドの頭を撫でる。
「シアは・・・誰にも渡さない」
「ん?どうしたの?」
「・・・シアは俺のだ」
「そうよ?それがどうかしたの?」
ウィルフレッドは昼間の会話の中で、レティシアがソハナスを乗っ取ると言い出した事を思い出していた。何か仕掛けようとしているのはいいとして、自身がソハナスへ出向いて何か危険な事をしようとしているのではないかと気が気ではなかった。物理的に危険な事もあるだろうが、一番の危険はなんと言っても国王だろう。
「なぁ、なんでソハナスを乗っ取るだなんて言ったんだ?本当に国が欲しかったのか?それとも・・・王女の血筋・・・王族として生きたいのか?」
「そんな事思ってもいないわ。何も王族でなくったって楽しく過ごせることはいくらだってあるわ。それに私は今の環境に満足しているの。わざわざ情勢の良くない国の王族になろうなんて思うとでも?」
レティシアは自身の胸に顔を埋めているウィルフレッドを覗き込むように見つめる。
「いくら王族になれるとか、いい暮らしができるなんて言われても、そこにウィルがいないならダメよ?私がいるべきはウィルの側でしょう?」
「あぁ、もちろんだ」
ウィルフレッドはゴロンと横に寝そべると、レティシアの腰を抱き寄せ、また胸に顔を埋めた。随分と心配しているようだが、ウィルフレッドは眠れるだろうか・・・そんな心配は稀有だった。そうしないうちに寝息を立て始めた。安心しきった寝顔。これは誰にも見せたことのないレティシアと二人だけの時間の産物だ。
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